「自由を手にした僕らはグレー」という歌詞を耳にしたとき、私たちは喝采した。
椎名林檎が楽曲提供した「おとなの掟」が主題歌になっていたドラマ「カルテット」(2017年/TBS系 脚本:坂元裕二)の白黒つけないグレーな登場人物たちを私たちは愛した。

あれから1年9ヵ月――「逃げるは恥だが役に立つ」(2016年/TBS系 原作:海野つなみ)、「アンナチュラル」(2018年/TBS系)を書いた野木亜紀子のオリジナル脚本「獣になれない私たち」(以下「けもなれ」/日本テレビ系 水曜よる10時~)の登場人物もずいぶんとグレーである。

獣になれない、グレーたち

主人公・深海晶(新垣結衣)の恋人・花井京谷(田中圭)は、元カノ・長門朱里(黒木華)を自宅マンション(持ち家)に住まわせて4年も経っている。京谷と朱里の間には肉体関係はなく、晶と京谷はそういう面での問題はないものの結婚の一歩が踏み出せない。朱里の仕事がみつかるまでという条件で居候させているが、彼女は一向に仕事が決まらないというか決めない。晶は内心気になっているがはっきり言えない。京谷の心情はいまいちわからず、朱里の心情はとりわけわからない。このシチュエーションがかなりグレー(曖昧)である。

晶の恋人・京谷(田中圭)と、部屋から出て行かない元カノ・朱里(黒木華)
「獣になれない私たち」日本テレビ系にて毎週水曜よる10時放送

私生活でこのようなもやもやを抱えながら、さらに会社でも待遇面でもやもやを抱える晶(そのうえ家族にも問題あり)が、行きつけのクラフトビールバー「5tap」で知り合ったのが、会計士、税理士の根元恒星(松田龍平)。彼と関係のあった橘呉羽(菊地凛子)が急に別の男と結婚して現在フリー。人妻とはやらないという倫理観は持ちながら、ゆきずりの関係は平気らしく晶のことを飲んだ勢いで誘う。だが、いくらもやもやストレスを抱えているからと言って晶はそういうことはしない。

10月24日放送の第3話になって、恒星は晶のあとに誘った見知らぬ女性と行為の最中に爆睡したうえ、起きたら「帰って」と豹変したこと、呉羽との関係も最初に彼女が誘ってはじまったものだったこと、彼の兄にコンプレックスをもっていることなどが次々明かされ、どうやら恒星は言うほど嫌なやつではないのではないかという推測が働くも、やっぱり彼の心はグレーだ。

恒星があの日誘った晶のことをほんとうはどう思っているか……の謎は、晶みたいな人間が嫌い(恒星の嫌いな兄に似ていたから)だったからと明かされたが、それもすべてではないのかもと想像が膨らむ。そんなぶしつけな話をしても、結局、同じ店の常連としてつきあいは続いていくのだ。

同じグレー、でも違う! 「逃げ恥」と「けもなれ」

ドラマのなかで目下きっぱり明確なのは呉羽だけで、突然、恒星ではない人と結婚を決めたとき、頭で鐘が鳴ったとケロリと言ったのは第2話。晶にも恒星にもその鐘の音が鳴る実感がつかめない。ふたりが実際に鐘の音を聴きに行くと、聴こえたのは、夕方の時間を知らせる自治体が流す音楽で、これじゃないよねとふたりは思う。この場面、華やかな教会の鐘の音よりも夕方になったら家に帰るという何気ない日常こそふたりには大事であるというメッセージなのかと思ったが、それにもなんの言及もなく話は進んでいく。

なんともつかみどころのないお話に戸惑う視聴者も少なくないようだ。グレーはグレーでも、黒に近いグレーとか白に近いグレーとか言葉にしやすいグレーが好まれて、言葉にしづらいグレーは難しい。

5tapの常連として知り合う晶と恒星
「獣になれない私たち」日本テレビ系にて毎週水曜よる10時放送

野木の代表作にして最大ヒット作で、「けもなれ」の新垣結衣が主演している「逃げるは恥だが役に立つ」もグレーな関係の物語だった。友達以上恋人未満ならぬ、ビジネス以上夫婦未満というかギャラをもらって夫婦生活を営むという新たな関係を結ぶお話でこれはじつに多くの視聴者に好まれた。結局なんだかんだいって、主人公とその相手役(星野源)が従来の結婚の形ではない(グレー)もののちゃんとふたりが思い合って関係性を構築していくところ(白寄りのグレー)にホッとするのだろう。
「けもなれ」は本命(言い方が古いが)以外に誰かいる……という倫理観から言ったら黒寄りのグレーだ。

正しい答えを出せない生き方

でも世の中にはそういうグレーだってある。例えば、日本の伝統色で、グレー系の色を見ると、銀鼠、素鼠、鼠色、源氏鼠、丼鼠 と鼠がついた色もこんなにあるうえ、灰青、灰色、鉛色、鈍色、墨、羊羹色など多彩であるように、人生のグレーも多彩なのだと思う。

人生の多彩なグレーが表現される
「獣になれない私たち」日本テレビ系にて毎週水曜よる10時放送

「けもなれ」を見ると、映画『彼女がその名を知らない鳥たち』(2018年/沼田まほかる原作 白石和彌監督)や『生きてるだけで、愛』(11月9日公開/本谷有希子原作 関根光才監督)のような印象を抱く。『彼女がその名を知らない鳥たち』は主人公(蒼井優)が好きじゃない男(阿部サダヲ)に養ってもらいながら他の男(松坂桃李)と恋愛している。『生きてるだけで、愛』は引きこもりの主人公(趣里)が同棲している恋人に(菅田将暉)に依存しているところに彼の元カノがよりを戻すためにやって来る。どちらも正しい解答が難しい問題を抱えた人物たちの物語だ。

野木亜紀子のデビュー作「さよならロビンソンクルーソー」(2010年/フジテレビ系)も田中圭演じる青年が、心が弱くて働けないで引きこもっている恋人を養っている話で、同じようにミュージシャンの恋人を食わせている女(菊地凛子)と偶然出会って……という話。貢ぐ者同士がうまくいく話かと思いきや……と、田中と菊地という配役も手伝って「けもなれ」の原型のような気がしないでもない。

多彩なグレーを楽しむ“ラブかもしれない”ドラマ

この人たちなんで別れないんだろうとか、なんで会社をやめないんだろうとか、傍から見て思うけどできないことがある、できない人もいる。そのなんともいえない部分を「獣」と呼ぶのか、はたまた、ぱっとした閃きを大事にする呉羽のような生き方を「獣」と呼ぶのか……。

晶を体よく使うツクモ・クリエイト社長の九十九社長(山内圭哉)
「獣になれない私たち」日本テレビ系にて毎週水曜よる10時放送

第3話の終わり、呉羽は京谷を誘ってしまうという、黒に近いグレーな行為がどんどん展開していく。なんで狭い世界でぐちゃぐちゃと関係してしまうのか、会社やサークルや劇団ってそういうことあるあるだよなあ……とか思いながら、理屈で片付かない気持ちを持て余す、色見本のいろいろなグレーの一色が選べず目移りしていくような感じもまた楽しい。色見本が、いつまで眺めていても飽きがこないように。

ドラマのキャッチコピーが「ラブかもしれないストーリー」だけに、晶と恒星の恋人エンドとかではなく、ずっとグレーでもやもやを楽しむ、「けもなれ」は成熟したドラマになる可能性を秘めている。

文=木俣冬/Avanti Press