【町田雪のLA発★ハリウッド試写通信 ♯18】
「LA発★ハリウッド試写通信」では、ロサンゼルス在住のライターが、最新映画の見どころやハリウッド事情など、LAならではの様々な情報をお届けします。

今夏に日本で劇場公開された細田守監督の『未来のミライ』が、米ロサンゼルスのアニメーション映画祭「Animation Is Film Festival」(10月19日~21日)で米プレミアを迎えた。

同映画祭は、米アニメ映画配給会社GKIDSが、フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭とアメリカの映画業界紙「バラエティ」、国際アニメーション協会ハリウッド支部と提携して開催するもの。2回目となる今年は、『未来のミライ』のほか、『時をかける少女』(2006年)、『サマーウォーズ』(2009年)、『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)、『バケモノの子』(2015年)と4本の細田監督作品が特集上映され、監督自身が上映前の挨拶、上映後の質疑応答で登壇した。

『未来のミライ』(C)2018 スタジオ地図

実に12年ぶりのLA上陸となった細田監督は、日米観客の反応の違いや、米国におけるアニメーションの位置づけについて、何を感じたのだろう? 現地レポとインタビューを交えてお伝えしたい。

コメディ映画のように大ウケの連続!

映画祭の会場は、アカデミー賞授賞式が開催されるドルビー・シアターに隣接するTCLチャイニーズ6シアター。初日夜のオープニング上映作品となった英語字幕版『未来のミライ』は、2つのスクリーンで立て続けに上映され、ともに満席。注目度の高さをうかがわせた。

上映前の挨拶時にバラエティ紙の映画評論家ピーター・デブルージュが、「ここにいらっしゃる皆さんはセンスがいい!」と称えると、600人の観客は拍手喝采。期待度が高まるなかで登場した細田監督は、「この作品には、大冒険も大災害も大恋愛もまったく出てきません」と興奮を抑える前振りをして、逆に笑いをとっていた。

『未来のミライ』(C)2018 スタジオ地図

同作は、小さな中庭のある一軒家に住む甘えん坊の4歳児、くんちゃん一家の過去と未来を描いた冒険物語。産まれたばかりの妹のミライちゃんに、パパとママの関心を奪われて嫉妬気味のくんちゃんのもとに、中学生になったミライちゃんが未来からやって来るという展開だ。細田監督のいうとおり、起伏の激しいドラマではなく、淡々と家族と子どもの日常を綴る観察日記に近い。

そうしたなか、いざ上映が始まると、序盤はまるでコメディ映画であるかのように、大ウケの連続。なかには息もできないほどに爆笑している観客までいる。

『未来のミライ』(C)2018 スタジオ地図

ちなみに、筆者がメモした笑いのシーンを羅列すると、掃除機に吠える犬、奇妙な家を建てる建築家の習性、くんちゃんが思いついた赤ちゃんの名前候補がすべて新幹線の名前だったこと、おもちゃの電車で埋め尽くされるベビーベッド、母の鬼ババぶり……という具合。日本人にとっての笑いどころとも近いのではないだろうか。

『未来のミライ』(C)2018 スタジオ地図

あたたかい一体感に包まれた会場

上映後、細田監督に「観客のリアクションに、アメリカらしさが出ていたと思うか?」と尋ねると「基本的に(観客と)一緒に上映を観ることはしないので」との答え。「ただ、日本のお客さんは、笑いたくてもぐっとこらえて、周りに迷惑をかけないようにと、黙って観る傾向がありますよね。日本以外の国では皆、感じたままに感情を出して観ているように思います。

『未来のミライ』の上映会場 撮影:町田雪

まあ、一番リアクションが大きいのはアメリカですよね。でも逆に、ワッハッハッと笑っていて、どう考えても95点ぐらいのリアクションなのに、実際は40点なんて評価をつけられることもあるので、信用しすぎてはいけないとの教訓も(笑)。とはいえ、楽しんでもらえたり、喜んでもらえるのはうれしいです」。

質疑応答! 時間が足りない

上映前の「大冒険も大災害も大恋愛もまったく出てこない」という前振りも、アメリカ上映ならではの伏線だったのだろうか?

『未来のミライ』の質疑応答に登壇した細田守監督 撮影:町田雪

「アメリカは、極端にエンタテインメントを突き詰めているところがあるので、受け止める側の記憶をたどって感じるような、静かな映画を楽しんでくれるのかな、という懸念がありました。でも実際に上映してみたら、そういう懸念は杞憂でしたね。アジアやヨーロッパの映画祭の観客とほとんど同じで、取材や質疑応答を通して、この映画をすごく気に入ってもらえたのだと実感しました。教訓的でも、強く誘導するわけでもないのに、くんちゃんの成長の経緯と意味をしっかり受け止めてくれたのはうれしかったです」。

質疑応答では、時間が足りなくなるほどの質問が続いた。そのひとつひとつに真摯に答え、ときには「あなたはどう思う?」と発言者に質問返しをする細田監督のフレンドリーさによって、会場はあたたかい一体感に包まれる。こうしたムードづくりの裏には、細田監督の気遣いがあったようだ。

「映画祭やイベントに登壇するときには、国によって対応を変えているんです。その国の観客の顔を見て、自分がどういう振る舞いをするのがいいのか見極めたいと思っています。楽しい側面から、新しいフィルムメイカーとして、映画祭の価値観の中で……など、観てもらう切り口もそれぞれですから。アメリカでの『未来のミライ』のトークでは、フランクさが求められているのかなと思って、あのような対応をしました。これがカンヌだったら、もっと作家らしくふるまっていますね(笑)」。

共通言語は『デジモン』!!

さらにアメリカらしさが出た点といえば、細田監督のキャリア初期作『デジモンアドベンチャー(デジモン)』(1999年)の存在感だ。

質疑応答で司会を務めた前述のデブルージュが、「細田監督作品を前に観たことがある人は?」と問いかけると、会場の約8割が挙手。これに関して細田監督は、「約20年前に当時5~6歳で『デジモン』映画を観ていた子たちが20代になって、新しい作品を観てくれてるのかな」と分析する。

確かに最初の質問者が「細田さんといえば、最初の2本の『デジモン』映画の監督ですが」と切り出すと、会場は大盛り上がり。その後も、デジモン関連の質問がいくつか続き、「一番好きなデジモンは何ですか?」と聞かれた細田監督が「アグモン」と即答すると観客が沸く場面もあった。

『未来のミライ』が上映されたTCLチャイニーズ6シアター 撮影:町田雪

そんな『デジモン』崇拝ムードを受けて、細田監督自身も「“映画監督のデビュー作にはその人のすべてがある”と言った人がいたけれど、一番最初に作った映画の要素は、何本作ってもどこかに入っている感じがする。だから、最初に『デジモン』を作ることができて、すごく幸運だったと思います」と答えていた。

米アニメーションと対局にある作品だからこそ…

自身の対応や観客の反応におけるアメリカらしさを振り返った細田監督に、米国における日本アニメやアニメーション映画の位置づけについて感じること、アメリカ進出を目指すアニメーターへのメッセージをうかがってみた。

インタビューに答える細田監督 撮影:町田雪

「アメリカのアニメーションはとてもよくできているし、製作費も高く、大きな市場規模を意識して作られていますが、映画や作品としての自由を得て作っているとは言いきれない。逆に、実はものすごい制約や回収義務などガチガチで、作りたいものが作れていないかもしれない。何も大きなことは起こらず、地道に子どものいる家庭を描写しているにすぎない『未来のミライ』は、米アニメーションと対局にある作品。でもだからこそ、アニメーションという枠を超え、独自の視点や価値を持った映画作品として、多くの人に届くかもしれません。アニメーションの可能性も、まだ描かれていない人生もたくさんある。いろいろな作品をとおして、その可能性をどんどん広げていきたい、広げてほしいと思います」。

『未来のミライ』は今後、11月29日、12月5日・8日と3日間のイベント上映を経て、全米主要都市の約100館で一般公開される予定。今年度のアカデミー賞長編アニメーション部門への出品も発表されたばかりとあって、その動きに注目したい。