文=木俣冬/Avanti Press

ライター木俣冬がお届けする【月イチ朝ドラウォッチ】第1回。

朝ドラことNHK連続テレビ小説「まんぷく」がはじまって1ヵ月。同作品の前の「半分、青い」はバブル、平成、21世紀、10年代と現代的価値観てんこもりの新しい朝ドラとして若い視聴者を増やしたと言われている。

それに比べて、「まんぷく」は昭和、戦中、戦後時代を描く従来のオーソドックスなもので、いわば原点回帰。視聴者の反応はいかに? と思えば、視聴率は「半分、青い」より高い。最初は前作の評価に引っ張られるというがそれにしても高い。3週までで一度も10%代に落ちたことがなく、平均は21.9%(ビデオリサーチ調べ 関東地区)だ。

どうやらオーソドックスな朝ドラを好む高齢者層が戻ってきたらしい。

インスタントラーメンを発明した実業家・安藤百福を支えた妻・仁子をモデルにした物語というのも、実に庶民的で親しみがもてる。ご丁寧に何度か屋台でラーメンを食べるシーンが出てきてラーメンが食べたくなった視聴者も少なくない。日本の食卓を変えた男・安藤百福に関してはたくさんの書籍が出ているが、妻・仁子のことは描かれているものがほとんどないため、彼女をモデルにしたヒロイン・福子(安藤サクラ)が自由に描かれることになる。

安藤百福をモデルにした萬平(長谷川博己)が次々事業に失敗するも、福子(安藤サクラ)が笑顔で応援して、やがてインスタントラーメンが誕生する。DREAMS COME TRUEによる主題歌「あなたとトゥラッタッタ♪」は“頑固で面倒で腹も立つ”人を“誇りで自慢で覚悟なの”と歌うとおりに福子は出会ってすぐ、結婚する前から萬平を内助の功で助ける。

1ヵ月でばっちり基礎固め!頼もしき脚本家は福田靖

この1ヵ月の展開はスピーディで、第1話から福子と萬平は運命の出会いをして、6話で告白、12話で萬平は無実の罪で憲兵に捕まり、福子が奮闘して助け、18話では晴れてふたりは結婚した。そして4週目には萬平に召集令状が……。でも萬平と福子の夫婦の物語なので萬平の身は安全なのはわかる。戦争が終わると、萬平がいろんな事業に手を出しては失敗し……夫婦で苦難を乗り越えていくという流れだろう。第5週で早くも終戦を迎えるらしい。

連続テレビ小説「まんぷく」月~土 あさ8:00~8:15 (C)NHK

1ヵ月で基礎固めはばっちりさせた頼もしき脚本家は福田靖。高視聴率を誇り、映画化もされた月9「HERO」「ガリレオ」や「海猿」、大河ドラマ「龍馬伝」の脚本を手がけてきた。「まんぷく」は「HERO」「ガリレオ」など、主人公の男性を女性が名アシスタントして事件を解決していく系のドラマの構造を使って書いているようで、これと決めたら邁進する信念の人・萬平と、でしゃばり過ぎず聡明で明るい福子のコンビネーションに安心感がある。なぁんだ、結局、男性上位じゃないかと思われそうだが、才能があって好ましい男性のことは支えたくなるのが人情というものなのだと「まんぷく」を見ていると思う。

安定した演技力を持つ主演に、豪華な共演陣

萬平を演じる長谷川博己が、知性的で清潔感があってそれでどこかちょっと抜けているとこもあって、大人の女性に好まれそうな人物。演技力も申し分なく、台詞が聞き取りやすい。福子を演じる安藤サクラは、カンヌ映画祭グランプリ受賞作『万引き家族』(2018年)に出演している演技派という印象もついてタイミングがよかったうえ、美人過ぎず年齢も若すぎないところが主婦層の共感度を上げる。長谷川博己(演じる萬平)に問答無用に好かれる可能性(現実にはないにしても)を勝手に期待してしまいそう。

長谷川も安藤も、個性も演技力も高いのだが、それはこれ! という一面的に突出した演技ではなく、見た人がそれぞれに好ましい像を描いて投影できる幅広さで、クセが強そうで意外と汎用性のある、コットン100%みたいな親しみやすさがある。それこそが安定した高視聴率をキープする所以ではないだろうか。

さらにそこに、福子の母役に松坂慶子、姉役に内田有紀(二週目ですでに死亡。時々幽霊となって登場)、松下奈緒、職場の同僚・橋本マナミという華やかな女優、姉の夫に要潤、大谷亮平というイケメンほか、浜野謙太、藤山扇治郎、桐谷健太というコメディリリーフ、片岡愛之助というヒール的な人物、橋爪功というベテラン……と脇を固める俳優が豪華かつキャラクターの役割がくっきり。

新たな価値観に向けて切磋琢磨する男たちのドラマも見どころ

面白いのは、松坂慶子演じる母・鈴は萬平が気に入らず、ヒロインが姑にいびられるのが朝ドラ定番だが、今回は萬平がマスオさん(婿ではないが)状態になりそうなところ。この件をはじめとして、オーソッドクスな朝ドラと書いたが、ちょいちょい、そうでもないところを加えてくる。

例えば、オープニングは、これまで外部業者がCGなどを駆使して作り込んだものが多かったが、ヒロインが海や山を歩いたり駆けたりするところを本編のスタッフが手持ちカメラで追った素朴なもの。また、敵か味方か、その時々で身を翻す桐谷健太演じる世良や、萬平の発明の才能を誰よりも高く評価する一方でそれに嫉妬する片岡愛之助演じる加地谷などの描き方がサスペンス調で、朝ドラというより大河ドラマっぽくも見える。「龍馬伝」で幕末という時代が大きく変わっていく中で生き抜いていく男たちの姿を描いた福田だけに「まんぷく」でも戦後から高度成長期、新たな価値観に向けて切磋琢磨する男たちのドラマも盛り上げてくれそうな気がしている。

連続テレビ小説「まんぷく」月~土 あさ8:00~8:15 (C)NHK

拙著「みんなの朝ドラ」(講談社現代新書)で、100作めを間近にした朝ドラは、もはや歌舞伎や落語のような伝統芸能の域に達しかかっており、伝統を守ることと新作に挑むこととのせめぎあいを行いながらシリーズを重ねていくと書いた。視聴者の楽しみは、これは朝ドラ、これは朝ドラじゃない、ここが新しい、と確かな歴史を元にああだこうだと語ることでもある。その楽しみを「まんぷく」は十分兼ね備えているといえるだろう。「半分、青い」が革新的な新作としたら、「まんぷく」は伝統を慎重に守りつつ、虎視眈々と新しい試みも狙っていく、そんな印象を受ける。

硬派な男のドラマになるか、ほのぼのホームドラマになるか。まだまだ予想はつかない。これからの展開にわくわくしている。