映画『共喰い』の甲斐真樹プロデューサーと約5年ぶりにタッグを組んだ菅田将暉。趣里演じる引きこもりの恋人・寧子と同居しながら、閉ざされた自身の心に気付いていく若者・津奈木を抑制の利いたリアルな演技で体現している。「パーソナルな自分に近い」と語る菅田が本作で挑んだ新たな試みとは?

自分の個性に近い役をやりたかった

Q:『共喰い』以来、甲斐プロデューサーと約5年ぶりのタッグとなりましたが、オファーが来たときはどんなお気持ちでしたか? 

『共喰い』で甲斐さん、青山真治監督と出会ったことは本当に大きかったです。あの作品以降、さまざまな映画にトライさせていただき、賞もたくさんいただくことができました。ただ最近、ちょっと弾けた役が続いていたので、「そろそろ自分の個性に近い等身大の役をやってみたいなぁ」という思いがあったので、このタイミングで甲斐さんからオファーが来たときは本当にうれしかったです。

Q:脚本を読んで、かなり共感する部分があったとお聞きしましたが?

ネットニュースやSNSなどでいろんな情報が周辺にあふれていますが、それを受け取る僕らは、嘘と真実の区別がなかなか難しい。便利になった反面、生きづらさも感じていたので、脚本を読んだときは、「僕らが生きている時代を『よくぞ描いてくれた!』と思える映画になる」と確信しました。それくらい、今の時代を捉えた素晴らしい脚本だったと思います。

Q:菅田さんが思い描いていた作品になりましたか?

リアルとバーチャルが混在するネット社会は、今の時代を生きる全ての人にとって生きづらいところがあります。そういう時代背景の中で、正義や悪だけでなく、もっとグレーなところも大事にして生きていこうという気持ちがすごく芽生えました。もちろん、白黒はっきりつけられるところはつけていけばいいと思いますが、津奈木や寧子のように人によってペースも違うし、今日がダメでも明日が良かったりする人もいる。天気と同じなので、そこにちゃんと愛情を持っていきたいなと。僕はそんなことを感じ取りましたが、あとは観た方がどう思うか。そういった意味では、この作品は紛れもなく「映画」だと思いました。

僕が演じる津奈木は現代の日本兵?

Q:津奈木を演じる際、甲斐プロデューサーから「大人の芝居をしてほしい」と言われたそうですが、どんな思いで演じたのでしょう。

僕の解釈では、「大人びた演技をしろ」とか、そういう表面的な意味ではないと思いました。今回、関根(光才)監督は、質感を大切にするために16ミリフィルムで撮影したのですが、こだわり抜いた1本の映画を「ちゃんと背負ってくれよ!」という甲斐さんからのメッセージだと思いました。強いていえば、『共喰い』のときとはまた違った新たな「手触り」を僕に求めていたのだと思います。

Q:その答えが、スクリーンに映る津奈木だと?

役に関しては、津奈木というキャラクターは、感情表現が下手で、役柄も無口でしっとりした男。その佇まいは、なんというか現代の「日本兵」だと思いました。日本人は感情をあからさまに表に出さないし、おとなしくて受け身。でも、壊されても、壊されても、なんとか修繕して生きていく力は、どの国にも負けないものがある。話はちょっとズレますが、戦後の日本の立ち直り方ってすごいじゃないですか。

Q:寧子を演じた趣里さんとは初共演だったそうですが、いかがでしたか? 

とても新鮮で楽しかったです。どのシーンも趣里ちゃんとでなければ実現できない「スペシャルな時間」になりました。それがすごく心地良かったです。あとは、もともとバレエをされていたせいか、体の使い方やしなやかさが本当に美しかったです。ちょっとハスキーな声も大好きでした。こういうと語弊があるかもしれませんが、悲痛な状況に似合う声(笑)。普段のしゃべりもなんとなく叫び声に聞こえるので、気持ちがすごく伝わってきました。

言葉ではなく一緒にいて感じるもの

Q:それにしても、寧子と津奈木のかみ合わない同居生活は不思議でした。二人は何でつながっていたんでしょう?

津奈木は優しいのか、無関心なのか、曖昧な男に見えますが、「向き合わない」という「向き合い方」が二人には成立するのだと思います。言葉はツールでしかない。それは、メールやSNSも同じで、使い方を間違うと、ケンカになったりする。でも、言葉じゃなくて、一緒にいて感じるものは信じられる。気の利いた言葉は掛けられないけれど、津奈木はそういうところに敏感なんじゃないかなと思うんです。

Q:寧子にしかない「美しさ」を心で感じていたということですか?

きっとそうだと思います。確かに、寝てばかりで、片付けも仕事も何もしない。普通に生活していたら、「ふざけんな!」って話ですが、津奈木にしか見えない寧子の「美しさ」を感じ取っていたんだと思います。劇中、「わたしのどこが好き?」と寧子が津奈木に問うシーンがあるんですが、津奈木は、初めて出会ったときに、頭から血を流して走っている寧子の青いスカートが揺れていて、「その絵がすごく美しかった」と告白します。その言葉に、彼の精一杯の愛が込められているような気がしました。

Q:津奈木と寧子、相容れないようで実は、心の奥底でつながっていたんでしょうね。

津奈木の怒りがピークに達して大爆発するシーンがあります。ほとんどの人は、どこかギリギリのところでブレーキを掛けるんですが、彼は制御不可能になる。僕はあのシーンを観て、「だから津奈木は、寧子と一緒にいられるんだ」と思いました。普通はあそこまでキレない(笑)。だから津奈木と寧子は似た者同士。社会からはみ出た人間と、社会で生きることになった人間の違いはありますが、結局、最後は同じ場所で共存している。「生きてるだけで、愛。」とはそういうことなんだと思います。

取材・文: 坂田正樹 写真:中村嘉昭