文=圷 滋夫(あくつ しげお)/Avanti Press

大人の女性が抱える心の痛み(『ヴァイブレーター』『さよなら歌舞伎町』『彼女の人生は間違いじゃない』)や、中高生女子の切ない青春(『きみの友だち』『ストロボ・エッジ』『オオカミ少女と黒王子』)を描いて、優れた作品を生み出してきた廣木隆一監督。もともと多作で、さまざまなジャンルを横断する職人的な監督だが、最近は恋愛映画の名手として名高い。

本作『ここは退屈迎えに来て』では、何もない中途半端な地方都市で暮らす、27歳の元親友の女性2人が再会を果たし、高校の時に憧れの存在だった男性に会いにいくという現在の話と、彼女たちが過ごした高校時代の人間関係を交差させて描いている。

『ここは退屈迎えに来て』10月19日(金)全国公開
(c)2018「ここは退屈迎えに来て」製作委員会

現在と過去を行き来し、それぞれの思いを掘り下げた脚本

まず原作の短編集を群像劇に仕立て、登場人物が多いうえに時間軸が現在と過去を行き来する複雑さを逆に利点と捉え、見事に長編としてまとめ上げた脚本が素晴らしい。ストーリーは現在(2013年)と高校時代(2004年)、そしてその間の数年を行き交いながら、最初はバラバラの登場人物が脈絡なく描かれる。

しかし、少しずつその関係性が浮かび上がり、やがてそれぞれの思いが明らかになってくる。そして「ここが繋がってそんなことになるの!?」という驚きが何度もあり、まるでミステリー作品のようにも楽しめる。また群像劇の場合、脚本が弱いと人員整理に手間がかかりすぎて心理の掘り下げが浅くなりがちだが、本作は上手く強弱を付けて1人ひとりの感情をしっかりと描いている。

『ここは退屈迎えに来て』10月19日(金)全国公開
(c)2018「ここは退屈迎えに来て」製作委員会

多くの青春“胸キュン映画”とひと味違う苦み

今やコミック原作の“胸キュン映画”が量産される中、本作はそのあたりの作品とはひと味もふた味も違う。まだ何者でもない代わりに、未来への無限の可能性が広がっていて、その存在自体が眩しく輝いている高校生の青春。その期間限定の儚さゆえに輝いて見えるということを、また青春の後には厳しい現実が待っていることを、そして思い焦がれていたもの(たとえば地方都市における東京への憧れ)があくまでも夢でしかなかったことを、大人になった私たちはすでに知っている。

本作はそんな視点を物語に加えることで、時を経てからあの頃を振り返り、青春の光と影だけではなく人生の諦念と残酷さをも炙り出す。しかしそんな今だからこそ、あの頃がより一層キラキラ輝く、尊いものに見えるのもたしかなのだ。

『ここは退屈迎えに来て』10月19日(金)全国公開
(c)2018「ここは退屈迎えに来て」製作委員会

全編に流れるフジファブリックの曲が胸を熱くする

さて本作の楽しみの1つが、人気ロックバンドのフジファブリックによる音楽だ。さまざまな場面で書き下ろした楽曲と、彼らにとって初めてのスコアが流れるだけではなく、2009年に急逝した志村正彦在籍時の名曲「茜色の夕日」が、劇中歌として俳優たちによって効果的に歌われる。

特に、5分間にわたり門脇麦だけを捉えつづける長回しの中でこの歌を口ずさむ夜明けの場面と、渡辺大知がバイクを走らせながらシャウトする(渡辺のもう一つの顔であるボーカリストとしての本領を発揮!)場面は、フジファブリックの熱心なファンでなくとも胸を締め付けられる思いがするだろう。

日本映画界の若き実力派女優が勢揃いした“ショーケース”

『ここは退屈迎えに来て』10月19日(金)全国公開
(c)2018「ここは退屈迎えに来て」製作委員会

もう一つの見どころは、若手実力派女優陣の競演だ。橋本愛と門脇麦に関しては、もはや説明はいらないだろう。2人ともたしかな演技力で、今の邦画界で独特の存在感を放っている。柳ゆり菜はグラビアアイドルとしてのイメージが強いが、本作と現在公開中の主演映画『純平、考え直せ』(森岡利行監督)の演技でしっかり女優としての道を歩きはじめたことを示している。

すでに主演映画もある岸井ゆきのは、クールな佇まいで多くの作品に引っ張りだこだ。また去年のドラマ「セトウツミ」で少し前の江口のりこ的オフビートなノリで笑いを誘って注目を集めた片山友希は、その後も出演作が相次いでいる。そして本作が映画デビューながら、まったくイメージの違う2つの姿で未来への希望を託された木崎絹子も、将来が期待される逸材だろう。

人気劇団の主宰者に愛され、映画と舞台を自由に行き来

『ここは退屈迎えに来て』10月19日(金)全国公開
(c)2018「ここは退屈迎えに来て」製作委員会

面白いのは彼女たちのほとんどが、小劇団の舞台で主役に抜擢された経験を持っていることだ。門脇は(小劇団ではないが)アーティスティックな舞台で日本にも熱狂的なファンを持つ振付家・演出家フィリップ・ドゥクフレの「わたしは真悟」。橋本は今や若い女性に圧倒的な人気を誇り、チケットも即完売になる若手演出家・根本宗子の「夢と希望の先」。岸井は舞台経験も多く、山内ケンジ主宰の通好みの城山羊の会にたびたび出演し、松尾スズキの絵本をもとに劇団はえぎわ主宰ノゾエ征爾(岸田戯曲賞受賞)が作・演出した「気づかいルーシー」の主役を務めている。そして片山友希は、つねに人間の内面をえぐる骨太な内容で絶大な信頼を得ている蓬莱竜太主宰の劇団モダンスイマーズの「死ンデ、イル。」で、心がヒリヒリするようなシリアスな主役の女子高生を演じている。

彼女たちの演技には、たしかな目を持つ人気劇団の主宰者を捉えて離さない“何か”があるのに違いない。ちなみに本作の脚本を担当した櫻井智也も劇団MCRを主宰し高い評価を得ているが、映画の脚本は本作がはじめてとなる。

最後にもう一人。女優ではないが渡辺大知が、達観したような文学性の高い役を印象的に演じ、本作に陰影のある深みを与えている。彼の決して人に言うことのできない心に秘めた切ない思いは、まるでデヴィッド・ホックニーの絵画にオマージュを捧げたような色鮮やかなプールの中で水しぶきになり、まばゆい太陽にキラキラ光り輝きながら舞っていた。

『ここは退屈迎えに来て』10月19日(金)全国公開
(c)2018「ここは退屈迎えに来て」製作委員会