インド映画がここにきてまたも脚光を浴びている。

きっかけは昨年公開されたS.S.ラージャマウリ監督によるスペクタクル・アクション・ファンタジー・ミュージカル史劇『バーフバリ 伝説誕生』(2015年)、『バーフバリ 王の凱旋』(2017年)の前後編がリピーター続出のクリーンヒットになったことで、これを受けて今年6月1日から『バーフバリ 王の凱旋』、10月26日からは『バーフバリ 伝説誕生』のオリジナル・テルグ語完全版が上映。応援上映なども各地で盛んに開催されている。

この波に乗ってか、8月には同じラージャマウリ監督の『マガディーラ 勇者転生』(2009年)が公開されたばかり。また11月23日からかつてインド映画の一大ブームを築き上げた『ムトゥ 踊るマハラジャ』(1995年)が日本公開20周年を記念して、4K&5.1chデジタルリマスター版でリバイバル上映される。

また10月27日からは死期を悟った父とそれを見守る家族の交流を描いた『ガンジスに還る』、12月7日からは安全で安価な生理用ナプキンの普及に努めた男の実話を映画化した『パッドマン 5億人の女性を救った男』と、現代インドを背景にした感動作も続けて劇場公開される。

こうした中、実にユニークな長編アニメーション映画が、横浜シネマノヴェチェントで現在公開中である。

今からおよそ四半世紀前、日本のアニメ界がインドのスタッフと共同で制作した幻の超大作、その名も『ラーマーヤナ/ラーマ王子伝説』。まさに『バーフバリ』ファン必見のスペクタクル・ファンタジーなのだ!

インド古代叙事詩を映画化した英雄たちの神話

『ラーマーヤナ/ラーマ王子伝説』は、『マハーバーラタ』と並んで古代インドの二大叙事詩と謳われている『ラーマーヤナ』をアニメ化したもの。

古代インドのユーサラ王国の第一王子でヴィシュヌ神の化身でもあるラーマが、王宮内の陰謀に巻き込まれて追放され、妻シータ姫や弟ラクシュマンとともに14年間森を放浪することに。そんな中、魔族の王ラーヴァナの分別なき妹がラーマ王子によって森から追い払われたことでラーヴァナは憤慨し、その報復としてシータ姫を誘拐。ラーマ王子は鳥族や猿族の協力を得て、シータ姫を救出すべく魔族の棲むランカ王国へ向かう――

ラーマーヤナ/ラーマ王子伝説 ネタバレなし感想

(C)1993(株)TEM

王宮内での陰謀劇が繰り広げられる前半は、その危機に善処するラーマの人徳がそこはかとなく醸し出される作りになっている。そして後半、姫奪還に伴う一大バトル・スペクタクルは敵味方の魅力をふんだんに活かした、まさに天下一武闘会のごときダイナミックかつファンタジック、そして華やかな作りが楽しい。

中でも猿族の勇者ハヌマーンはキャラクターとしても出色で、伸縮自在の身体を駆使して敵と戦う姿はアメリカの人気ヒーロー、アントマンの原点のごとき頼もしさで、さらにはクライマックス、彼が大活躍するアッと驚くシークエンス(ってか、およそありえない⁉ でも面白い!)も用意されている。

インド・スタッフとの共同制作ということで、ファンお待ちかねのミュージカル・シーンもふんだん。こういったマサラ系エンタテインメントが、それこそ『ムトゥ 踊るマハラジャ』が公開される以前の日本で作られていたという事実にも驚愕させられる。

9年の歳月をかけて完成させた製作費8億円の超大作!

ラーマーヤナ/ラーマ王子伝説 日印合作アニメ

(C)1993(株)TEM

この作品、そもそもはNHK報道部出身でインドをテーマにしたドキュメンタリー番組を多数製作していた酒向雄豪が、1983年に『ラーマーヤナ』を題材にした番組を製作したことをきっかけに、この古代叙事詩のアニメ化を発案。さまざまな困難を乗り越えて、1991年に東京の広尾にスタジオを設けて制作を開始したものであった。
(ちなみに企画当初は宮崎駿に監督を依頼したが、結果としては断念。ただし、その経緯をきっかけに、1986年の宮崎監督作品『天空の城ラピュタ』ヒロインにシータと名付けられたというエピソードもある)

酒向は企画・製作・脚本(ヒンディー文学者&詩人のナレンドラ・シャルマと共同)、そしてインド・アニメ界のパイオニア、ラーム・モハンとテレビアニメ「タイムボカン」(1975年~76年)や「さすがの猿飛」(1982年~84年)などを手掛けた佐々木晧一とともに監督も務めた。

スタッフは作画監督にテレビアニメ「じゃりン子チエ」(1981年~83年)、「キテレツ大百科」(1988年~96年)、「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」(1996年~98年)などの小林一幸、美術監督はOVA(※)『火の鳥・ヤマト編』(1987年)や『劇場版NARUTO -ナルト- 大激変!幻の地底遺跡だってばよ』(2005年)などの松岡聡などの布陣。台詞は世界配給を想定して英語をオリジナル言語としたが、音楽監督ヴァヌラージ・バディアの指揮下、挿入歌はサンスクリット語を採用している。

※…オリジナルビデオアニメーションの略。初めからパッケージ販売・レンタルされるアニメ作品として制作されたもの。

数奇な運命を経て25年後に蘇った伝説的傑作

ラーマーヤナ/ラーマ王子伝説 あらすじ

(C)1993(株)TEM

かくして製作費およそ8億円、スタッフ総勢450名、手描きセル画10万枚を投じ、9年の歳月をかけて完成させた『ラーマーヤナ/ラーマ王子伝説』は、1993年1月のデリー国際映画祭でお披露目。現地のマスコミから「インドと日本の新しい友情の証」として絶賛され、その後世界各地の映画祭で上映され、2000年度のサンタクラリタ国際映画祭ではアニメーション映画最優秀賞を受賞している。

インド本国では限定的ではあったが正式に劇場公開され、DVD化された折は2005年度のインド最優秀DVD作品賞を受賞するなど、評価も知名度も高い本作。しかし日本では諸事情でなかなか公開が叶わず、結果としては1997年に東京国際ファンタスティック映画祭で上映された後、翌1998年にモーニングショーなど限定公開の域に留まった。国内でのソフト化も未だにされていない。

それからおよそ四半世紀の時を経て、酒向雄豪もこの世を去ったが、当時の関係者や有志などによって『ラーマーヤナ』日印共作25周年上映実行委員会が結成され、これを受けて横浜のシネマノヴェチェントで9月1日より長期ロードショーが実現することになったのだ。

しかも今回は35ミリのプリント上映。やはり手描きのセル画でアニメーションが作られていた20世紀の作品はフィルムで観たほうが味わい深いし、何よりもデジタルでしか上映できない映画館が圧倒的多数となっている昨今、実に貴重で贅沢な上映ともいえるだろう。

『ラーマーヤナ/ラーマ王子伝説』は少なくとも年内いっぱいの同館での上映が決定している。『バーフバリ』およびインド映画ファンはもとよりアニメ・ファンやライトな映画ファンなどにもぜひ幅広く観ていただきたい。

ちなみに現在上映中のものは135分英語オリジナル版で、現在国内にはそのプリントしか存在しないのだが、インド映画好きにとってはやはりインド圏内の言語で見直したくもなること必至(インドでは吹替上映&ソフト化されたとのこと)。また当時の日本アニメの味わいもあって、日本語吹替でも観てみたい欲求に駆られてしまう(もちろんそういったバージョンはまだ作られていないのだが)。

今回の上映を成功させて、ぜひそういった次なるステップの試みも希望したいものである。

(文・増當竜也)