文=平辻哲也/Avanti Press

「国立映画アーカイブ」開館以来のフィーバーではないか。ユネスコ「世界視聴覚遺産の日」記念特別イベントとして開催された『2001年宇宙の旅』 70mm版特別上映(10月6、7日、11〜14日)。前売り券は数分で完売。手に入れることができなかった筆者は11日(木)、昼夜2回、各回約100枚が発売される当日券を求めて、足を運んだ。到着したのは開場3時間前の午前8時すぎ。ウイークデイだったが、既に老若男女が長い行列を作っていた。

しばらくすると、巡回にやってきた職員から「110人以上はいらっしゃるので、おそらく夜の回でしょう」と告げられた。あまりの長い列のため、午前10時過ぎに開館し、10時40分には整理券の配布も始まった。午後2時の昼の回の整理券は目の前で完売になり、夜6時半の回が確定。前売り券は営利目的の転売行為があったということで、整理券配布時には名前を記入、整理券と引き換えに本人確認が必要という徹底ぶりだった。

満員となった国立映画アーカイブでの『2001年宇宙の旅』 70mm版特別上映(著者撮影)

公開当時の趣を再現した70mmの「アンレストア版」

今回の上映は全6日間の日程で、計12回のみ。こんな大反響なのに、なぜ回数を増やすことができなかったのか? それにはこんな事情がある。

今回の70mmプリントは、カメラネガから作成した新しいプリント素材を基にフォトケミカル工程のみで作られたもの。1999年に権利元のワーナー・ブラザースがカメラネガの保護を目的にインターポジを作成。2017年秋、このインターポジをクリストファー・ノーラン監督が観て、70mm版の上映を提案。この結果、ノーラン監修の下、複雑なカラータイミングを経て、ネガにあった裂け目や傷を本来の姿として残したままプリントされた。よく「デジタルリマスター版」という言葉を耳にするが、こちらは修復なしの「アンレストア版」と呼ばれている。1968年当時の趣をそのまま再現しようという試みだ。

2018年5月、第71回カンヌ国際映画祭でプレミア公開された後、5月18日の米国をスタートに、イギリス、フランス、オーストラリア、ドイツ、イタリア、カナダ、アイルランド、ノルウェー、オーストリア、スコットランド、デンマークと欧州各地を順次上映され、ようやく日本にやってきた。この上映後も次のスケジュールが詰まっており、延期は不可能なのだ。「会期中も回数を増やせないか」との声もあったが、人員的にも体力的にも12回が限界ということだ。そもそも、70mm上映ができるのは「国立映画アーカイブ」が日本で唯一。ベテラン映写技師でも難しい映写方式に加え、1本しかないプリントのため、画面下に日本語字幕を映写するというやり方。さらにサウンドトラックは磁気が再生不能のため、1980年代に作られた35mm用の保存用素材を基に計6チャンネルをDATASAT方式で再生。これら3つをシンクロさせながら上映するのは超難作業だという。

上映後には映写技師に惜しみない拍手も

上映前には、この上映に尽力された研究員からの上映の経緯や解説も。「公開当時のテアトル東京のスクリーンサイズは高さ10m×横23mなので、このスクリーン(4.6×9.7m)の4倍は大きいので、それを想像して御覧ください」。上映はワーナー・ブラザース版の指示書に基づいての映写。本来は141分の作品なので、さほどの長尺ではないが、上映時間は休憩時間15分を含む164分。「前奏曲2分53秒(カーテンは閉じたまま、照明はほの暗く。映画が始まる前に、照明OFF、カーテンを開ける)」といった演出で始まり、徐々に映画の世界に誘う。DVDでは黒い画面に音楽だけだったが、こういう隠れた“演出”もあったのか、という驚き。

高精細の70mmとあって、色彩も豊か。デジタルのようなはっきりとした濃淡ではない、きめ細かさも感じられた。時折ある傷がフィルムなんだと実感させられる。上映が進むに連れ、傷はほとんど気が付かないほど映像にのめり込む。上映後には映画に拍手、さらには難作業に従事した映写技師にも贈られた。技師たちは会場に目を向けることなく、後作業に忙しくしていたが、その思いは届いただろう。

会場となった国立映画アーカイブ

完成まで4年。デジタル合成のない時代に驚愕の技術力

キューブリック監督が「長く語り継がれる優れたSF映画を撮りたい」と原作者のSF作家アーサー・C・クラーク氏に企画を持ちかけたのが1964年4月。公開直前の完成までに約4年を要した。基本的には二重露光といった最も原始的な技術を駆使して、精密さを目指した。それにしても、デジタル合成のない時代に、この技術力はハンパない。

確かにストーリーは未だ難解。初公開時は、専門家でさえあまりの難解さに理解不能だった。高名な米評論家ポーリン・ケイル氏も酷評した。当時、MGMの宣伝マンだった中狭亨さんは以前、こんな風に言っていた。「難解というのが評判になっていたので、3種のチラシを作って解説を重ねていきました。そのおかげで、インテリ層だけではなく一般の人まで宣伝が行き届いたのです。ただ、『わけが分からない』とお客さんには随分怒られましたよ」

頭で理解するより、大スクリーンで体感する映画

今回の70mm上映では、理解するよりも体感する映画という印象を新たにした。キューブリック監督は、“2001年”の世界に観客を連れていき、その世界を体験させたいと思ったのではないか。筆者もDVDで観て、すっかり『2001年宇宙の旅』を観た気になっていたが、その認識は間違っていた。これはスマホやタブレッド、テレビ画面ではけっして味わえない。これは大スクリーンで観てこその作品だ。貴重な70mm上映だったが、唯一残念だったのはスクリーンサイズだ。スーパーシネラマシアターを謳った「テアトル東京」のスクリーンに遠く及ばない。

『2001年宇宙の旅』
2018年10月19日(金)IMAXにて2週間限定上映
(c)2018 Warner Bros. Entertainment Inc.

IMAXの湾曲スクリーンにぴったりの構図

研究員は「この作品は湾曲スクリーンへの投影効果を前提に考え出された構図が多いのです」とも話していたが、実は製作50周年を記念し、初のIMAX版が10月19日から2週間限定で公開される。IMAXといえば、湾曲スクリーンが特徴。これほど、『2001年宇宙の旅』の上映にうってつけな映画館はない。どうせなら、大きなスクリーンへ。オススメは千葉・成田にある日本最大級のスクリーンサイズを誇る「HUMAX成田IMAXシアター」だ。スクリーンサイズは未公表ながら、「高さ14m×横24.5m」と言われ、テアトル東京のスクリーンサイズを凌ぐ。この機会にぜひ!