1982年に公開された傑作SF映画『ブレードランナー』。2017年には35年ぶりに続編『ブレードランナー 2049』が公開され、大きな話題となった。本作は、“カルト的な人気を誇る”といった言葉から、観たことが無い人にとっては、ハードルが高い印象を持たれることも少なくない。新作公開時も、前作は観ていないからということで、興味はあるけど観るタイミングを逃しているという人もいたことだろう。

来年はついに『ブレードランナー』の舞台となった2019年。“わかった気になる”をテーマに、『ブレードランナー』とは何なのか、何が観るものを魅了したのか、解説していこう。

予告編

映画『ブレードランナー』とは?

本作の監督は、今やハリウッドの巨匠として名高いリドリー・スコット。80歳を超えた今も、圧倒的な映像センスでまだまだ現役バリバリの映画監督だ。

1979年に公開された長編2作目『エイリアン』が世界的大ヒットとなり、一躍売れっ子監督となった中、長編3作目としてメガホンをとったのが『ブレードランナー』だった。主演は、当時すでに『スター・ウォーズ』(1977年)のハン・ソロ役でスターとなっていたハリソン・フォード。『エイリアン』の監督と『スター・ウォーズ』のスター俳優がタッグを組んだ注目の作品となったわけだ。

時代設定は、映画製作時の約35年後である2019年。舞台は地球の環境が悪化し、人類が宇宙へと移住を始めた近未来。人類は“レプリカント”という感情のない人造人間を開発し、奴隷として彼らに危険な重労働を強いていた。

ダリル・ハンナ演じるレプリカントのプリス
Warner Bros. /GettyImages

そんな中、新型レプリカントのロイ・バッティ(ルトガー・ハウアー)に感情が芽生え、彼は人類に反乱を起こす。そこで、“ブレードランナー”と呼ばれるレプリカント専門の捜査官、デッカード(ハリソン・フォード)が招集され、彼はロイを追っていく。

ルドガー・ハウワーのロイ・バッティの狂気はすごい
Sunset Boulevard/GettyImages

本作は、多少のアクションはあるものの、宇宙船チェイスや大掛かりなバトルアクションはない。非常に作りこまれた世界観と映像美の中で、レプリカントとそれを作った人間の関係をじっくりと描いているのが特徴だ。

一つの作品に複数のバージョンが存在

本作を観たことが無い人にとって、ハードルを高いと感じさせる要因のひとつが、同じ作品でいくつかのバージョン違いが存在するという点だ。

DVDなどの発売時に未公開シーンを付け加えたりすることはあるが、1本でこれほどバージョンが存在する作品はほとんどない。しかし、これこそ作り手と観客がともに1つの作品を愛している証しでもある。では5つのバージョンは、どう違うのだろうか?

荒廃した未来の描写はその後のSF映画に影響を与えた
Warner Bros. /GettyImages

まずは、1982年にアメリカで劇場公開された「オリジナル劇場版」。本来ならこのバージョンのみになりそうなものだが、実は本作は劇場公開される前のバージョンからから暴力シーンの一部を削除し、終わり方もハッピーエンドっぽく変更した。そして、よりわかりやすくするためにハリソンのナレーションを追加。一般受けを狙った結果、監督のリドリー・スコットが意図した作品にはならなかったそう。そのため、次々と新バージョンが出てくることとなる。

全米での公開前に、観客の反応を見るために行ったテスト試写で公開されたのが「ワークプリント版」だ。テスト試写を行った際、観客の反応が芳しくなかったため、前述の「オリジナル劇場版」へと変更された。現在はDVDやBlu-rayで観ることができるのだが、劇場公開前のバージョンを現在も正式に観られること自体が、本作の特殊さを表している。

「オリジナル劇場版」の公開後、日本やヨーロッパなど、海外で封切られる際に公開されたのが「インターナショナル劇場版/完全版」。完全版とも呼ばれるバージョンで、アメリカで公開され「オリジナル劇場版」では削除されていた暴力シーンが復活しているのが特徴だ。

ショーン・ヤング演じるレイチェル
Warner Bros. /GettyImages

そして、すでにこの段階で3バージョンある中で、“監督が本来意図したものが観たい”との要望が高まった結果、1992年に公開されたのが「ディレクターズカット/最終版」。監督のリドリー・スコット自らが再編集したバージョンだ。エンディングでのハッピーエンドっぽいシーンとナレーションを削除。ファンの間で大きな議論を招いた「ユニコーンの夢」のシーンが追加された。

そして公開25周年を記念して、再度スコット監督が編集して2007年に公開されたのが「ファイナル・カット」バージョン。25年の時を経たことでVFXなど進化したテクノロジーを活用。画質や音質も向上、色調も変更されている。さらに、ジョアンナ・キャシディのアクションシーンで、当時スタントマンが演じていたものを、ジョアンナ・キャシディで新たに撮影し、デジタル技術を使い合成するこだわりもみせた。根強い人気もあって、同バージョンはヴェネツィア国際映画祭で上映された後、25年ぶりに世界で劇場公開された。

圧倒的な映像美とオタク心を刺激したストーリー

今でこそ傑作SFとして名高い本作。しかし、公開当時は娯楽性の強いSFアクションを期待させた予告編と本編の内容にギャップがあり、監督の目指した作品にならなかったこともあってか、ヒットには至らなかった。

しかし、それまで誰も見たことのなかった近未来の荒廃したビジュアルや、徹底的に作り込まれた世界観は多くの人に衝撃を与えた。本作に影響を受けて作られた映像作品は数知れず、SF映画はもちろん、様々なメディアのクリエイターたちに、現在も影響を与え続けている。

Sunset Boulevard/GettyImages

また、あえて曖昧さを残した謎多きストーリーがSFファンのオタク心をくすぐり、別バージョンの登場も相まって、長きにわたりファンの熱い議論が展開されている。こうして本作は世界中でファンを獲得し、今や最も偉大なSF作品の1本として数えられるようになったのだ。

空中を飛行するスピナー
Warner Bros. /GettyImages

35年経ってもまだ議論され続ける“ある問題”

熱い議論が繰り返されている本作の中でも、とりわけ大きな謎として議論され続けていることがある。

※ここからは一部ネタバレがあるので、観ていない人は要注意。

映画のクライマックスで、主人公のデッカードとレプリカントのロイは最後の対決を迎えるのだが、ロイの圧倒的なパワーの前に、デッカードは歯が立たない。彼はその場からなんとか屋上へと逃れるのだが、隣のビルへ飛び移ろうとした際、誤って転落しそうになってしまう。

Warner Bros. /GettyImages

観客がデッカードの死を覚悟した瞬間、なんとロイがデッカードの腕を掴み、彼を救う。その直後、ロイはレプリカントとしての寿命がきたことを悟り、力尽きて動かなくなってしまう。やがてデッカードは、物語の途中で出会い恋に落ちたレプリカントのレイチェルと逃避行し、映画は幕を閉じる。

Sunset Boulevard/GettyImages

レプリカントを処分する側の人間がレプリカントと恋に落ち、最後は敵のレプリカントに命を救われてしまう……。

ここで疑問として浮上したのが、ロイがデッカードを助けた“理由”だ。人間を憎んでいたロイが、なぜ突然デッカードを助けたのか……。そのことは劇中で説明されないままだ。

デッカード=レプリカント説

この謎に対し、オリジナルの公開から10年後にある情報がもたらされ、有力な解釈が生まれる。それは、「デッカードが人間ではなく、レプリカントだったから」というものだ。

映画の最後、ロイとの戦いを終えたデッカードが自宅に戻り、“折り紙のユニコーン”を発見するというシーンがある。この折り紙のユニコーンについては、劇中でデッカードの仲間のガフ刑事(エドワード・ジェームズ・オルモス)が折り紙をする描写があるため、彼が置いていったものだと推測できるが、ユニコーンに何の意味があるのかは謎のままだった。

デッカードとガフ
Stanley Bielecki Movie Collection/GettyImages

そんな中、1992年のディレクターズカット版に、「デッカードがユニコーンの夢を見る」というシーンが追加される。ここでまた大きな議論が巻き起こる。このシーンが示唆することは、「ガフ刑事は、デッカードの夢の内容を知っていたのではないか?」ということだ。

レプリカントは人造人間であるため、その記憶は誰かから植え付けられたものだということになる。デッカードは夢のことを誰にも話していないのに、ガフ刑事はそれを知っている。デッカードの記憶は植え付けられたもの、イコール「デッカードはレプリカントである」という解釈になったわけだ。

もし、デッカードが人間ではなくレプリカントならば、ロイがデッカードを助けたことも説明できる。「デッカード=レプリカント」という目線で映画を見直すと、何気ないセリフや行動にも違った解釈ができるのだ。だが、このデッカードの真実については、ファンはもちろん、製作陣の中でさえ意見がわかれる。実はリドリー・スコット監督は、「デッカードはレプリカントだ」とコメントしているのだが、脚本家やハリソンはこれを否定しているのだ。

35年ぶりの続編。“デッカードの真実”の行方

「ユニコーンの夢」問題が解決しないまま、ついに昨年、35年ぶりに続編『ブレードランナー 2049』が公開された。

Pascal Le Segretain/GettyImages

リドリー・スコットは製作総指揮にまわり、『メッセージ』(2016年)で高い評価を得たドゥニ・ヴィルヌーヴがメガホンをとった。主演は実力派のライアン・ゴズリングが務め、ハリソン・フォードがデッカード役で再び出演したのも話題となった。

Kevin Winter/GettyImages

作品の世界観をうまく引き継ぎつつ、オリジナルのその後の世界を描いた本作は、長年のファンも認める傑作となっているのだが、当然、デッカードの真実が語られるのかにも注目が集まった。しかし、続編での彼は、人間にはとても住めそうにない環境で暮らしていたり、前作で結ばれたレイチェルとの間に子どもができていたりと、謎はさらに深まるばかり。真実の行方は、今後の作品へ継続されてしまったといえるだろう。

この先も、この大きな謎に答えは出ないのかもしれない。

ヴィルヌーヴ監督が、「リドリーとハリソンがこの謎について大声で口論していた」と証言しているが、それさえもファンサービスなのではないかと思えてくる。また、原作者のフィリップ・K・ディックに聞こうにも、彼はすでに亡くなってしまった。この謎はきっと、続編が作られるたびに議論されていくのだろう。しかし、そんな楽しみ方ができるのもまた、本作の大きな魅力なのだ。

“デッカードは人間か、レプリカントか”。そこに自分なりの答えを見つけた時、きっと『ブレードランナー』の世界の虜になっているはず。気になる人は、ぜひこの世界へ飛び込んでみてほしい!

文=SS-Innovation.LLC

【関連記事】なぜ『ブレードランナー』はSF映画を“変えた”と言われているのか?

『未来世紀ブラジル』『マイノリティ・リポート』『ゴースト・イン・ザ・シェル』……など、『ブレードランナー』が影響を与えた映画だけでなく、『ブレードランナー』が影響を受けた映画から本作をひも解く。

【関連記事】『ブレードランナー』初心者も必見!5つのバージョンに隠された“秘密”を解説

どれから観るべきか迷う、『ブレードランナー』の5つのバージョンをそれぞれ解説。『ブレードランナー』ビギナーはまず、こちらをチェック!