過激な役柄も、門脇麦が演じるといやらしくないのは、役の迫力に負けないパワフルな女優だから。

鬼才・若松孝二の助監督となった21歳のヒロイン・吉積めぐみを演じた、最新作『止められるか、俺たちを』では、実在した人物にトライした。

「最初は再現したい欲が強かったんですけど、めぐみさんについての手がかりが、残された写真と、当時の若松組のみなさんのお話から出てくるイメージでしかなくて。何も知らない女の子が、若松プロに飛び込む映画のストーリーと、若松監督とお会いしたことのない私が、この映画に飛び込むというのがちょっとリンクしてるんじゃないか? と途中で 思い直してからは、もちろん若松さんの資料は読める限りのものを読み、見れる限りのものを見ましたけど、役作りは特に何もしませんでした」

考えなくていいやって(笑)

(C)2018若松プロダクション

物語に引っ張られる“受け”の形で、観客を作品世界へと誘う主人公。作中、めぐみが時折口ずさむ『母のない子のように』が、彼女の抱える淋しさを象徴する。めぐみを若松プロへ誘ったフーテン仲間・秋山道男の作詞作曲による歌だ。

「実際に秋山さんと対面して、口移しで教えてもらいました。歌詞の意味は難しくてよくわからなかったんですけど、考えなくていいと秋山さんに言われて。歌う時も、言葉の意味を考えるのではなく、言葉の響きだけを感じながら歌って、と言われたので、じゃあ考えなくていいやって(笑)。でも、貴重な時間になりましたね。譜面もテレコもなくて、毎回音の高さも変わるのですが、そのアナログな感じや、めぐみさんは目の前の秋山さんが少年だった頃に出会って、青春を共にしたんだなって。その感じを肌でビビビッと感じて。自分の中で何かがうっすら見えたような、いい時間でした」

役の気持ちをどのように捉えたか

(C)2018若松プロダクション

時代の寵児・若松への憧れと、何者にもなれない自分自身への焦りとの間で葛藤する、めぐみの気持ちはどう捉えたのだろうか。

「そこはすごく共感できました。理想と現実って、特に若い頃は合致しないじゃないですか。理想は高くて、自分のことも過信してるから、いざ飛び込んでみたら、自分ってこんなに何にもできなかったんだ! って焦る。でも、がむしゃらになってつらいのは若いからだとひと括りにしがちだけど、大人の方だって、必死にもがいているうちに、だんだん疲れない生き方を身につけて、隠すのがうまくなっただけ。きっと誰もが持っている気持ちだと思うんですよね。いろんなことを知っていく中で、自分の立ち位置とか、何者にもなれない自分を、ある種受け容れてあげること、切りすてること、あきらめることを経験することで、うまくやっていく術を見つけて葛藤しなくなるだけで。しゃかりきな部分とか、理想と現実の間で何か思うことって、みんなあると思うから」

印象的なラストシーン

(C)2018若松プロダクション

役の戸惑いを特異なものではなく、普遍的な人間として繊細に造形することで、印象的なラストシーンが生まれた。

「部屋で薬を飲むシーンなど、最初の台本では明らかに自殺してしまったように見える描写がたくさんあったんですけど、撮り進めるうちに、そこはどちらともとれるようにしよう、というふうになっていったんです。たぶん白石さんの中で、めぐみさんは楽しい青春時代を送ったんだという部分を、大切に伝えたくなったんだろうと思います。現場でも『若松プロに入ってよかったって思ってるよ、映画の中のめぐみは』って何回もおっしゃっていて。普段そういうことをおっしゃらない方なので、印象に残っています。ラストシーンの歌う描写がありますが、それも現場で決まりました。若松プロのみんなと撮った写真を嬉しそうにさわりながら、歌ってたと思うんですけど『悲しいではなく、みんな楽しかったなって気持ちでやって』みたいなことを言われた気がします。もちろん淋しさのすごくある方だったと思うんですけど、その辺のバランスを白石さんが気をつけられているように見えました」

『キネマ旬報』10月下旬号では、「映画を咲かせる二十代の女優たち」と題して女優特集をおこなった。門脇麦のインタビューの続きをはじめ、黒木華、夏帆、趣里らへの取材のほか、今後の日本映画界で活躍が期待される女優6名なども紹介している。(敬称略)

取材・文=石村加奈/制作:キネマ旬報社