文=平辻哲也/Avanti Press

長年、宮崎駿監督作品で作画監督を務め、監督作『茄子 アンダルシアの夏』(2003年)で高い評価を得た日本を代表するアニメーター・高坂希太郎氏が『若おかみは小学生!』で15年ぶりに劇場アニメを監督した。

同作は、発行部数300万部以上の大人気児童文学をアニメ化したもの。交通事故で両親を亡くした少女・おっこが、老舗の温泉旅館「春の屋」を経営する祖母に引き取られ、若おかみ修行をしながら成長していく姿を描く。

「宮崎さんは反面教師でもありました」と語る高坂監督。その理由とは……?

映画化のきっかけは趣味の自転車レース⁉️

『耳をすませば』(1995年)、『もののけ姫』(1997年)、『千と千尋の神隠し』(2001年)、『ハウルの動く城』(2004年)、『崖の上のポニョ』(2008年)、『風立ちぬ』(2013年)など。数多くの作品で作画監督を務め、ジブリ作品の骨格を担ってきたのが高坂監督だ。

『若おかみは小学生!』の高坂希太郎監督
撮影=平辻哲也

2003年には自身の趣味でもあった自転車レースの世界を描いた47分の『茄子 アンダルシアの夏』を監督。それから15年、今度は児童文学のベストセラーに挑んだ。

今回も、きっかけは自転車だった。

「5年前、自転車仲間から『テレビアニメの企画が動いているので、イメージキャラクターをちょっと書いてくれないか』と言われたんです。正直言うと、抵抗感がありました。

女児向けでかわいらしいキャラクターというのはなじみがなかったですし、そういう世界観が描ける自信もなかったんです。友人からの話でなければ、引き受けなかった」と振り返る。

アニメ版にない映画版の見どころ

しかし、その考えも、令丈ヒロ子さんによる原作を読み、一変した。「ベストセラーだけあって、すごく巧みな文章と、いろんなファクターが本当にうまくまとめてあったんですね。ちょっとびっくりしました。面白くて一気に20巻読んでしまいました」

『若おかみは小学生!』
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中
(c) 令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

「若おかみは小学生!」は今年4月からTVアニメが展開中だが、劇場版は原作では深く描かれていなかった、おっこ(声:小林星蘭)と亡くなった両親のエピソードも盛り込まれ、大人もホロリとさせられる良質な感動作に仕上がっている。

「小林星蘭さんは澄んだ子供らしい声で、おっこ“そのもの”になってくれました。非常によかったです。テレビは日曜日の朝早い時間の放送ということで、これから1日を頑張れるようなテイストで作品作りしていますが、劇場版はかつて読者で、今はそれなりに大人なっている方々にも観ていただきたいと思い、若干シリアスに話を構成しました」と明かす。

ロケ地は宮崎駿監督が絶賛する京都の高級旅館

製作に当たってはモデルの一つである兵庫・有馬温泉を取材。主な舞台「春の屋旅館」は京都の高級旅館・美山荘をモデルにした。

『若おかみは小学生!』
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中
(c) 令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

「美山荘は『風立ちぬ』の時に宮崎さんとジョン・ラセターさん(『トイ・ストーリー』シリーズなどで知られる元ピクサースタジオの監督)が行った旅館です。宮崎さんが『女将の所作がよかった、きれいだった』と言い、ラセターさんも喜んでいたそうです。

彼はあぐらをかけないので、膳の下から足を伸ばしていたらしいですが、そこに女将がきて、足の上にそっと手ぬぐいをかけてくれた。そういうおもてなしが心に刺さったらしく、宮崎さんが『よかった、よかった』と繰り返しおっしゃっていたのを思い出して、これは取材に行かなければと思ったのです」

宮崎駿監督は反面教師でもあった

前作『茄子 アンダルシアの夏』は宮崎監督から「読め」と原作コミックを手渡しされたことがきっかけ。宮崎監督が「モンチ(高坂監督の愛称)を助けてやってくれ」といった某映画プロデューサーへの一言で、TV局の参入が決まった。そんな恩人でもあった宮崎監督は、反面教師でもあったという。

『若おかみは小学生!』
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中
(c) 令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

「『茄子 アンダルシアの夏』の時は宮崎監督の“一番弟子”と書かれてしまったのですが、一番弟子ではありません。スタジオジブリは徒弟制度も敷いていませんし、スタジオジブリそのものが宮崎駿の作品を作る会社なので、宮崎さんは王様です。だから、強権を振るうことが可能ですけど、僕はそんなことはできないです。

宮崎さんは口では『いろんな人の意見を聞いて作っている』って、言いますけど、言える人はごく一部。みんな、何も怖くて言えないですよね」

「宮崎さんは良いが、自分はそれではダメだと思ったので、『反論、大歓迎』と言いました。宮崎さんは必ず代替案を出せというんですけども、みんな萎縮しちゃうんです。だから、代替案はなくていいから、『とりあえず何かあったら言って』と。それでもやっぱり言ってくる人は少なかったですけどね」

高畑勲監督との仕事

今年4月に亡くなった高畑勲監督とはTV版「じゃりン子チエ」(1981年〜1983年)、『火垂るの墓』(1988年)、『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994年)などでともに仕事をした。

『若おかみは小学生!』の高坂希太郎監督
撮影=平辻哲也

「宮崎さんは感覚優先。理屈を言うと、ちょっと癇癪を起こすところがありますが、高畑さんは理屈先行型。対照的で面白かったですね。また一緒に仕事していただけたら、かなりレベル高い作品ができたんじゃないかなと思います」と故人を惜しんだ。

現在は、アニメ「秘密結社鷹の爪」などで知られるコンテンツ制作会社「DLE」に所属。今後は作画監督から、監督業へシフトしていく。

「次の企画は進んでいるような、進んでないような感じでしょうか。まだはっきりしてないです。たくさん撮れるかは、分かりません。だって、1本に3年もかかってしまってはね……。もうちょっとどうにかしないと」

かつてはアニメ業界のロードレース「ツール・ド・信州」の常連の優勝者だった高坂監督。一段ギアを上げて走っていく。

『若おかみは小学生!』は9月21日(金)から、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中。