2016年に急逝した漫画家・小路啓之の同名コミックを、千原ジュニアを主演に迎えて映画化した『ごっこ』が10月20日より公開される。『ポルノスター』(1998年)で本名の千原浩史名義で主演を務めたときから、狂気じみた圧倒的な存在感を放つ俳優として、その才能を高く評されてきた千原。もしもバラエティ番組から受ける印象のままスクリーンで千原の演技を目の当たりにしてしまったら、きっと度肝を抜かれるはずだ。

司会から作家、落語、俳優もこなすマルチな才能

お笑いコンビ「千原兄弟」として活躍しながらも、数々のバラエティ番組で司会を務め、幅広い層から高い人気を誇る千原ジュニア。雑誌の連載コラムやエッセイを始め、小説などの著書も数多く手がけ、近年では落語にも力を入れるなど、並み居るタレントの中でもその多才ぶりは群を抜いている。

2015年の結婚後、2017年には父親となり、芸人仲間からは「ジャックナイフがバターナイフに成り下がった」とまで言われるほど丸くなったと揶揄されるが、俳優としての千原の切れ味は、いまだ健在だ。

最新作となる『ごっこ』では、実の親からの虐待が疑われる少女を誘拐し、自分の子どもとして育てる中年ニートの城宮を熱演。スキンヘッドや老けメイク姿まで披露しているのだ。

(C)小路啓之/集英社 (C)2017楽映舎/タイムズ イン/WAJA

まるで青春映画のようなスクリーンデビューまでの道のり

そもそも千原がスクリーンデビューしたきっかけは、映画監督志望で当時ライターだった豊田利晃との出会いに遡る。

とある雑誌の企画で「千原兄弟」の密着取材をすることになった豊田が、取材対象である千原と意気投合し、「いつかお前を主演に映画を撮る」と宣言。もちろんその時点では映画を撮る予定も何も決まっていなかったにもかかわらず、その数年後に豊田にとってもデビュー作となる『ポルノスター』で見事約束を果たしたというわけだ。

まるでそのまま青春映画になりそうなエピソードは、去る9月22日に豊田監督作『泣き虫しょったんの奇跡』の公開とスチール作品集『MOVIE STILLS TOSHIAKI TOYODA FILMS 1998-2018』の発売を記念してテアトル新宿にて開催された「豊田利晃監督オールナイトミーティング」のゲストとして千原ジュニアが登壇した際にも、本人の口から当時の思い出とともに明かされた。千原の著書『3月30日』にも詳しく綴られているので、この機会にぜひともチェックしてみて欲しい。

(C)小路啓之/集英社 (C)2017楽映舎/タイムズ イン/WAJA

「ジャックナイフ」さながら全身からヤバさを漂わせる狂気の演技

『ポルノスター』で千原が演じたのは、モッズコート姿でエナメルのマジソン・バッグに大量のナイフを忍ばせ、何の躊躇もなくヤクザを刺し殺すナイフ遣いの「荒野」だ。まさに「ジャックナイフ」というニックネームそのままの危険な雰囲気をまとい、とてもじゃないが「無軌道な若者」というような言葉では表現しきれないヤバさが全身から漂っている。

その演技が注目を浴び、実在の大学生殺人事件をもとに映画化した『HYSTERIC』(2000年)で主演を務め、見事「第10回日本映画プロフェッショナル大賞」の主演男優賞を受賞。ナイーヴでキレやすく「太く短く生きて死ぬ」が口癖で、車上荒らしや空き巣を繰り返す智彰を演じた千原は、ヒロインの真美役を演じた小島聖とともに激しい濡れ場も披露している。

その後も豊田作品にはドキュメンタリー映画『UNCHAIN アンチェイン』(2001年)でナレーションを務めたほか、『ナイン・ソウルズ』(2003年)では原田芳雄や松田龍平らとともに刑務所から脱走する「伝説の暴走族」という役柄で出演。近年ではテレビドラマ「新・ミナミの帝王」の萬田銀次郎役がハマり役だ。

『ごっこ』は、2015年12月から2016年1月にかけて撮影が行われていたが、諸般の事情で公開が遅れ、お蔵入り寸前と言われていた作品だ。40歳の引きこもりのニートである主人公が、誘拐した5歳児を自分の子どもと偽り、訳ありの実家で「パパやん」と「ヨヨ子」として真の親子さながら、父として奮闘する姿が描かれる。自身も芸人になる前は引きこもりだったという千原が、リアリティ溢れる演技で、狂気を内包した不器用な中年男の父性を体現しているのだ。

(C)小路啓之/集英社 (C)2017楽映舎/タイムズ イン/WAJA

映画の終盤、千原の鬼気迫る表情と「声にならない声」が、バラエティで見せる笑顔を完全に封印し、監督の求めるままに応える一人の役者としてスクリーンに大写しにされるシーンがある。そこにはきっと、今まで見たこともない俳優・千原ジュニアがいるはずだ。バラエティなどで魅せる芸人やタレントとしての側面しか知らない人たちにこそ、最新作の『ごっこ』の劇場公開をきっかけに、ぜひ『ポルノスター』や『HYSTERIC』などの過去作品を通じて、俳優・千原ジュニアに触れてみてほしい。

(文/渡邊玲子@アドバンスワークス)