文=村尾泰郎/Avanti Press

妻に先立たれて、男手ひとつで娘を育てながら、まじめ一本で会社勤めをしてきた佐野道太郎。定年退職後、ラジオ体操と出会ったことが、新しい人生の扉を開けることになる──。草刈正雄がさえないシングルファーザーを演じる『体操しようよ』は、『ディアーディアー』の菊地健雄が監督を務めた心温まるコメディだ。

『体操しようよ』
全国ロードショー中
(c)2018『体操しようよ』製作委員会

そこでサントラを担当したのは、サケロックの元メンバーで、現在はグッドラックヘイワで活動する野村卓史さん。これまで野村さんは『WOOD JOB! 〜神去なあなあ日常〜』(2014年)『ヒメアノール』『森山中教習所』(2016年)、などのサントラを手掛けてきたが、今回はヨーロッパ映画を思わせる洗練された音楽を披露。本人いわく「自分の中にはなかった音楽」を、どのようにサントラに仕上げていったのか。同席した音楽プロデューサーの和田亨さんと共に話を訊いた。

ラジオ体操とフランス映画っぽさのマリアージュ

──今回、サントラを手掛けるにあたって、監督と何か話はされたのでしょうか。

野村 最初にお話した時、「古い映画をベースにした作りにしたい」とおっしゃっていて、ジャック・タチの名前が出てきたんです。監督はタチの映画が大好きらしくて、「場面に音楽を合わせるのではなく、タチの映画の音楽みたいに、場面とは別に音楽は音楽として存在してほしい」というようなことを言われました。それでタチの映画を何本か観て、自分だったらどんな切り口ができるか考えたんです。

──映画のテーマ曲は、アコーディオンが入ったシャンソンっぽい音楽ですが、タチの映画をヒントにしていたんですね。

野村 そうですね。全体的にフランスっぽくしたかったんですけど、フランスって自分の中にはなくて(笑)。アコーディオンを入れたり、まず楽器を選ぶことから考えました。

──アコーディオンにマンドリンが絡むのがユニークですね。シャンソンとはまたちょっと違った雰囲気が生まれて。

野村 確かにフランスではフラットマンドリンってあまり使わないと思います。サントラに高田漣さんに参加してもらおうと思ったときに、漣さんならフラットマンドリンが一番合うんじゃないかと思ったんです。それでフラットマンドリンでメロディーを弾いて、次にアコーディオンがメロディーを弾いて……みたいな展開を想像して曲を考えていきました。

『体操しようよ』
全国ロードショー中
(c)2018『体操しようよ』製作委員会

サントラに深みを加えた、ピアノの音のコントラスト

──テーマ曲とは別に、しっとりとしたピアノ中心の曲も印象的でした。

野村 僕がいちばんうまく演奏できる楽器がピアノということもあって、穏やかな感情を伝える曲はピアノ以外に思いつかなかったんです。ただ、何度か流れるラジオ体操の曲でピアノが使われているので、サントラでピアノを使っちゃうと「関連があるんじゃないか?」と思われる恐れがあって、ピアノは使いづらかったんですよね。

──そうなんですか。でも、ラジオ体操の軽快なピアノとサントラの穏やかなピアノは対照的で、雰囲気は違っていたし、その対比がサントラの味わいになっていると思いました。

野村 そう感じてもらえると嬉しいです。レコーディングで使ったピアノが、明るい音が出るピアノだったんです。僕は暗い音がするピアノが好きなので、ピアノにある弱音ペダルという、音を小さくするペダルを踏みながらピアノを弾きました。

『体操しようよ』
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(c)2018『体操しようよ』製作委員会

中央アジアのパーカッション“ドイラ”をアクセントに

──道太郎が一大決心をしてひた走るシーンでは、この映画では音楽が前に出てきますね。アイリッシュ・トラッドみたいな曲調が印象的でしたが、監督のイメージだったのでしょうか。

野村 あそこは音楽プロデューサーの和田さんのアイデアです。和田さんと最初にやったサントラが『WOOD JOB! 〜神去なあなあ日常〜』だったんですけど、そのとき、サントラのモチーフにケルト音楽(アイルランドの伝統音楽)があって。それ以来、和田さんと仕事をするとケルト音楽が出てくるんですよね。ただ、今回のサントラで、そのまんまなケルトをやると浮いてしまうので、ケルト音楽ではあまり使わないフラットマンドリンを使ったり、和田さんがウズベキスタンで買ってきたドイラっていうパーカッションを使うことでケルト色を薄めました。

和田 あの走るシーン、道太郎がジャージを着ているので、普通に音楽を乗せると、ただジョギングしているだけに見えてしまうんじゃないかって監督が懸念していたんです。それでどうしようかって考えたんですよね。

注目のシンガー、優河がスコットランド民謡を披露

──音楽に道太郎の決意を感じさせる要素が必要だったんですね。その後、みんなで車に乗って温泉に行くシーンでは、優河さんが歌うスコットランド民謡「The Water Is Wide」が流れます。あのシーンも音楽が主役になっていますね。

野村 最初、あのシーンには、車内でのギャグっぽいやりとりが入っていたんです。でも、それを無くして、後半に向けて気持ちを切り替えるシーンになって。そしたら、和田さんが「歌がいいんじゃないか」っていうアイデアを出してくださったんです。

和田 「この川を渡るボートをくれ」っていう歌詞なんですけど、捉え方によっては「一線を越える」という意味にもとれる。それがシーンに合ってるんじゃないかと思って監督に提案したんです。それで野村君が曲をアレンジしてくれたんですけど、野村君が歌っているデモがスタッフ内で好評だったんです。「これでいいんじゃないか」っていう話も出て(笑)。

野村 すごい通らない声で暗〜く歌ってて、それが道太郎の気持ちを表してるみたいだったんです。夜中に声をひそめて録音したんですけど、よく聴くとメールが来た時の着信音が入ってる(笑)。

──結局、野村さんが歌わずに、優河さんに依頼したのはどうしてですか。

和田 監督の推薦です。監督が以前、優河さんと仕事をしたらしくて、「この曲でいくんだったら優河さんでいこう」って。それで連絡してみたら、偶然にも優河さんがライヴでよく歌っている曲だったんです。それを野村君が早めのテンポでアレンジしてくれたんですけど、そのアレンジが良かった。アレンジ次第ではNGになってたかもしれない。

野村 映像にあわせていろんなヴァージョンで合わせてみたんです。しっとりしたり、オシャレっぽく聞こえたりして難しかったんですけど、カントリー・スウィングみたいなアレンジにしてみたら、ちょうど良い感じになった。僕は漣さんと細野晴臣さんのサポートをやっているんですけど、漣さんとやることで細野さんとやっているカントリー・スウィング風のアレンジを思いついたんです。それを優河さんに歌ってもらったら、さらに良くなった。

和田 びっくりするくらい素晴らしかったね。

現場で演出をする菊地監督 (c)2018『体操しようよ』製作委員会

未知の自分に出会えるのがサントラの面白さ

──グッドラックヘイワをはじめ、幅広い分野で音楽活動もしている野村さんにとって、サントラの面白さってどんなところでしょう。

野村 「映画」っていうテーマが与えられると、今まで自分がやってこなかったこととか、これからも絶対やらないと思っていたことができたりする。それが楽しいですね。今回もフランスっぽい音楽に初めて挑戦したし。あと、自分が作った音楽で映画に新たな意味が加わるというか、より良くなっていくのも面白い。

『体操しようよ』
全国ロードショー中
(c)2018『体操しようよ』製作委員会

──完成した映画をご覧になって、どんな感想を持たれましたか。

野村 今までサントラを手掛けた作品のなかで、いちばん大人っぽい作品でした。あと、ディテールにすごく凝っていて。監督から聞いたんですけど、道太郎の娘が結婚して家を出て行く時、引っ越しの軽トラに荷物が積んであるじゃないですか。それが『となりのトトロ』に出て来る軽トラと同じものが、同じ積み方で載っているらしいんです。監督がジブリが大好きみたいで。そういう細かいこだわりもすごいと思いました。

──そうなんですか! 『となりのトトロ』と見比べたくなりますね。最後の質問なのですが、ラジオ体操の思い出があれば教えてください。

野村 小学校の頃に行ってましたね。スタンプを押してもらってたんですけど、最後までスタンプがたまったことが一度もない(笑)。というか、ほとんど行ってなかったです。

──この映画をきっかけに、もう一度いかがですか。

野村 そうですね。最近、身体がなまってきているので考えてみます(笑)。