その土地とそこに暮らす人々を題材にオリジナルの物語を立ち上げ、映画を撮ってきた瀬木直貴監督。『カラアゲ☆USA』(2014年)や『ラーメン侍』(2011年)など、食を取り上げることも多い瀬木監督の最新作は、日本人の食を掘り下げることでたどり着いた“日本酒”がテーマ。映画『恋のしずく』(2018年)は、日本三大銘醸地、広島県東広島市西条を舞台にオールロケで撮影された。その土地に滞在し、その場所とそこに暮らす人々の魅力を描き出し、街をもり立てる。そんな街おこしのような映画づくりについて聞いた。

酒処、東広島市・西条との出会い

(C)2018「恋のしずく」製作委員会

Q:今回の映画で“日本酒”をテーマにされたのは?

日本では、庶民から高貴な人まで、冠婚葬祭など人々のよろこびや悲しみとともに、いつも日本酒がありました。それで、日本酒を通して人々の生活を描きたいと思ったんです。ただ、日本酒は映像にするとただの透明な水ですし、その工程である「並行複発酵」(糖化とアルコール発酵を同時に行う発酵方法)は、非常に複雑で時間もかかるので、なかなか映画になりにくい。だからこそ、日本酒を正面から描いてみたいと思いました。

Q:映画の舞台はどのように探されたのですか?

北は秋田、福島・会津若松、新潟、富山、西は京都・伏見、兵庫・灘……日本の酒処は全国にあります。2016年に半年以上かけて、そうした土地に勉強に行かせていただきました。ずっと西へ。知人の紹介で、広島県にある竹鶴酒造株式会社の杜氏であり、今回監修を務めていただいた石川達也さんを訪ねました。石川杜氏に連れて行ってもらったのが西条でした。西条は石川杜氏のご出身地なのです。

Q:東広島市・西条を舞台にした決め手は何だったのですか?

(C)2018「恋のしずく」製作委員会

西条は駅前に7つの酒蔵が軒を連ねていて、旅情のあるすばらしい風景にまず驚きました。でも、それだけでは映画にしたいとは思いません。決め手は、そこで出会った人たちですね。この街には毎年10月に「酒まつり」という25万人以上が足を運ぶお祭りが30年以上も続いているんです。祭りの担い手である酒蔵の方たち、そして一般の市民の方たち、そういうみなさんと交流の輪が広がる中で「ここだ!」と思ったんです。
酒蔵の方も市民の方もみなさん口々に「この街を何とかしたい」「日本酒をフックにもっと西条という名前を全国に、世界に知ってほしい」とおっしゃるんです。そのエネルギーの大きさに、この人たちとならば大きな苦労があっても一緒に乗り越えられると思えました。

オールロケ、オリジナルの物語で撮る

(C)2018「恋のしずく」製作委員会

Q:監督はいつもその土地に滞在して映画を撮られますが。

僕は映画をずっとオールロケで撮ってきてもう16本目です。どれも原作はなくてオリジナルの物語です。物語は、机上でプランニングして書くのではなく、街と出会いそこに暮らす人たちと出会って、交流の輪が広がる中で物語が立ち上がっていきます。映画『恋のしずく』では2017年の7月から半年間、現地に滞在しました。

Q:その土地に入るときに大切にしていることは何ですか?

自分をニュートラルにおくことですかね。映画監督という肩書もなく、ひとりの人間として向き合う。今回の作品では、お酒がコミュニケーションの潤滑油になりました。日本酒はすごく奥が深くて、素材の味を引き出してくれます。たとえば、香り系のお酒で純米吟醸はクリームチーズや白カビ系のチーズとよく合います。そうした「この料理にはこのお酒」という絶妙な組合せを、酒蔵の人たちや杜氏さんがおしえしてくれた。そうした日本酒の魅力を伝えたいという思いがありました。

Q:映画の中では、世代交代や後継者問題などが描かれていますね。

(C)2018「恋のしずく」製作委員会

地域の人たちのさまざまな問題を聞くと、映画を通してその処方箋を出したくなってしまうんです。人口減少時代になって、“いけいけどんどん”の右肩上がりの時代は終わっているのですから、そういうときは課題と向き合うことが必要だと思うんですよ。
一方で、地域の人たちだけを対象とした映画ではなく、言語、民族、文化、国を超えて、世界に通用するような普遍的でクオリティの高い作品をつくるのが私のミッションです。

(インタビュー前編はここまで)

取材・文 天田 泉

瀬木直貴(せぎなおき)/映画監督
1963年、三重県出身。立命館大学卒業後、プロダクション勤務を経てフリーに。現在、映像制作会社ソウルボート株式会社代表取締役。映画監督、TV・CFディレクター、エッセイ・コラムの執筆、環境・人権に関する講演活動、各地のまちづくりアドバイザーを務めるなど、活躍の場は多岐にわたる。自然や地域コミュニティーをモチーフにした作品に定評がある。みえの国観光大使・四日市市観光大使・明和町観光大使・福島県しゃくなげ大使・宇佐市観光交流特別大使。2008年市制111周年記念・四日市市民文化奨励賞受賞。

『恋のしずく』
監督:瀬木直貴
脚本:鴨義信
音楽:高山英丈
主題歌:「細雪」和楽器バンド
出演:川栄李奈
小野塚勇人 宮地真緒 中村優一 蕨野友也
西田篤史 東ちづる 津田寛治 小市慢太郎
大杉漣
配給:ブロードメディアスタジオ
(C)2018「恋のしずく」製作委員会
10月20日(土) 丸の内TOEIほか全国公開
10月13日(土) 広島バルト11、T・ジョイ東広島ほか広島県先行公開
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