文=村尾泰郎/Avanti Press

激動の60年代。映画で日本社会に噛みついた、狂犬のような映画監督がいた。その名は若松孝二。高校中退でヤクザになり、ケンカで刑務所送りになった後、映画監督になってピンク映画(低予算・早撮りで量産された成人向け作品)の世界で活躍。次々とヒットを飛ばして「ピンク映画の黒澤明」と言われた男だ。

その一方で、その芸術性は海外で高く評価され、映画祭にも招かれた若松は、1965年に映画制作会社〈若松プロ〉を立ち上げ、日本の映画界で一匹狼を貫いた。若松孝二率いた若松プロとは、どんな集団だったのか。彼らが映画に賭けた日々を描いたのが『止められるか、俺たちを』だ。

個性豊かな才能を引き寄せた、若松孝二の人間力

『止められるか、俺たちを』
2018年10月13日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
(c)2018若松プロダクション

当時、若松プロは自転車操業で、給料も出ないブラック企業。それでも若松の作品と人柄に引き寄せられて、さまざまな才能が集結していた。

若松の右腕の脚本家/映画監督で、後にパレスチナに渡ってゲリラと活動を共にする足立正生。俳優、音楽、ポスターデザインなど多岐に渡って活躍し、若松プロを離れてから、無印良品や小泉今日子などさまざまなプロデュースを手掛ける秋山道男。鈴木清順の作品や『ルパン三世』『元祖天才バカボン』などアニメも手掛けた脚本家、大和屋竺など、個性豊かな面々が若松プロを支えていたが、そんななかにひとりの女性がいた。ピンク映画では珍しい女性の助監督、吉積めぐみが物語のヒロインだ。

『止められるか、俺たちを』
2018年10月13日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
(c)2018若松プロダクション

1969年、新宿でフーテン(仕事をせずに自由気ままに生きる若者)をしていためぐみは、映画の世界に興味を持ち、知り合いの「オバケ」こと秋山道男を通じて若松プロに入る。そこにたむろしていたのは、金はないけど映画への情熱に燃える若者達。映画について何も知らなかっためぐみは、若松孝二に怒鳴られ、こき使われながら映画作りにのめりこんでいく。

『止められるか、俺たちを』
2018年10月13日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
(c)2018若松プロダクション

若松プロで多くを学んだ白石和彌監督の想い

若松プロの仲間達と酒を飲みながら、映画や人生について語り合い、街角で映画に使う女優をスカウトし、時には万引きで物資を調達して、24時間、映画漬けの日々。自分で映画を撮る日を夢見る一方で、「自分は一体、どんな映画が作りたいんだろう……」という不安にも襲われる。そんななか、ついに映画を撮るチャンスが訪れる。

若松孝二ではなく、吉積めぐみを主人公にしたことが、本作の大きな特徴だろう。観客はめぐみを通じて若松プロに集う人々に出会い、若松孝二という男を知る。目の前にいるのは、自分より才能を持った人達とカリスマ映画監督。そんななかで仕事をする興奮とプレッシャーが、映画から生々しく伝わってくる。

それもそのはず。本作の監督を務めた白石和彌(『凶悪』『彼女がその名を知らない鳥たち』など)は若松プロ出身。かつて、めぐみと同じ立場で若松孝二の下で働いていた時に感じていた想いが、この映画にたっぷりと込められているのだ。

『止められるか、俺たちを』
2018年10月13日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
(c)2018若松プロダクション

乱暴、ケチ、わがまま。それでいて憎めない男

めぐみを演じたのは門脇麦。アンニュイなムードのなかに情熱を秘めためぐみは力強い存在感を放ち、門脇麦の新たな代表作になった。

『止められるか、俺たちを』
2018年10月13日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
(c)2018若松プロダクション

一方、若松孝二を演じるのは、若松作品に何度も出演し、若松から大きな影響を受けた井浦新。乱暴でケチでわがまま。それでいて、妙に人懐っこく人望が厚い若松を熱演している。

そのほか、足立正生の映画に主演したことがある山本浩司が足立を演じたり、寺島しのぶ、渋川清彦、満島真之介、タモト清嵐など、若松作品に参加してきた役者達が多数参加。それぞれが「若松プロで学んだこと」を力一杯吐き出している。

『止められるか、俺たちを』
2018年10月13日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
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何者でもない若達の愚かで愛おしい青春群像

しかし、本作は若松プロの活動を記録した映画ではない。ここで描かれるのは、自分の夢を必死で探した若者たちの姿だ。「やりたいこと」を全力でやり続けている大人・若松孝二に触発されて、若者達は負けじと情熱を燃やす。

ある者は苦難の末に才能を開花させ、ある者は別の道を探して去って行く。まだ何者でもない若者達の愚かで愛おしい青春群像。若松プロを取り仕切る若松と足立がカンヌ映画祭に出掛けている間、めぐみや仲間達がハメをはずして屋上でパーティーをするシーンは、若さが持つ無垢なきらめきに満ちている。

『止められるか、俺たちを』
2018年10月13日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
(c)2018若松プロダクション

でも、本作は〈あの頃〉を振り返る甘酸っぱい映画ではない。ベトナム戦争や学生運動で不穏な空気に満ちた社会のなか、若松プロに集った若者達は、本気で映画を通じて世界を変えようと思っていた。そんななか、めぐみは自分の才能の無さや、女を捨てて仕事をすることの苦しさに次第に身動きがとれなくなっていく。

そして、そんな彼女を待ち受ける悲劇。若松孝二というヒーローを描くのではなく、傷だらけになりながら懸命に生きた無名の女性を描く。そこに若松孝二の作品に通じる底辺からの視線を感じずにはいられない。

『止められるか、俺たちを』
2018年10月13日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
(c)2018若松プロダクション

若松映画の根底に流れるパンキッシュな衝動

権力を徹底的に嫌い、「全部ぶちこわしてやる!」と世の中を挑発し続けた若松孝二。その生き様はパンクそのものだ。そのエネルギーが若者達を突き動かした。

本作のサントラを担当したのは、若松作品を愛するサニーデイ・サービスの曽我部恵一。ノイジーなギターと甘いメロディーから、登場人物たちが抱いている灼けつくような焦燥感や純粋さが伝わってくる。

『止められるか、俺たちを』という挑発的なタイトルは、「止まってないか、お前達は」と問いかけているようでもあり。本作は傷だらけになっても、たとえゴールに辿り着けなくても、全力で走り続ける者達に捧げられた物語だ。

『止められるか、俺たちを』
2018年10月13日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
(c)2018若松プロダクション