『あいあい傘』は、運命に翻弄され、25 年間会いたくても会えなかった娘・さつきと父・六郎の親子が再会するまでを描いた感動作だ。原案は、劇団・東京セレソンデラックスが2007年に上演した、同名タイトルの舞台。この舞台で主演・脚本・演出を務めた宅間孝行が11 年の時を経て、自らメガホンを取り、幻の名作を映画で蘇らせている。


25 年前に失踪した父親を探して恋園町にやってくる主人公・高島さつきを演じたのは倉科カナ。NHK の連続テレビ小説「ウェルかめ」のヒロイン役でブレイクし、現在は多彩な役柄を演じ分ける実力派女優として活躍している。5年ぶりの主演作となった『あいあい傘』で、父に対して複雑な思いを抱えるさつきを熱演した倉科カナにお話を伺った。

ほかの方が演じているところを見たくないと思った

Q:この映画のオファーをいただいたときのお気持ちは?

私はさつきと境遇が似ていて。台本を読んだ時に、「ほかの方が演じているところを見たくない、これは絶対に私がやるべき役だ」と思いました。衣装合わせに行った時、宅間監督に「父に会いに行くという思いだけで、撮影に挑んで良いですか?」とお聞きしたら、「良いですよ」とおっしゃってくださって。役作りをするというよりは、自分の中にある心の痛みを糧としてさつきを育てていきました。さつきの心の痛みを知っているからこそ、相手役の方の言動に敏感に反応して、演技のリアクションを変えることができました。

特にワンカットで行くシーンは、こういった臨機応変な演技の取り組み方が合っていたと思います。ワンカットのアクシデントをラッキーだと思うほど、お互いを信頼して演技をしていました。

Q:撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?

市原隼人さん、高橋メアリージュンさん、やべきょうすけさんと居酒屋で本音を語り合うシーンを撮った後、同じ場所で一緒に飲みました(笑)。その一方で、さつきの父・六郎を演じた立川談春さんと、六郎に25 年間寄り添う玉枝を演じた原田知世さんとは、現場で距離感を持つことを心掛けました。なるべく会わず、お話もしないように。かといって、殺伐とした現場というわけではなく、みんなが良い作品にしようとプロフェッショナルに徹していました。

Q:もっとも苦労したシーンは?

居酒屋のシーンです。25年前に姿を消した父が新しい家族と暮らしていることを知ったさつきは、憤りを隠せません。さつきを演じる自分でも、彼女からどういう感情が出てくるのか、分かりませんでした。ただ、酔っ払いの芝居にはしたくなかったので、緊張感を持って演技をしました。

市原隼人の男気! 蜂に刺されても演技続行!

Q:ワンカットならではのアクシデントは?

私も市原さんもアドリブを多く入れていたので、「こう来たか!」という楽しみがありました。ワンカットのシーンでは、何が起こっても最後までやり遂げることを心掛けていて。市原さんは蜂に刺されても演技を止めずに続けていました(笑)。残念ながら、そのシーンは本編に使われていませんが、すべてを残したいという気持ちで、撮影に挑んでいました。

Q:恋園町はとても雰囲気のあるところですね。

実は東京近郊で撮影をしているんです。恋園庵と恋園神社は別の場所で撮っているんです。階段をのぼると別の県だったり居酒屋のシーンは浅草だったりと、映画のマジックですね。こういうところが実際にあるかもしれないと思って観ていただけたら嬉しいです。

Q:この映画の中で、一番心に残っているシーンを教えてください。

さつきが父と再会する、ワンカットのシーンです。さつきが初めて父に声を掛ける、「こんばんは」のセリフがすごく好きで。テストで感情を出し過ぎないように、気を付けながら演技をしました。

(c) 2018 映画「あいあい傘」製作委員会

Q:最後に、この映画の見どころを教えてください。

登場人物それぞれ人間味があり、いつもそばにいる存在の大切さに気付くきっかけになるような物語だと思います。観終わった後、「誰に会いたくなりましたか?」と問いかけたくなる作品なので、多くの方に観ていただきたいですね。

『あいあい傘』
10月26日(金)より全国公開
配給:S・D・P
公式サイト:https://aiai-gasa.com/
(c) 2018 映画「あいあい傘」製作委員会

取材・文/田嶋真理 撮影/横村彰