『るろうに剣心』シリーズの大友啓史監督&佐藤健が再タッグを組んだ映画『億男』。本作で、借金の返済に追われる主人公・一男が宝くじで当選した3億円を持ち逃げする親友・九十九を演じたのが高橋一生だ。『3月のライオン』シリーズ以来、2度目の大友組に「幸せな時間でした」と語った高橋が、初共演となった佐藤の印象や、変化する環境に対する考え方などを語った。

再びの大友組

Q:『3月のライオン』シリーズに続く大友組での撮影でしたね。

幸せな時間でした。大友監督とこんなにすぐにご一緒できると思わなかったので、うれしさしかなかったです。どうやって恩返しできるだろうという思いがこみ上げてきましたが、そればかり考えてしまうと良くないので、しっかり役を全うしようと思いました。

Q:大友監督は以前、高橋さんに「何もしない孤独をまとっているキャラクターを演じてもらいたい」と話されていました。その意味で九十九という役はピッタリのような気がしました。

本当に素敵な役をいただけたと感じました。何もしていないという意味では、大友監督から「ドキュメンタリーのように撮りたい」と言われたんです。最初僕はどういうニュアンスなのか理解するのが難しかったのですが、やりながら言葉の意味がわかってきました。

Q:大友監督の演出の魅力は?

俳優の芝居をしっかり見てくれているという安心感があります。演出面でも、細かくこうして欲しいということを決めて言わない方です。あと本作は小説を実写として映画化していますが、どうやったら生身に落とし込めるかということは、監督と健くんと僕でかなり話し合いました。最初がモロッコでの撮影だったのですが、そのとき脚本は完成していなかったんです。日本での撮影が始まる前に脚本は出来上がったものの、ラストの一男と九十九のシーンは健くん、監督と話し合いを重ねて、元の脚本からは大きく変わりました。本当にライブ感がありました。「ドキュメンタリーのように」という意味が実感できました。

Q:その意味では佐藤さんとの芝居の息は大切になってきますね。

健くん自体はとても華がある俳優さんなので、一男という役を「どのように演じるのだろうか」という興味があったんです。一男と九十九は合わせ鏡のような存在で、もし健くんが、眩しすぎるオーラをまとっていたら、どうなってしまうのだろうと思っていたのですが、本当に一男でいてくれたので、僕はとても助かりました。

Q:俳優のタイプとしてはどう感じましたか?

多分僕とは似ていないんじゃないかと思っています。撮影現場では「健くんはこうするのか」と思うことがたくさんあったので、とても新鮮でした。僕は自分の生き方に自信を持っているし、彼もしっかり自信を持って演じている。やり方は違うのですが、共有しようという空気にはなっていたような気がします。

自分に影響を与えてくれる存在

Q:九十九と一男のようなどんなことがあっても「変わらない関係」という出会いは、ご自身のこれまでの人生にありましたか?

あります。「ここで出会うか」という人はいます。自分の半身のような人。一男と九十九みたいに頻繁に連絡を取り合うこともないのですが、要所で突然連絡がきたり、こちらから連絡したり……。常にべったり一緒にいたり、毎週会ったりする関係ではないのですが、久々でもすぐに距離が縮まる存在です。

Q:俳優をされている方なのですか?

俳優の仕事をしている人です。誰だかは言いませんけれど(笑)。そういう人がいてくれるからこそ、自分の存在が確認できたりするんです。互いが共同体のように付かず離れず存在しているので「バカなことできねぇな。誇りを持って生きなければ」と思えます。彼の存在があったから、この映画の九十九と一男の関係もスムーズに理解できましたし、この映画をやって、また新たにその人との友情を見直すきっかけになりました。

Q:男の友情の距離感って難しくありませんか?

同性、異性があまり気にならず曖昧だった時代があって、そういう時期にできた親友は、今考えるとあまり周りの目を気にせずいろいろなことをしていた気がします。20代前半ぐらいのころは、男同士で小旅行とか行っていました。ガリバー王国のふもとで遭難しかけたこともありました(笑)。異性だったら気にするようなこと、例えば、山登りとかしていても、女性なら体力的なことに気を使いますが、同性だと「なにへばってんだよ!」みたいなことが言えたりしますから。

変わる人には変わるし、変わらない人には変わらない

Q:この作品は、急に大金を手にした主人公が、どうお金と向き合うか、そこから「変わってしまうもの」「変わらないもの」を見極めていくようなテーマも内在しています。高橋さんの取り巻く環境も近年、大きく変化したと思いますが、どんな気持ちで生活をしているのですか?

自分の本質というのは、どんなに環境が変わってもブレずに変わらないと思っているので、以前と変わらなく接してくれる人には自分自身も変わらずにいられると思います。もし変わってしまった人に会ったら、自分も変わっていいのかなと思います。相手が求めていることに応えることは決して悪いことではないですから。

Q:ご自身の本質は変わっていない?

そこは変わらないです。ただ「自分はこういう人間なんだ」というのは言語化できないように意識しています。それが明確に言語化されてしまうと、その言葉に縛られてしまう。多様性は持たせるようにしています。僕に対して、以前と違うことを求める人に対しては、それに対応する。変わったと思われても、それはそれでいい風に作用することもありますから。ただ、本質は変わりません。

Q:確固たる自分がある中、違うことを求められることにストレスは感じないのですか?

ないです。決して無理をしているわけではなく、相手が期待することに応えることができれば、円滑にコミュニケーションがとれるので。媚びへつらうわけでもなく、自分が下に降りるわけでもなく、人との関係性において「どれだけ楽しくやれるか」というのがベースにあるんです。

ヘアメイク:田中真維(MARVEE)

スタイリスト:部坂尚吾(江東衣裳)

取材・文:磯部正和 写真:高野広美