俳優・岡田将生演じる身勝手な息子・拓也とリンゴ農園を営む両親をめぐる親子の交流を描いた『家族のはなし』が11月23日より公開される。原作は、芸人・鉄拳が2013年に信濃毎日新聞の企画で発表した“パラパラ漫画”だ。実は、鉄拳のパラパラ漫画が実写化されるのはこれが2作目。日本のみならず世界中で支持される鉄拳のパラパラ漫画の魅力に迫る。

一度は芸人を辞める覚悟も…再ブレイクは“パラパラ漫画”で

紙に描いた絵をめくって笑わせるフリップネタ、“こんな××はイヤだ”で一世を風靡(ふうび)するも、その後は徐々にメディアで見かけなくなっていった鉄拳。今年1月30日放送の「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ系)で、芸人を辞めて故郷の長野に帰ることを決めていたと明かすほどに当時の生活はどん底であったようだ。

ところが、2011年、カラオケで流れる映像にパラパラ漫画を描くというオファーを受けて描いた「俺ら東京さ行ぐだ(鉄拳ver.)」がたまたまテレビ関係者の目に留まった。その後、テレビ番組でパラパラ漫画を公開すると人気に火が点き、“パラパラ漫画家”として再ブレークを果たしたのであった。

2012年には、自身の代表作ともなった「振り子」を発表。主演に中村獅童を迎え、2015年には実写映画化もされている。移ろいゆく一組の夫婦の生涯を時計の振り子に見立てたハートウォーミングなストーリーである同作は、インターネット上で公開されるやいなや「すごく感動した」「涙が止まらない」と反響を呼んだ。

やがて「振り子」は、BGMとして使用していた曲「Exogenesis: Symphony Part 3」(※)の歌い手であるイギリスの人気ロックバンドMUSEのメンバー本人たちにもその評判が届くほどに人気が過熱。なんと作品の出来に感銘を受けたメンバーらが「振り子」を公式のミュージックビデオに起用するという、うれしい後日談につながった。

(※)邦題:エクソジェネシス(脱出創世記):交響曲第3部(あがない)

国民的ドラマ、ディズニーからもオファー続々

その後は、芸人ではなく、パラパラ漫画家として活動する機会が増えた鉄拳。大ヒットを飛ばした2013年の連続小説ドラマ「あまちゃん」(NHK総合)では、物語のカギを握る劇中の映画『潮騒のメモリー』をはじめ、劇中のいたるところに鉄拳のパラパラ漫画が採用されたことで、鉄拳の知名度はさらに上昇した。

このころから、鉄拳本人が漫画へ注ぐ情熱の深度も増してゆく。雑誌『女性セブン』2013年8月号のインタビューで「いつもは1秒間に6コマを書くところを、『あまちゃん』では8コマに増やした」と明かした鉄拳。テレビの放送では、より緻密(ちみつ)なパラパラ漫画のほうがアニメとしてスムーズに動いているように見えるからとの配慮だった。

「漫画1本を書くのにどれだけの時間を費やしているのか」との問いに対しては、「20~30秒でだいたい200~300枚ぐらい。1日16時間ぐらい机に向かっている」と説明。本場の風景を漫画に描き起こしたい想いから、同作のロケ地にも自ら足を運んだとも語り、漫画に向き合う真摯な姿勢で世間を驚かせた。

パラパラ漫画に心血を注ぐ鉄拳に、再びスポットライトが当たったのは、ディズニー映画『ベイマックス』が公開された2014年のこと。14歳の天才少年・ヒロと人を癒すケアロボット・ベイマックスの絆を描いた同作で、鉄拳はプロモーション映像を手掛けた。

鉄拳が書き下ろしたパラパラ漫画は、最愛の兄・タダシを失ったヒロと、悲しみにくれるヒロを優しく包み込むベイマックスの温かな交流を、独自の視点で切り取ったオリジナルストーリーだ。その仕上がりには、監督のドン・ホールとクリス・ウィリアムズも絶賛。“ジャパニーズ・カートゥーン”作家として、世界に名を刻んだ鉄拳であった。

16歳の時には初投稿作品が「ちばてつや」賞を受賞するほど、10代のころからその才気を見せていた鉄拳。しかし次作以降はまったく振るわず、その後はプロレスに入門、劇団入所など曲折を経て芸人になったという。そうしてたどり着いた“芸人”と“パラパラ漫画家”の二刀流によって、これからも唯一無二の笑いや作品を届けてほしい。

(文/ナカニシハナ)