12月1日(土)に公開される『キックス』は、今年世界中で大ヒットした『ブラックパンサー』をはじめ、近年映画界でも注目されている“ニューエイジ・ブラックムービー”の話題作。カリフォルニア、リッチモンドを舞台に、ブランドンという一人の少年の成長を描いていますが、そのカギとなるのが「スニーカー」です。

ストリートカルチャーにおいてスニーカーとは単なる靴にとどまらず、自己表現を象徴するもの。スニーカーを履くということは、そのコミュニティーで存在感を示すことになります。作中では少年がスニーカーを履くことが、いっぱしの男になる過程として表現されていました。

今、日本では再びスニーカーブームが到来しており、ストリートカルチャーにとってもスニーカーは重要なキーワードになっています。そんな国内外のスニーカーカルチャーの状況を、映画の中に描かれてきたスニーカー像と合わせてご紹介したいと思います。

ブラックカルチャーとも縁の深いスニーカー

ブラックカルチャー、ストリートカルチャーにおけるスニーカー人気は、1980年代に花開きます。そのきっかけになったのが、『キックス』で主人公が着用する「Air Jordan 1」というスニーカー。NBAにおける黒人のスーパースター、マイケル・ジョーダンのシグネチャーモデルとして発売されたものです。

また、映画におけるスニーカーブームをさかのぼっていくと、1980年代にヒットしたヒップホップ映画『クラッシュ・グルーブ』(1985年)にたどり着きます。この作品に出演していたのが、当時ブレイクしていたヒップホップグループのRun-DMCです。

彼らはアスリート以外で初めてアディダスと100万ドルのスポンサー契約したアーティストで、「My Adidas」といったスニーカーに関するヒット曲も生み出しました。また、彼らはロックバンドのエアロスミスをフィーチャーした「Walk This Way」のMVに、現在でも定番スニーカーとして人気のスーパースターを“紐を通さずに履く”という斬新なスタイルで登場。当時のストリートファッションに大きな影響を与えました。さらにライブをすれば、ファンはアディダスのスニーカーを手に持ち会場に詰めかけ、彼らのライブを楽しみました。

ドキュメンタリー映画『スニーカーヘッズ』(2015年)では、スニーカーをコレクションする文化は、こうしたブラックカルチャーの影響によって生まれたと説明しています。ヒップホップとともに成長し、白人の若者などの多人種をも取り込んで成長。大衆は自分たちが好むアーティストに敬意を示すために、彼らが履くスニーカーを購入しました。また、子ども達が成功したアーティストたちと同じスニーカーを履き、彼らを真似るという流れも生まれています。

1970年代のヒップホップ黎明期を描いたNetflixの「ゲットダウン」(2016年~17年)でも、スニーカーは黒人たちのファッションを語る上で、外せない重要なアイテムとして描かれています。

少年を男にするスニーカーカルチャー

スニーカーコレクターの姿を描いた『スニーカーズヘッズ』や、Netflix「ソーシャル・ファブリック」(2017年)には、“スニーカーヘッズ”とよばれるスニーカーマニアたちが登場します。

作中で彼らはスニーカーのことを「男の交流のきっかけ」と語っています。スニーカーとは単なる靴でなく、自己実現を象徴するものであり、人が持っていないレアなこだわりのスニーカーを履くということは、そのコミュニティーで存在感を示すことを意味すると。少年が“スニーカーを履く”ということは、コミュニティー内における自己実現を達成した“いっぱしの男”になることと説明されていました。

また、スニーカーを収集することは、知識をひけらかすのが好きな男性の気質にも合っています。「ソーシャル・ファブリック」では、スニーカーを探し出すまでの“忍耐を必要とする”経験が重要で、そういった価値観を男性同士で共有することが、仲間を作るきっかけになるとしていました。

 “ラグジュアリーストリート”化していくスニーカー

アメリカを代表するラッパーで、自身の半生を描いた『8 mile』(2002年)で主演したエミネム。彼とナイキのコラボスニーカーは、いまだにプレミアがついています。同じくラッパーでは、最近だとカニエ・ウエストがアディダスと組んで、自身のブランドから高額なスニーカーを発売しましたが、これも日本で大人気になり即完売しました。

ほかにも、村上隆ともコラボするデザイナーのヴァージル・アヴローがナイキとのコラボスニーカー販売し、オンラインストアで秒殺の勢いで完売に。ラッパーとしてピュリツァー賞を初めて受賞したケンドリック・ラマーは、かつてリーボックとスポンサー契約を結び、現在はナイキと契約しコラボスニーカーを販売しているなど……。近年のファッショントレンドである“ラグジュアリーストリート”にも、スニーカーカルチャーは深く関わっています。

鑑賞前に知っておきたいスニーカー用語

『キックス』/12月1日(土)より、渋谷シネクイントにてロードショー ほか全国順次公開/(c)2016 FIGHT FOR FLIGHT, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

先ほども登場した「コラボ」とは、一般的な意味と同じ“コラボレーション”のことを指すものですが、特にスニーカー業界では「スポーツブランド」と「アーティスト」、または「別のブランド」が組んで販売する限定スニーカーのことを指します。

他にもスニーカー用語で知っておきたいものといえば、色の組み合わせを意味する「カラーウェイ」。後は、特定の小売業者に販売されるリミテッドエディションでも、特にナイキのモデルを指す「クイックストライク」などでしょうか。こうした専門用語を知っておけば、誰かと『キックス』を観に行ったとき、ちょっと通ぶれるかもしれませんね。より作品の世界に入り込むこともできそうです。

『キックス』/12月1日(土)より、渋谷シネクイントにてロードショー ほか全国順次公開/(c)2016 FIGHT FOR FLIGHT, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『キックス』では冴えない少年ブランドンがスニーカーを奪われたことで、「男らしくある」という考えから、暴力による復讐を決意します。

かつて日本でも1990年代にスニーカーの価格が高騰し、「エアマックス狩り」など、スニーカーの盗難が社会問題になりました。海外でもレアなスニーカーを手に入れるのは至難で、所有するものは優越感に浸れますが、持つことができないものは劣等感に苛まれます。そのため、一説によるとアメリカでは毎年スニーカーを巡り、20人以上の死者が出る盗難事件が発生していると、『スニーカーズヘッズ』では語られていました。

本作の監督ジャスティン・ティッピングも、若かりし頃にスニーカーを奪われたという経験の持ち主。そうした半自伝的要素も、この作品には含まれています。果たしてブランドンを取り巻く人々は、奪われたスニーカーを巡って、どのような結末を迎えるのでしょうか? スニーカーから生まれる人間関係の行方を、ぜひ映画館で見届けていただけたいと思います。

(文/Jun Fukunaga@H14)