毛布が恋しくなり始めた今月の5つ星は、スパイダーマンの宿敵・ヴェノムを主人公にしたマーベル注目の新作から、伝説のロックバンド・クイーンの伝記映画、不器用なカップルを描いた本谷有希子の原作によるラブストーリー、吉田羊が壮絶な母親を演じた衝撃作、そして疑心暗鬼に陥る二組の家族が直面する恐怖を描いた心理スリラーをピックアップ。これが11月の5つ星映画5作品だ!

『ヴェノム』 (11月2日公開)

(C) &TM 2018 MARVEL

スパイダーマンの宿敵・ヴェノムが残虐性むき出しで大暴れ!

 マーベル屈指の人気キャラクターであり、『スパイダーマン3』にも登場した宿敵・ヴェノムが主人公のアクション。違法な人体実験を行う財団の真実を追う中で、地球外生命体シンビオート/ヴェノムに寄生され、ダークヒーローとして戦う宿命を背負うジャーナリストのエディ・ブロックを、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』などでお馴染みのトム・ハーディが熱演している。生きるために容赦なく人間を襲うヴェノムの残虐さに困惑するエディと、その力を受け入れ、ジャーナリストからヒーローへと変貌していく過程を活写しており、時にシリアスに、時にコミカルなストーリー展開も絶妙。エディとヴェノムの何気ない掛け合いには、コメディー映画の要素も。そして何といっても、二人が一つになった時の凶悪なビジュアルは鳥肌もの。俊敏な動きで敵を次々となぎ払っていく姿は、怖さと共に爽快感を覚える。マーベル映画には珍しい、ダークなテイストで描かれるヴェノムの暴れっぷりに注目だ。(編集部・倉本拓弥)

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『生きてるだけで、愛。』(11月9日公開)

(C) 2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会

趣里の圧倒的な演技力!力強く美しい映画

 昨今よく見聞きする「生きづらさ」。この映画は自分を見つめ、追究するあまり、社会的には“終わっている”と見なされる女性の葛藤が描かれる。主人公が取る行動のぶっ飛んだ非日常感と、転がり込んだ彼氏の家での生活感たっぷりの日常がいい塩梅で混在。早々から「一体どうやって決着するのだろう」とエンディングに期待が膨らんでいく。数多くの舞台で腕を磨き、テレビドラマ「とと姉ちゃん」「リバース」「ブラックペアン」などでその存在が必ず話題になってきた主演の趣里は、相手役の菅田将暉のフィット感、仲里依紗や田中哲司、西田尚美、松重豊ら他キャストの安定感が支えとなり、実力を遺憾なく発揮。一皮も二皮もむけた演技で圧倒する。本谷有希子の同名原作を基に脚本も手がけて長編劇映画デビューを果たした関根光才監督の撮りたい画も明確で、色味や光を自在に操り力強く美しい映画を世に放つ。アート&インディー系にありがちな自己陶酔は一切なく、脳裏に焼きつく名ゼリフも連発。次作でぜひ、邦画界を活性化させる新たな才能のオリジナル長編を観てみたい。(編集部・小松芙未)

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『ボヘミアン・ラプソディ』(11月9日公開)

(C) 2018 Twentieth Century Fox

唯一無二のバンド、クイーンの音楽に心酔

 世界的バンド、クイーンのボーカルであるフレディ・マーキュリーの生きざまを描いた本作は、彼らの名曲が出し惜しみされることなくノンストップで流れ続け、自然と身体がリズムを刻む。1970~1980年代の音楽シーンの第一線で活躍し続けた伝説のシンガーであり、セクシュアルマイノリティーとして悩む繊細なフレディをラミ・マレックが熱演。細すぎる身体からは考えられないほどのエネルギッシュなステージパフォーマンスを再現しており、スクリーンで観ているのは「本物のフレディ?」と思わせるほど後姿までそっくりだ。一方で、フレディが愛した女性メアリーや、バンドメンバーのブライアン・メイ、ロジャー・テイラー、ジョン・ディーコンたちが常識にとらわれない自由なフレディを温かく、時に呆れながら見守る様子が愛おしい。初めてのレコーディングの場面では、音楽を全身で楽しむ4人にワクワクし、クイーンの音楽はフレディだけでは成し得なかったのだと実感。伝説にもなった英ウェンブリー・スタジアムで行われたライヴ・エイドのシーンでは、実際にライヴに行ったような興奮を味わうと共に、成功と挫折を味わったフレディの復活を涙なしには観ることができない。(編集部・梅山富美子)

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『母さんがどんなに僕を嫌いでも』(11月16日公開)

(C) 2018「母さんがどんなに僕を嫌いでも」製作委員会

幸福感あふれる冒頭から反転するストーリーの妙

 タイトルからして壮絶だが、漫画家・小説家の歌川たいじの実体験に基づくストーリーで、彼が2013年に出版したコミックエッセイが原作となっている。冒頭、主人公のタイジ(太賀)がウキウキとまぜごはんを作るシーンには幸福感があふれ、とても彼に母親から虐待された壮絶な過去があるとは思えないが、逆説的なこの冒頭が、映画を見終えると絶大な効果を発揮しているのがわかる。まぜごはんに一体どんな思いがあるのか、を知った時には胸を締め付けられずにいられない。彼の母親・光子(吉田羊)は、何かと「みっともない」と息子を否定し続ける。虐待のきっかけは、夫との関係のように思えるが、なぜ彼女がタイジを目の敵にするのかはわからず、本人にさえわかっていないのではないかと思わされる。そんな理不尽さを、どう受け止めればいいのか。いけすかない風でいて、人情の厚い金持ちのボンボン・キミツ(森崎ウィン)ら友人たちの言葉に耳を傾け、ガラリと発想を変えていくタイジの成長を体現した太賀、負の感情を発散し続ける母親を絶妙なグラデーションをつけて演じ切った吉田羊の熱演に圧倒される。(編集部・石井百合子)

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『イット・カムズ・アット・ナイト』(11月23日公開)

(C) 2017 A24 Distribution,LLC

人間以上に恐ろしいモンスターなどいないと思う人ならハマるはず

 世界の終末を舞台に、独自のルールを定めて生き延びてきた家族が他の家族と出会った時に何が起きるのかを容赦なく描き出した本作は、ジャンル分けをするなら、ホラーよりもサイコロジカルスリラーとした方がしっくりくる。脚本も執筆した新鋭トレイ・エドワード・シュルツ監督は最低限の情報を少しずつ観客に与えることで、些細な一言によって心に芽生えた“不信”が後戻りできないレベルにまで膨らんでいき、ギリギリで保たれていたパワーバランスが音を立てて崩れていくさまを、ただならぬ緊張感で可視化することに成功している。それを支えたのが、一家のあるじ役のジョエル・エドガートンの名演であることは疑いようがない。『ラビング 愛という名前のふたり』でもそうだったように、余計なものをそぎ落としたことで一層雄弁にキャラクターの真実を語るジョエルの繊細な演技には、ただただ引き込まれる。ゾンビでも怨霊でもなく、本当に恐ろしいのは人間自身だと思う人なら絶対ハマるはず。(編集部・市川遥)

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シネマトゥデイ編集部