映画『ボーン・アイデンティティー』などのダグ・リーマン監督が、2010年に手掛けた映画『フェア・ゲーム』のディレクターズ・カットについて、同作のモデルとなった元CIA諜報員ヴァレリー・プレイムさんと共に、10月24日(現地時間)、ニューヨークのAOL開催イベントで語った。

 本作は、9.11の同時多発テロ以降、アメリカ最大のスキャンダルといわれたイラクの大量破壊兵器にまつわる衝撃の真実を映像化したクライム・サスペンス。CIA諜報員ヴァレリー(ナオミ・ワッツ)と元ニジェール大使で夫のジョー(ショーン・ペン)は、イラクに核開発計画がないことを政府に報告するが、2003年、ブッシュ政権はイラクに宣戦布告。これに対しジョーは、新聞に調査報告を寄稿するが、その報復としてヴァレリーが諜報員であることが公表されてしまう。

 ジョージ・W・ブッシュ政権から現在のドナルド・トランプ政権に至るまで、真実が曲解されてメデイアで伝えられる状況下にあるアメリカで、再び今作のディレクターズ・カットをNetflixで配信するのは、実に適したタイミングと思えるが、リーマン監督は今作に回帰した理由を芸術的な観点からだと語る。「今作がカンヌ国際映画祭で初上映されたとき、スタンディング・オベーションを受けたが、僕にとってはベストバージョンじゃなかったんだ。だから、芸術的な観点から再び戻ってみたかったんだよ。再編集したのは高尚な政治的理由からだと言いたいところだけどね」。最終的には、夫妻が世界で最も権力を持った男(米大統領)に対抗する決意をした映画を描きたかったのだそうだ。

 一方ヴァレリーさんは、オリジナル作品もとても素晴らしかったと語る。「(映画内では)何が実際に起きていたかという必要不可欠な真実が描かれていたわ。わたしとジョーはセットを訪れ、彼ら(製作陣)と話をし、かなり製作に関われたことに感謝しているの。自分を扱った映画だけれど、(監督ではないため)自分にはコントロールする権限は何もないから、とても怖かったわ」と当時を振り返った。ところが、今年の夏にリーマン監督が彼女のもとを訪れ、再編集版を見せたそうだ。

 ヴァレリーさんは「(オリジナル作品よりも)かなり良いと思ったわ。わたし自身もあの出来事から時を経て、ある程度自分なりに(あの出来事を)処理できていたのもあるわね。特に個人的な観点では、当時は嵐のような狂気の中にいた感じだったの。国レベルで言えば、いまだに(わたしたちは)イラク戦争での罰を受けていないわ。あの戦争の結果は、今後も何世代にわたって、その影響を及ぼすことになると思う。今回のダグの再編集では、権力に対する真実を言及しながら、夫婦という個人的なレベルから、国というレベルまで問題を追及していて、その内容はオリジナル作品よりも、より適切に思えたわ」と感想を述べた。

 諜報機関にいたヴァレリーさんから見たアメリカの現況については、「2001年の米同時多発テロから、世界は一つにまとまり、真のリーダーを立てる絶好の機会があったと思うけれど、その後の2、3年間でそれが無駄となり、道徳的権限も侵食されたと思うわ。現在のアメリカの友好国や同盟国は、トランプの発言に対して、どれくらいの信頼性を置いて良いのかわからなくなっているの。わたしの同僚だったCIAの人間でさえも、彼の道徳観念には悩まされているわ」と不満を漏らした。

 また、「兵士として軍に従事しようが、エージェントとして機関に属そうが、それぞれアメリカ人として仕事に従事しているだけで、共和党や民主党として従事しているわけではないの。党が異なり、大統領が入れ替わったけれど、今の政権は通常の政権とはかけ離れていて、わたしたちのような機関で働いていた者にとって、仕事をするのが難しい状態にあるわ」と嘆いた。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)