鈴木清順監督の『ピストルオペラ』(2001年)、富士フイルムと缶コーヒー「BOSS」のコラボレーションCM、そして『あん』(2015年)と3度共演させていただきました。どの瞬間も、「一番大事なことを知っている人」でした。

飾ったり、繕うのではなく、その場その場において、何が一番か瞬時に分かるのです。だから、発言も真実なんです。こっちではこういい、あっちではこういうみたいなことはなく、一貫していらっしゃった。

『あん』では、どら焼き屋をやめることになった徳江さんが店を出て、空を見上げるシーンが印象に残っています。一瞬、息を吐かれるぐらいの間で、それしかないっていうものをふっと出される。希林さんのすごいところは、その演技を一切、自分の手柄にしないことです。役者はついアピールしがちだと思うんですけども、大事なのは作品、お客さんであるということを分かっていらっしゃる。

耳元で「幸せになってね」

(C)2015映画「あん」製作委員会/COMME DES CINEMAS/TWENTY TWENTY VISION/ZDF-ARTE

『あん』の初号試写は、(内田)也哉子さん、本木(雅弘)くん、(共演の内田)伽羅ちゃん、希林さんのご家族と一緒に見ました。映画の中には、徳江さんとしてちゃんと存在していて、本当に素晴らしいと思いました。ロビーにいた希林さんを見つけると、思わず駆け寄って、抱き締めてしまいました。

すると、耳元で「幸せになってね」と小さい声で言ってくれたんです。それがいまだに永瀬に対してなのか、(役の)千太郎に対してなのか、聞けないままになってしまいましたが、両方だと受け止めています。叱咤激励もいっぱい受け、母のような存在でした。

お体的にはいっぱい辛かったことはあったと思います。それでも、積極的にプロモーションに参加され、海外の映画祭もたくさんご一緒しました。その場を一生懸命楽しもうとされていました。そのお姿が愛おしいというか、チャーミングでした。

「もう会えないかと思っていたわ」

(C)2015映画「あん」製作委員会/COMME DES CINEMAS/TWENTY TWENTY VISION/ZDF-ARTE

最後にお会いできたのは、希林さんが劇中、音声ガイドの声を務めた「光」のアフレコ。素晴らしい音声ガイドでしたが、監督からアフレコに呼ばれ、思いがけず一緒になったのです。手を握られて「会いたかったわ。もう会えないかと思っていたわ」とおっしゃってくれました。

写真展「呼吸」に出した希林さんの写真は、ドーハ国際映画祭で撮らせていただきました。着物をお召しになり、とても美しかったんです。サービス精神旺盛な方ですが、改めてカメラを向けると、とてもシャイでした。そっとカメラを向けていたら、「あら」という感じでした。きちっとしたポートレート写真は1枚だけでした。撮らせていただいたんじゃないですかね。たった1枚だけ。今はそう思います。

このインタビューは『キネマ旬報』11月上旬号に掲載。今号では「樹木希林の幕のおろし方」という緊急特集をおこなった。葬儀レポート「是枝裕和弔辞全文」をはじめ、映画『あん』をともに生み出した河瀨直美監督の談話などを掲載。キネマ旬報では改めて、「樹木希林」を追い求めて増刊号を年内に刊行予定。(敬称略)

取材・文=平辻哲也/制作:キネマ旬報社