撮影機材の進化によって、たった数年前の時点では思いもつかなかった「どうやって撮影したの?」と思わせるような映像を近年よく目にします。例えば『search/サーチ』(10月26日公開)も、そんな革新的な映像体験が味わえる作品の一つ。本作の斬新なアイデアを含め、観客の“視点”を揺るがすような驚きの手法がとられた近年の映画を紹介したいと思います。

全編iPhoneのカメラで撮影!『タンジェリン』

2015年のアメリカ映画『タンジェリン』は、全編がアナモフィックレンズを装着した3台のiPhone 5Sで撮影されています。トランスジェンダーの女性たちの日常をリアルに描き出したコメディドラマですが、注目すべきは超低予算を逆手に取った独創的な映像世界。スマホならではの機動力を活かした自由自在なカメラワークが、主人公たちが行き来するロサンゼルスのストリートをイキイキと映し出しています。

そもそも、スマホでの撮影は、主人公たちのストリートライフをリアルに描くためのアイデア。YouTubeなどの動画共有サービスから、出演者をキャスティングした監督のショーン・ベイカーは、新人の俳優が緊張しないよう、映画撮影用の大きなカメラを使わず、普段からセルフィーを撮っているようなスマホを用いたそう。

ちなみに、ベイカー監督は次作の『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017年)で、女性キャストをInstagramで発掘。SNS時代を象徴するような製作スタイルで注目を集めているクリエイターです。

シネマカメラで撮影された映像に慣れている人は違和感を覚えるかもしれませんが、スマホでしか撮れない生々しさや、臨場感に溢れているのは確か。『オーシャンズ11』(2001年)のスティーヴン・ソダーバーグ監督も、最新作『アンセイン 〜狂気の真実〜』(2018年)で全編iPhoneでの撮影に挑戦しています。スマホのカメラ機能の向上と比例して、今後ますます一般的な手法として定着していくかもしれません。

FPSゲームのような没入感!『ハードコア』

日本で2017年に劇場公開され話題を呼んだ映画『ハードコア』(2015年)は、プレイヤー(=主人公)の視点で操作し物語が進行するFPS(First Person Shooter)ゲームのように、全編一人称視点で描かれた斬新なアクション映画です。人造人間になった主人公が、謎の組織にさらわれた妻を助けるために超人的な能力を駆使して戦うというシンプルなストーリーですが、終始、主人公の視点で展開する激しいガンアクションや、生身の肉体を活かしたアクロバティックな動作、超危険なカーチェイスなど、オープニングからエンディングまで、刺激的なシーンのオンパレード。まるで自分が映画の主人公になったような、高い没入感を味わうことができます。

この画期的な映像を可能にしたのは、エクストリームスポーツで重宝される小型&軽量のアクションカメラ・GoProです。GoProをヘルメットに固定する装置を開発したり、撮影用のGoProを約1ダース分もスタッフに提供したりと、GoPro社が猛烈に作品をバックアップ。これまでにない迫力の映像が体感できるのも、このアクションカメラの機動力を存分に活かしたからなのです。

映画の概念が変わる!?『search/サーチ』

『search/サーチ』は、従来の映画の概念を覆したと言われるほど画期的な作品。なんと、PCの画面上だけで物語の全編が完結してしまうのです。

本作は、行方不明になった娘の安否を案じる父親の独自捜査を軸にしたサスペンススリラー。16歳の愛娘・マーゴット(ミシェル・ラー)が忽然と姿を消し、家出か誘拐かもわからないまま37時間が経過。父親のデビッド(ジョン・チョー)は、彼女のPCにログインし、マーゴットが登録しているSNSにアクセスします。しかし、そこで明るく真面目な普段のマーゴットとは違う、父親の知らない娘の姿を目の当たりにすることに……。

本作ではPCのデスクトップ画面がスクリーンに映し出され、この画面から一度も出ないまま物語が展開。MessengerやFaceTimeなどのコミュニケーションツール、FacebookやTwitterなどのSNS……これら複数のウィンドウに、娘の実像が浮き彫りにされていきます。主人公・デビットは手がかりになりそうな情報を見つけると、刑事さながらの推理力を発揮。PCの画面上で娘の“足跡”を追跡していく描写は、デジタル社会ならではの説得力に満ちていて、手に汗握る緊迫感を増幅していきます。

本作のプロデューサーであるティムール・ベクマンベトフは、このコンセプトを “スクリーン・ライフ”と命名。すでに2016年公開の『アンフレンデッド』で映画にしていますが、『search/サーチ』で手法をさらに洗練させました。「僕らは今、1日の半分をデバイスの前で過ごしている。つまり、“スクリーン・ライフ”は僕らにとって極めて重要なものだし、僕らがどんな人間なのかを浮彫りにするものなんだ」(公式プレス資料より)と着想の理由を明かしています。

さらに、ベクマンベトフは「怒り、愛情、友情、裏切り、懐かしい思い出、ふざけた場面など、僕らの人生すべてがデバイス上で展開している。それを表現することは、現代人をリアルに描く一つの方法だと思うんだ」と演出面での効果も語っています。実際に、2018年のサンダンス映画祭で観客賞を受賞するなど、このリアルな表現手法が観客から高く評価されました。

映画における表現のスタイルは日々更新され、ほんの数年前の時点では考えられなかったような作品が誕生しています。今回挙げた3本のように、機材の進化によって生まれる新しいアイデアが、今後も観客に思いもよらぬ驚きを与えてくれることに期待したいです。

(文/スズキヒロシ・サンクレイオ翼)