福井県を走る「えちぜん鉄道」を舞台に、人生の再出発や家族との絆をハートウォーミングに描いた『えちてつ物語~わたし、故郷に帰ってきました。~』。夢破れて故郷に戻り、えちぜん鉄道(通称:えちてつ)のアテンダントという職業に出会って輝き始めるヒロインを演じた芸人の横澤夏子が、初めての主演映画の苦労と作品を通して学んだことを語った。

初主演映画にパニック!

Q:映画初主演作ですが、出来上がった作品を観た感想を聞かせてください。

ずっと私が出てくるじゃん! って、当たり前なんですけどびっくりしました。両親どころか、親戚一同喜んでいます。うちのお母さんは、パンフレットを配り散らかしています(笑)。本当に、こんな私なんかに声を掛けてくださって、ありがたいです。

Q:おっしゃる通り、本当に出ずっぱりでした。セリフの量もすごく多かったですが大丈夫でしたか?

全然大丈夫じゃなかったです。もう、パニックでした(笑)。ホテルにこもってセリフを覚えて、ご飯の時だけ外に出る、っていう熊みたいな生活をしていました。ほかのキャストの皆さんは、観光などされているようでしたが、いつセリフ覚えているんだろうって不思議でした。役者さんは本当にすごいです! 

Q:普段から横澤さんのお笑いを見ていると、誰かに乗り移ったかのようなコントが多いですが、女優として演じるのとはまた違うのでしょうか?

妄想でネタを作ったり、実際にいる人をモノマネしたりするのはすごく楽しいんですけど、経験のないことだと難しいです。やっぱり女優さんってたくましいというか、かっこいい職人だと思いました。あたかもこの人生を送っているようにするのは本当にすごい。

Q:お兄さん役の緒形直人さんと白熱のシーンがありました。

演技なのはわかっているんですけど、本気で緒形さんが怒っているんじゃないかと思えてきちゃって(笑)。緒方さんは、朝ドラでずっと観てきた方だったので、すごくうれしい反面、私なんかがご一緒させていただくなんて恐れ多くて。でもご本人は「写真撮ろうよ!」みたいな感じで、気さくで素敵な方でした。

撮影と結婚式準備が被った

Q:憧れの先輩を演じた辻本祐樹さんとのシーンも、こっちまでキュンとしちゃいました。

そうなんです! NHKの連続テレビ小説「ちりとてちん」のときから大ファンだったので、めちゃくちゃうれしかったです。あとドラマ「3年B組金八先生」も好きだったんで、すごくテンションが上がりました。私自身キュンキュンしていたので、それが伝わったんだと思います。

Q:ちょっとデートっぽいシーンもありましたね。

そんな経験ないじゃないですか! ただただドキドキしていました。しかもそのシーンの撮影中に、ちょうど虹がかかったんです! やば~い!! って思って一緒に写真を撮ってもらいました。今でもすごく大事に持っています。

Q:横澤さんは今まさに新婚ですよね? ヒロイン・いづみの恋愛の仕方はどう映りましたか?

いづみは映画の中でグイグイいっていたじゃないですか。脈があるんだったらいってしまえ! 勝手に脈ありだって思って突っ走る! みたいなところは似ています。私も婚活パーティーに100回とか行っていたので、結構がめついタイプだと思います。でも、本当に結婚までの道のりって大変だと思いました。一人の人を羽交い締めにして、結婚に陥れるのは大変でした(笑)。

Q:結婚式が撮影の直後だったそうですね。

撮影の終わった翌月に結婚したんですけど、辻本さんにもトキめいちゃうし、本当に大変でした! 結婚式場にいつもドタバタしながら電話していたので多分ブラックリストに載っているんじゃないかと思います。(笑)心も体も忙しかったです。(笑)撮影中は、いろんな人とケンカする場面が多くあったので、自分のことどころじゃなく感情を持っていかれて、ありがたい事に、イライラをそこまで家に持ち帰らず旦那ともケンカせずにいられたんですけど、撮影が終わってからの方がケンカになりました(笑)。

地元のように温かい福井県

Q:この映画のもう一つの主役、えちぜん鉄道が素敵でした。 

本当にすっごくかわいくて。1、2両くらいの短い車両なのに、そこにアテンダントさんが乗車しているのがなんだか過保護に見えて、地域密着ってこういうことなんだなって思いました。東京でも中央線にいてほしいと思っちゃいました(笑)。

Q:横澤さんのアテンダント姿も素敵でした。

本物のアテンダントさんたちが撮影中もサポートしてくださって、本当に感動しました。めちゃくちゃ優しくて、撮影のスタッフさんたちにもちゃんとアテンドされていました。気遣いがないとできないお仕事だと思いました。

Q:アテンダントさんから学んだことはありますか?

たくさんありました! 例えば人に手を添える時に片手じゃなくて、両手で人を支えるとか、そういう人への丁寧さが大切だと思いました。スカーフも首元を大事にすることで、女性らしさや華やかさが出ることを教えてもらいました。スカーフのおかげで風邪も引かなかったです(笑)。

Q:地方の魅力が詰まっていて心が温かくなる映画ですが、横澤さんもご自身の地元が恋しくなることはありますか?

地元は本当に温かいです! 上京して来たのに結局地元に戻るってことは、ちょっと負け組っぽく思われがちですが、地元に帰っても新しい道を見つけて生きていくというストーリーなのが、この映画の良いところです。

Q:地元のプレッシャーのようなことは、横澤さんも感じたことがありますか?

めちゃくちゃあります。全然売れていなかったときとか、同級生とかがあざ笑っているんじゃないかと思っていました(笑)。だから、当時は地元に戻るという選択肢は怖いと思っていたんですけど、この映画を観るとマイナスでもないし、別に逃げてるわけでもないんだと気が付きました。

Q:福井県の風景ものんびりと穏やかで風情がありました。

ビル街ではなく、田舎の風景を見るだけでも心が洗われました。福井県にはそういう風景がとても多くて、何もないのがまたいいんです。若い頃は、いい女ぶっていろんな夜景を見たり、おしゃれな場所に住んだりすることがステータスだと思っていましたが、それは必要ではなかった。そういうのも楽しいけど、のどかな場所に行くことも必要だと思いました。

Q:逃げるのが負けってことじゃないって、なんだか勇気をもらえました。

私もこの映画を通して、彼女が選んだ人生を体験して、私まで気持ちが楽になりました。仕事も、プライベートも、別にこうじゃなきゃいけないということはない。例えばですけど、みんなに好かれようと思って行動すると疲れるじゃないですか。若い頃はそういうことばっかり考えて頑張っていたけど、自分がのびのびできる場所は、ほかにもあるのかもしれないっていうのを勉強できました。うまくいかなかったら、別の道を見つければいいんです。

取材・文:森田真帆 写真:杉映貴子