“世界のキタノ”こと北野武監督が、自身のフィルモグラフィの中で唯一の連作として作り上げた映画『アウトレイジ』シリーズ。第1作目からのキャッチコピーである「全員悪人」が示すとおり、シリーズを通して一癖も二癖もある現代ヤクザたちの権力闘争劇が描かれる。裏切りと騙し合いの末、言った言わないの言質を取り合うパワーゲームが展開し、少しずつ大きくなる振り子の幅が極限に達した時に非情な暴力が発動される。

第63回カンヌ映画祭 レッドカーペットでのフォトコール
Dominique Charriau/GettyImages

「次に死ぬのは誰だ?」と、手に汗を握らずにはいられない北野流バイオレンス・エンターテイメントだが、北野映画は玄人好みの印象が強く、海外での評判や批評家受けは良いものの、一般層には敷居が高いかもしれない。しかし、シリーズ累計興行収入は30億円以上を記録。“ヤクザ映画”『アウトレイジ』は、なぜ人気シリーズに成長したのだろうか。

あらすじ

『アウトレイジ』(2010年)

関東一円を取り仕切る巨大暴力団組織・山王会組長の関内(北村総一朗)が、若頭の加藤(三浦友和)に直参である池元組の組長、池元(國村隼)のことで苦言を呈す。加藤から直系ではない村瀬組を締め付けるよう命令された池元は、配下である大友組の組長・大友(ビートたけし)にその厄介な仕事を任せる。やがて、ヤクザ界の生き残りを賭けた壮絶な権力闘争が幕を開ける。

『アウトレイジ ビヨンド』(2012年)

山王会で起きた内部抗争から5年後。政治の世界にまで勢力を拡大してきた山王会に対し、警察組織は組織の壊滅を図るため、関西の雄である花菱会に目をつけ、表向きは友好関係を保っている東西の巨大暴力団組織を対立させようと陰謀を企てる。そんな中、抗争中に獄中死したはずの大友が生きており、刑期を早めて出所してくることが発覚する。

『アウトレイジ 最終章』(2017年)

関東vs関西の巨大抗争後、大友は韓国に渡り、日韓を牛耳るフィクサー・張会長(金田時男)の下にいた。そんな折り、取引のため韓国出張中の花菱会幹部・花田(ピエール瀧)がトラブルを起こし、張会長の手下を殺してしまう。これをきっかけに、国際的フィクサー張グループと巨大暴力団組織花菱会が、一触即発の状態に陥る。大友は、張会長への恩を返すために、そしてすべての因縁に決着をつけるため再び日本に戻ることを決意する。

社会のアウトローを演じた意外なキャスト陣

『アウトレイジ』にキャスティングされたのは、北野作品の常連ではなく、多くがパブリックイメージでは“良い人”と思われていそうな俳優や、まったくの未知数な人物たちだ。いかにも“強面”の俳優ではなく、名俳優を起用したことも、人気シリーズに成長した要因の一つかもしれない。

例えば、山王会のナンバー2として、会長の側近を長年務めてきた若頭の加藤は、長い俳優人生で“良い人”を演じてきた三浦友和が務めている。表向きは会長に服従する彼の右腕的存在だが、その腹の中はドス黒く、自らが山王会のトップの座に就こうと画策している。見た目は普段の三浦なのだが、それが余計に恐怖を倍増。彼は本作で、これまでのイメージを払しょくする名演技を披露している。

また、大友組の金庫番・石原を演じた加瀬亮は現代的なインテリヤクザで、頭脳明晰で英語が堪能。第2作目『アウトレイジ ビヨンド』では、山王組の若頭にまで上り詰める。これまで数多くの良い人やクールな役を演じてきた彼が、ストライプのダブルスーツにオールバック、細いサングラス姿で登場した時は、一瞬誰だかわからないほどだ。加瀬が演じる石原の身に降りかかる災難は、シリーズの中でもトップクラスの必見エピドードなので見逃し厳禁。

そして、本作を観た人ならば誰もが気になるであろう、日韓の大物フィクサー張大成を演じた金田時男は、俳優ではなく実は一般人。北野監督とは旧知の仲らしく、その圧倒的な存在感に惚れ込んだ監督のオファーを受ける形で出演が実現。シリーズを重ねるごとにセリフが増えていき、最終章ではとうとう張を中心とした物語が展開していく。

さらに、『アウトレイジ』シリーズでメイン級の飛び道具を演じたと言っても過言ではないのが、花菱会の西野一雄を演じた西田敏行だ。2作目での大友との罵り合いは強烈で、拳銃の撃ち合いに匹敵すると言われるほど。関西弁での言葉の暴力が、見事にその代わりを果たしている。

どこにでもある権力闘争をヤクザ映画に

ヤクザ映画の歴史には、高倉健ら銀幕スターたちによる任侠映画の黄金期から、深作欣二監督の『仁義なき戦い』シリーズの大ヒットという流れがある。その後は竹内力や哀川翔らが主演を務めたVシネマ時代に突入するが、そのころには、もはや“何でもアリ”の無法地帯と化している。

そんななか、北野監督は『アウトレイジ』で再びヤクザ映画を劇場に蘇らせた。これまでの系譜にある暑苦しさを感じるほどのセリフ回しや、汗まみれでバタバタと走り回るようなイメージから一転、あまり言葉を発さない、非常にクールでスマートな演出を、北野監督が作品に持ち込んできた。物語の構造自体も普遍的なテーマになっており、非常にとっつきやすくなっているのも特徴だろう。

一般企業でも会長や社長がいて、部長や課長がいる。そこには裏切りや引き抜きがあったり、騙し合い、乗っ取りがあったりする。その状況に拳銃を持たせてしまえば、ヤクザ映画になってしまうというわけだ。

第74回ヴェネツィア映画祭では『アウトレイジ 最終章』がクロージングフィルムに選ばれた
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『アウトレイジ』シリーズは現実社会と同じく、ある権力構造の中で起きるパワーゲームが話の中心にある。上司に絶対の忠誠を誓っている中間管理職が、会社の無理難題に奮闘する、さながら「半沢直樹」のような感覚でヤクザ映画を観ることができるのが、人気シリーズへと成長した最大の要因かもしれない。

一般企業のような構成の中で展開するヤクザ映画ならではの暴力描写や、口汚くなじり合う舌戦などがフレッシュに感じられ、ヤクザ映画が得意ではない女性観客からも、支持を得ることができたのだろう。

『アウトレイジは』終わらない!?

『アウトレイジ 最終章』をもって、シリーズは一応の完結を迎えてはいるが、北野監督の頭の中にはまだまだアイデアがあるという。

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戦後のGHQ占領下、張会長が日本でのし上がっていくエピソードと、若き大友がヤクザになっていくエピソードをクロスさせる、所謂エピソード0にあたる物語の構想を例にあげ、ストーリーはいくらでも作れると語っている。

『アウトレイジ』で初めてシリーズモノに挑戦した北野監督。しかし、このテーマなら政治ネタでも流用することがきると語っているので、将来的には政界のパワーゲームを描いた作品を観ることができるかもしれない。シリーズは一旦終了を迎えたが、再び北野流バイオレンス・エンターテイメントが楽しめる日は、そう遠くないかもしれない。

(文=SS-Innovation.LLC)

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本シリーズといえば考えもつかない“死に様”が観るものを惹きつける。ビートたけし演じる大友が見せた、残虐すぎる殺人メソッドの数々は、どれも既成のパターンに当てはまらない、斬新なもの。シリーズ過去作の『アウトレイジ』(2010年)『アウトレイジ ビヨンド』(2012年)で“誰がどのように殺されたか”を振り返る。

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 アウトレイジシリーズの3作目『アウトレイジ 最終章』。北野監督ならではのヤクザ映画へのオマージュであり、強烈な風刺でもあった2010年の『アウトレイジ』から、続く2012年の『アウトレイジ ビヨンド』、そして続く『最終章』。俳優・ビートたけしの歴史とともに、『最終章』をひも解く。