少年院を出たものの社会の中で生きる術をもたず、犯罪者相手の窃盗(タタキ)をして最底辺の日々を過ごす少年たち――。社会派とエンターテインメントの両方の魅力をもつ人気マンガ『ギャングース』が、入江悠監督の手によって映画化され、11月23日に公開される。

入江監督といえば、『22年目の告白―私が殺人犯です―』(2017年)をはじめとするクライムムービーには定評のある人物。今作は“最底辺の少年トリオが巨大な悪に戦いを挑む”という作品だが、一体どんな作品に仕上がっているのか。話を伺った。

社会の底辺に生きる人々の真実を知り、あふれてきた想いを映画に込めた

Q:入江監督は『日々ロック』(2014年)や『ジョーカー・ゲーム』(2015年)など、原作をもつ作品を数多く手がけています。その中で単に原作をそのまま映画にするのではなく、常に何らかの変更点を加えていますが、原作とどう向かい合っているのですか?

原作のエッセンスといいますか、自分で脚本を書いていると、「原作のこの部分を映画化したい。あとは枝葉末節だからすいません」というのがはっきりしてくるんですね。実際に約2時間にまとめようと思うと、変えざるを得ない部分があります。紙メディアと映画では描き方も情報量も違いますからね。でも、原作にほれ込んで映画化するので大きく逸脱することはない。今回は原作者の方が僕の『SR サイタマノラッパー』シリーズ(2009年~)を観てくれていて、「入江ならアウトローの世界のこともわかってくれるだろう」と自由にやらせてもらえたので助かりました。

Q:実際に映画用のリサーチもされたとか?

もともとのルポルタージュ(※)をマンガにしていく際に、どこまでが本当でどこからが誇張された部分なのか、自分で調べたいと思ったんです。で、自分のルートを使って、実際にそういう生活をしていたり、恵まれない境遇にいた人に会ったんですが、同じ社会の一員でありながら、僕は今までこの人たちのことにまったく気付いていなかったという罪悪感や至らなさを痛感しまして、その想いが映画の中に反映されていると思います。

※マンガ『ギャングース』は鈴木大介のルポルタージュ「家のない少年たち」を原作としている

Q:詐欺の手口もすごくリアルです。

あれはすべて実際のものです。原作の鈴木さんにこちらが書いた脚本をチェックしてもらって、「ここはこんな風にはしない」とか、「こうした方がいい」とアドバイスをもらいました。マネーロンダリングのやり方に関しても、かなり綿密に教えてもらいました。

アメリカンニューシネマみたいな、行き当たりばったり感をだしたかった

Q:本作の主人公は3人です。監督は3人組の映画がお好きだとか……。

もともと少年たちの話やジャッキー・チェンの映画が好きで、1人じゃ弱くても3人が力を合わせれば強い力を発揮するようなチームものに憧れがありました。子どもの頃に観た『グーニーズ』(1985年)や『スタンド・バイ・ミー』(1986年)が原点ですかね。

『ギャングース』より。左から加藤諒、高杉真宙、渡辺大知
(c)2018「ギャングース」FILM PARTNERS(c)肥谷圭介・鈴木大介/講談社

Q:主役たちのキャスティングについて教えてください。

カズキ役の加藤くんはルックス重視で、「このマンガのキャラクターを演じられるのは彼しかいない」と決めました。高杉くんは今までの芝居を観てきて、ぜひ一緒にやってみたいと思ったので。渡辺くんに関しては、彼が映画好きで映画のことをよくわかっていると感じていたので、この『ギャングース』という作品に力を与えてくれるのを期待して加わってもらいました。このトリオが小さくまとまってしまうと面白くないので、ほどよい凸凹感というか、バラエティ感が欲しかったんです。

Q:一方の悪役ですが、一見、それっぽくない人たちを選んでいますよね。

日常生活でそこいらにいる普通の兄ちゃんが、特殊詐欺のような悪事に足を踏み入れている、という方が現代的かなと思ったんです。昔のヤクザやアウトロー風など、ステレオタイプの悪とは違うものを描きたかった。

『ギャングース』よりMIYAVI演じる安達
(c)2018「ギャングース」FILM PARTNERS(c)肥谷圭介・鈴木大介/講談社

Q:クライマックスの乱闘シーンで、悪のボスを演じたMIYAVIさんのアクションに驚かされました。

あの身体能力の高さは、実際に現場で見てびっくりしましたね。最初に会った時からオーラは感じていたのですが、撮影の合間にも体を作ったり精神統一をしたりと集中力がすごかった。彼はミュージシャンでもあるので、大勢の観客の前で体を動かしながらパフォーマンスをすることで、精神的にも肉体的にも鍛えられているのでしょうね。

Q:最弱の3人組が強大な悪の組織に挑むという、よくある図式でありながら、思わぬ展開を見せるところが面白かったです。

主人公たちは教育を受けていないし、金も力もない。能力的には悪い奴らに絶対にかないっこないので、それにどう立ち向かうか。懸命に練ったプランがいったん破綻するところは、映画の王道パターンですよね。そこからは最終的には運任せ。アメリカンニューシネマみたいな行き当たりばったり感をだしたかった。主人公たちがやっていることも結局は悪事なわけで、決して褒められた生き方をしているわけじゃないのですが、生き抜くことに対しては必死で真剣。そこにお客さんが共感してくれるとうれしいです。

Q:音楽がまた画面にぴったり合っていました。

『ビジランテ』(2017年)でも組んだ海田庄吾さんにお願いして、登場人物の動きに合わせて作曲してもらったんです。タタキがうまくいっている時はテンポよく、何かハプニングが起きると転調してといった具合に、映像に音を合わせてもらいました。

これから映画を作りたい若き映画人に贈る言葉

Q:入江監督の作品には『ビジランテ』のような閉塞感に満ちたものと、エンタメ性を感じるスタイリッシュなものの両方がありますが……。

自分のオリジナルで一から作品を毎回作っていくと、すごく閉塞感に陥っちゃうんです。どうしても苦しい方へと向かってしまうんですよね。原作ものだと、原作の力を借りてそこを突き抜けて行ける。映画としては、さまざまな問題提起をしながらも、最後は希望に向かって開かれてほしいと思っているので、そこのバランスを迷いながらやっています。

Q:少年時代からそういう映画がお好きだったのですか?

一回どん底に落とされた主人公が、そこから這い上がっていく、というストーリーの映画が好きでした。高校生の時に観た岡本喜八監督の『独立愚連隊』(1959年)と『独立愚連隊西へ』(1960年)が大好きで。これも何もないアウトローたちが反骨心と生命力だけで生きていくお話。女っ気のない映画が好きなんです(笑)。

Q:そういえば、恋愛ものって撮っていないですね。

恋愛映画は自分には撮れないかな(笑)。あえて挑戦したいとも思いません。僕よりももっと上手に撮れる監督がいるだろうから、自分がやる必要はないかな、と。

Q:最後に、自主映画出身の監督として、若い映画人たちにアドバイスをいただけますか。

東京国際映画祭の日本映画スプラッシュの審査員をしていて思ったのですが、「映画は作った者勝ち」なんですよ。よく「脚本を書いています」「自主映画を作りたいんです」と言ってくる人がいますが、作ることによって人とのコミュニケーションが生まれ、「ここはこうしておけばよかった」と話が膨らんでくる。だから最初はどんなに稚拙な出来であっても、まずは作ることが大事だと思います。

『ギャングース』11月23日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー|(c)2018「ギャングース」FILM PARTNERS(c)肥谷圭介・鈴木大介/講談社|配給:キノフィルムズ/木下グループ

『ギャングース』に登場するのは、社会や家族に見捨てられ、廃バスの中で共同生活を送る3人の少年たち。サイケ(高杉真宙)、カズキ(加藤諒)、タケオ(渡辺大知)は、悪党相手の窃盗でわずかな稼ぎを手にしていた。そんなある日、偶然にも犯罪カンパニーの振り込め詐欺に関するデータを入手したことで、彼らと全面抗争するハメになってしまい……。

入江監督の語った、社会の底辺に生きる人々の真実、リアルな犯罪描写。その中で必死に生き抜こうとする3人の姿を、ぜひ映画館で確かめてもらいたい。

(文/紀平照幸@H14)