秋はハーヴェスト=収穫の季節。奇しくも、ワイン絡みの映画が3本続けて公開される。国も違えば、ワインとの距離感も異なる。ただ、ワインがささくれた心をそっと癒やすように、多様な味わいでスクリーンに「実り」を運んでくれる。

人間関係も、熟成してこそ

まずは、フランスの『おかえり、ブルゴーニュへ』(11月17日公開)。ワインと言えば、やっぱりブルゴーニュという人も多いが、そのものズバリのタイトルで、3本の中では最もワインそのものに接近した内容だ。

父との衝突から一度は飛び出したものの、10年ぶりに故郷のワイナリーに帰還した青年・ジャン。妹のジュリエットや弟のジェレミーと共に、ワイン造りを通して人生を再開させていく姿が描かれる。これまでパリを始めとする都市でばかり映画作りを続けてきた「都会派」の旗手セドリック・クラピッシュ監督が初めて大自然にカメラを向けた意欲作。

決して簡単ではないワイン造り。常に様々な困難が待ち受けるその過程に、やはりシンプルなようでシンプルではない、家族ならではの悲喜こもごもが重ねられていく。

兄であるジャンの不在から、自らがワイン造りを先導することになったジュリエットの複雑な気持ち。自分たちを置いて逃げ出した兄に対するジェレミーの、コンプレックスの入り混じった怒り。だが、それらをも、ワインが解きほぐしていく。性格の違う3人が、ワインの下で横並びになる。ワインという存在の優しさ、ふくよかさに、わたしたちはあらためて感じ入ることになる。

四季の移ろいを見事に捉えた映像も、「時間」の産物であるワインを象徴的に浮き彫りにする。そう、人間関係にも「熟成」は必要なのだということをこの映画は教えてくれる。

『おかえり、ブルゴーニュへ』より (C)2016 - CE QUI ME MEUT - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA

抜栓しなけりゃ、わからない

次はアメリカから、キアヌ・リーブスとウィノナ・ライダーが共演した『おとなの恋は、まわり道』(12月7日公開)。近年ますますワインラバーたちに愛されている産地、カリフォルニアを舞台にしたラブ・コメディだ。

ワイナリーの存在でも知られるカリフォルニア南部のサンルイスオビスポ。この地で行われるリゾートウェディングに招かれ、そこで出逢った男女の行方を綴っている。

キアヌ扮する男は、新郎の疎遠な兄。そしてウィノナ演じる女は、新郎の元フィアンセ。いまだに未練たっぷりなのに、意地を張っての参列である。偏屈に凝り固まった男と、弱みを見せたくない女。第三者から見ればみみっちいプライドにすがって我を張っている二人が、それぞれの自意識をいかに乗り越えて結ばれるか。それとも結ばれないか。一筋縄ではいかない模様が紡がれる。

場所とシチュエーションも相まって、二人がワインを飲み交わすシーンも多い。それぞれワインには特別な思い入れはないようだが、ホテルの部屋で一緒にワインを飲んでいる姿は心温まるし、飛行機内でキアヌが赤ワインを股間にこぼす場面は、二人の恋のある意味、クライマックスだ。

ワインは抜栓してみないと状態がわからないのと同じように、男女の相性も「開けてみる」まで見当もつかない。一見、最悪に思える組み合わせも、どう転ぶかは誰にもわからないのだ。

一本のボトルは、開けたあとの時間の推移で味わいが変化する。冷えていた白ワインも徐々に温度が上がることで、最初の一口とは別の地点へと辿り着くことも珍しいことではない。一組の男女が醸し出す「味」にも、やっぱり良きグラデーションがあるのだ。

『おとなの恋は、まわり道』より

すべての人を癒やす、フェアネス

ワイン発祥の地とも言われるジョージア産の『葡萄畑に帰ろう』(12月15日公開)は、その名の通り、大臣だった男が失脚し、葡萄畑のある故郷に帰ろうとする物語。

権力の座に固執し、翻弄され、結果的に地に突き落とされた主人公。そんな彼にとって、最後の逃げ場は故郷に残してきた母親だった。失脚した息子に母は「あなたの家はここ。畑や葡萄園で働けばいい」と言う。一度はエリートコースの頂点にのぼりつめた男が、人生のリターンマッチをするのに、葡萄畑はふさわしいのかもしれない。

本作では、順風満帆に再スタートが描かれるわけではない。乗り越えなければいけないハードルはいくつもある。だが、それをあくまでもユーモラスに活写する。

ワインは映画の後半から登場。主人公は失脚してから再婚するが、キャリアを失いながらも、伴侶を得た彼を祝う結婚式祝宴でふるまわれるワインからは、すべての人を公平に癒やす、大らかなフェアネスが感じられる。

トラブルに巻き込まれた主人公が隠れる場所として、ジョージアワイン独自のワイン瓷(かめ)、クヴェヴリが登場する。素焼きの瓷に葡萄の果実、果皮、種、実を支える枝すべてを入れ、自然発酵させるクヴェヴリ製法には古代からの歴史があり、その自然派のアプローチはいま世界から注目を集めている。

監督エルダル・シェンゲラヤは、本作の味わいをワインにたとえている。曰く東ジョージアのカヘティ地方にあるブドウ品種で作られる「有名な辛口の赤ワイン『ムクザニ』です」。映画もまたワイン同様、多くの人々の手間暇の結晶だ。そのことを痛感する言葉である。

『葡萄畑へ帰ろう』より

ワインに詳しくても、詳しくなくても、ワインは口にする人を包み込む。映画も同様。偶然が「忘れられない一杯のグラス」になるかもしれない。深まるシーズンに、良き出逢いを。

(文/相田冬二@アドバンスワークス)