文=金田裕美子/Avanti Press

北欧の食器や生活雑貨、インテリアなどが日本でブームになって久しいですが、この「北欧ブーム」の火付け役のひとつといわれているのが、2006年に公開された映画『かもめ食堂』です。

かもめ食堂

フィンランドのヘルシンキでたった一人、「かもめ食堂」を開いた日本人女性と、そこにやってくる人たちのほんわかした物語。映画の大ヒットとともに、シンプルなインテリアや店で使われているイッタラ、アラビアなどの食器、マリメッコの服やファブリックの人気が沸騰。あれから12年以上経った現在も、北欧ブームは衰えることを知りません。

北欧の生活雑貨と並んで大いに話題になったのが、かもめ食堂で出されるおいしそうな料理の数々。お寿司や天ぷらなど、海外の日本食レストランにありがちなメニューではなく、生姜焼き、焼き魚、肉じゃがなど、ごくごく家庭的な和食ばかりです。

中でも特に印象的なのが、おにぎり。この映画の感想をたずねると、かなりの確率で「おにぎりが食べたくなった」という答えが返ってきます。というわけで、今回はかもめ食堂の看板メニューであるおにぎりと、お店にお客さんが来るきっかけになる北欧風シナモンロールを作ってみます。

それからもうひとつ、物語にちょっと不思議な登場の仕方をするきのこ、ジロールを使った料理もおまけに。

ジロール

日本の定番おにぎりとフィンランドの定番シナモンロール

かもめ食堂は、サチエ(小林聡美)が好きなものばかりを集めて港町ヘルシンキにオープンさせた念願の店。でも町の人たちは窓ごしに店をのぞき込むばかりでなかなか入って来てくれません。来客数ゼロが続いたある日、日本かぶれの青年トンミ(ヤルッコ・ニエミ)がやっと来店したものの、彼は「最初のお客様だから永久に無料」のコーヒーを毎日飲みに来るばかりで、相変わらず売り上げはゼロ。トンミに教えてくれとせがまれた、テレビアニメ「ガッチャマン」主題歌の歌詞をたずねたのをきっかけに、ミドリ(片桐はいり)と知り合い、彼女が店を手伝うことになりますが、やっぱり誰も来ない日が続きます。多少なりとも興味を示すのは、外から覗き込むばかりの女性3人組と、やたら怖い顔でにらみつけてくるおばさんばかり。

心配したミドリは、看板メニューのおにぎりに「地元の人にも親しみのある具を使ったらどうか」と提案、トナカイのクリームソース、ニシンの酢漬け、ザリガニの天ぷらを試してみます。でもどれも微妙な感じで、サチエは「やっぱりおにぎりは梅、鮭、おかか」とこだわりを見せます。

これには私も大賛成。最近コンビニで「悪魔のおにぎり」なるものが不動の一番人気「ツナマヨ」を抜いたことが話題になりましたが、私もスタンダードな梅、鮭、おかかが好き。ちなみに我が家では梅とおかかが合体した「おかか梅」でしたが。

店がいくらスタンダードな和食にこだわっても、誰も食べてくれないのでは意味がありません。はじめは「そのうちお客さんも来るようになりますよ」とのんびり構えていたサチエですが、突飛に「シナモンロール作ってみましょうか」と言い出します。試しに焼いてみると、シナモンのいい香りにつられて、いつも店をのぞき込むばかりだった女性3人組がついに来店。それをきっかけに、地元の人たちも徐々に訪れるようになります。

サチエが買い物をしていたヘルシンキの市場

このシナモンロール、フィンランドではどこのカフェにも置いてあり、家庭でもよく作られる定番のパンなんだそう。渦が真上を向いていてアイシングがどっちゃりのったアメリカン・スタイルとは違い、ロールの両側に渦があり、ワッフルシュガー(パールシュガーとも)をトッピングするのがフィンランド風です。この形状がなんだかかわいい。

では、かもめ食堂名物、おにぎりとシナモンロールを作ってみましょう。

「かもめ食堂」定番おにぎりはシンプル具材!

おにぎりはわざわざレシピを書くまでもない、梅・鮭・おかかの具に海苔を巻いた普通のおにぎりです。

おにぎりはやっぱり梅、鮭、おかか

ふたりが試したトナカイやザリガニは材料が手に入れにくいし、瓶詰の酢漬けニシンは「本当に美味しい!? 『魔女の宅急便』ニシンのパイ食べくらべ【映画の料理作ってみたらVol.37】」の回で食べてみてその強烈な甘さと酸っぱさにこりたし、サチエさんが「合わない」と言っているものにわざわざトライしてみるガッツはありませんでした。

バター&シナモン香る焼きたてシナモンロール

お次はシナモンロール。強力粉はふるっておきます。カルダモンは殻をむいて中のシードを取り出し、すり鉢で粗くあたるか、包丁で刻んでおきます。

カルダモンはインドのミルクティー、チャイやカレー、お菓子などに使われる清涼感のあるスパイス。刻むと、昔ながらのソーダ水や、ガリガリ君ソーダ味(同じか)のようないい香りがします。

カルダモンの皮をむいたところ

40℃くらいに温めた牛乳にドライイーストを入れ、2、3分置きます。ボウルにグラニュー糖と卵、塩、カルダモンを入れてよく混ぜ、牛乳を加えます。ここに粉を数回に分けて入れ、手でよくこねます。全体がなじんだら溶かしたバターを入れ、さらによーくこねます。

これが手にはくっつくし、バターを入れるとベタベタな上につるつるだし、生地としてまとまる時が来るのか? という絶望的な気持ちになりますが、根気よくこねたり台に叩きつけたりしているうちに、だんだんまとまって手にくっつかなくなってきます。

生地がなめらかになったらボウルに入れ、布をかぶせて暖かいところに置いて1時間ほど発酵させます。

生地が2倍くらいに膨らんだら打ち粉をした台の上に取り出し、めん棒で30×40~50センチくらいに伸ばします。

上下の端2~3センチを除く全体に刷毛で溶かしバターを塗り、グラニュー糖とシナモンパウダーをまんべんなくふりかけます。なるべく空気が入らないように、手前からしっかり生地を巻いていきます。

最後の端をつまんで閉じ、そこを下にして置いて生地を台形に切り分けます。

台形の細い部分を上に向け、真ん中を両手の小指でぎゅっと押さえます。これ、サチエさんとミドリさんもやっていましたが、映画では何の作業なのかはっきりわかりませんでした。こうすることで両端の渦の部分が斜め上を向いて、あのかわいい形になるのですね。

この時、きちんと真ん中を押さえて両サイドを均等にしないと、片側だけびよーんと飛び出たり、でろーんと上を向いたり、焼き上がりにブサイクなシナモンロールが出現するので、ここは丁寧に。

小指でぎゅっ

クッキングシートを敷いた鉄板に生地を並べ、布をかけて30分ほど置きます。その間にオーブンを200℃に温めておきます。30分経ったら生地の表面に溶き卵を塗り、ワッフルシュガーをふりかけ、オーブンへ。

数分経つと、バターとシナモンのいい香りがしてきます。これはあの3人組がつられて入店してしまう気持ちもわかります。鉄板の前後を入れ替えながら10~15分ほど焼き、きれいな焼き色がつけば出来上がり。

生地が膨らんできれいな形に焼き上がったものと、いびつな形になってしまったものとありますが、それもまた楽しからずや、です。

まるでアンズ⁈ 鮮やかな色と香りのきのこ・ジロール

おまけにもう1品。かもめ食堂にやっとお客さんが入るようになったころ、空港で荷物をなくされたというマサコ(もたいまさこ)が店に通ってくるようになります。

「この国の人はどうしてこんなにゆったりのんびりしているように見えるんでしょう」と言う彼女に、トンミ君がこう答えます。「森。森があります」。滞在期間もすることも決めていないミドリや、荷物がなくなっても動じないマサコも相当ゆったりのんびりしていると思いますが、マサコはそれを聞くなり「森に行ってきます」と出かけていきます。森には黄色いきのこがたくさん生えていて、マサコはそれを摘んでハンカチいっぱいに集めます。

これはフランスではジロール、日本ではアンズ茸と呼ばれるきのこ。本当にアンズのような甘酸っぱい香りがします。日本ではトリュフやポルチーニほど知られていませんが、ヨーロッパでは夏から秋にかけてよく食べられていて、きのこ狩りの対象としても人気らしい。

アンズ茸はその鮮やかな色と香りで、ほかのきのこと見分けやすいんだそうです。そういえば、青年が自分の持ち物すべてをリセットするフィンランドのドキュメンタリー『365日のシンプルライフ』(2013年)でも、「彼女と森にきのこ狩りに行こうと思う」なんてセリフがありました。あれもジロールだったのかも。

黄金色に輝くジロール!

映画にはジロールを食べるシーンはないのですが、調べてみると、このきのこにはクリーム系が合うらしいので、ジロールのクリームパスタを作ってみます。

ちょうど季節なので、フランス産の生のジロールが手に入りました。が。枯草やら土やらがついていて、結構キタナイ。とはいえ水で洗っては香りが落ちると思い、ナイフと刷毛で丁寧に汚れを落とします。この掃除にかなりの手間がかかりますが、せっかくのジロールを美味しく食べるためなら頑張れる!

意地でも洗わないで頑張りました

フライパンにオリーブオイルとにんにくのみじん切りを入れ、玉ねぎみじん切り、千切りにした生ハム、ジロールを加えて炒めます。きのこがしんなりしてきたら生クリームを加えて軽く煮ます。

フェットチーネ(パスタはお好みで何でも)を茹で、ジロールのクリームソース、おろしたパルメザンチーズと合わせます。

生ハムもパルメザンチーズも塩気が強いので、ここで味見をして必要なら塩を加え、最後にこしょう、パセリをふって出来上がり。

ゆったり味わう「かもめ食堂」気分

勝手な1品も加えた「かもめ食堂スペシャル」の完成です! おにぎりは、まあ安定のお味。シナモンロールは、思ったより生地がしっかりしていて、歯にくっつく感じ(笑)。カルダモンの粒粒がさわやかなアクセントになっています。アイシングたっぷりより、私はこちらの方が好き。

ジロールのクリームパスタは、食べてみると香りだけでなく、後味もなんとなくアンズっぽい。色もきれいだし、これは機会があれば年に一度くらい食べたいなあと思わせるきのこでありました(掃除は大変だけど)。

映画の撮影に使われたヘルシンキのカフェは、2016年に「かもめ食堂」(Ravintola Kamome)としてリニューアル・オープンし、おにぎりやシナモンロールなど映画に登場する料理やフィンランド料理を出しているそうです。

映画の公開から10年たってタイトルを冠したお店ができるほど、『かもめ食堂』はながーく愛されているんですね。食器やインテリアだけでなく、あのゆったりのんびりした雰囲気にも、憧れを抱く人が多いからなのかもしれません。

毎日窓越しに睨んでくる怖いおばさんが店に入るなり注文するのは、コスケンコルヴァというウォッカ。これは日本には輸入されていないようなので、フィンランディアを用意しました

【材料】
《おにぎり》
炊いたご飯、梅干し、鮭、鰹節、醬油、海苔、塩
《シナモンロール》
強力粉、牛乳、ドライイースト、バター、グラニュー糖、塩、卵、カルダモン、シナモンパウダー、ワッフルシュガー
《ジロールのクリームパスタ》
ジロール、生ハム、玉ねぎ、にんにく、生クリーム、パルメジャーノ、パセリ、塩、こしょう、フェットチーネ(パスタはお好みで)
【映画っぽい雰囲気を盛り上げる小道具】
北欧食器、北欧家具、北欧生活雑貨、北欧ファッション、買い物かご、ムーミンの本、自転車、エプロン、サングラス、スーツケース、妙に和風なTシャツ