まもなく12月25日、毎年暮れの恒例“クリスマス”がやってくる。

戦後になってお祭り行事として一気に流行り出した日本はともかくとして、キリスト教の本場ともいえる西洋では、いかにしてクリスマスは現在のような盛り上がりを示していったのか?

その真相を伝えてくれるのがバハラット・ナルルーリ監督による映画『Merry Christmas!~ロンドンに奇跡を起こした男~』(現在公開中)である。

Merry Christmas!~ロンドンに奇跡を起こした男~ ポスター

邦題のサブタイトルにある“奇跡を起こした男”とは、この映画の主人公チャールズ・ディケンズのこと。チャールズ・ディケンズといえば、『クリスマス・キャロル』『オリヴァー・ツイスト』『大いなる遺産』などで知られる19世紀イギリスが生んだ大作家だ。

つまり、チャールズ・ディケンズがいかにクリスマスを盛り上げることに貢献したのかを、本作は見事なまでのファンタジーとして描いた快作なのだ。

ディケンズ起死回生のクリスマス小説。その執筆部屋に現れた人々とは?

『Merry Christmas!~ロンドンに奇跡を起こした男~』の舞台は1843年10月のイギリス、ロンドン。

このところスランプに陥って調子が出ない作家チャールズ・ディケンズ(ダン・スティーヴンス)は、愛する家族の生活のためにもベストセラーを生み出そうと、かなり焦りがちである。

やがて彼はアイルランド人メイドのタラ(アナ・マーフィー)が子どもたちに聞かせていた「クリスマスイヴはあの世の境目が薄くなり、精霊たちがこの世にくる」といったお話に触れた矢先、偏屈な老人と出会い、彼にインスピレーションを得たクリスマス小説『クリスマス・キャロル』のアイデアを思いつき、それを12月に出版することでブームを呼び起こそうと画策。

しかし、クリスマスまであと6週間しかなく、当時の出版界ではクリスマスの本は売れないというジンクスもあり、なかなかGOサインが出ない。そんなディケンズが書斎で主人公の名前をスクルージと閃いた瞬間、あの偏屈な老人=スクルージ(クリストファー・プラマー)が突然彼の前に現れた……。

Merry Christmas!~ロンドンに奇跡を起こした男~

やがてディケンズはほとんど自費出版に近い形で『クリスマス・キャロル』の執筆に入るが、書き始めるとスクルージをはじめ、後に小説のキャラとなっていく者たちが次々と部屋に現れては助言をしていく。

一方ディケンズの家に、彼が苦手とする父(ジョナサン・プライス)がやってきたことで、執筆のストレスに拍車がかかり、どうにもイライラが収まらない日々が続いていく。しかし幼い日、トラブルメーカーの父によってもたらされた忌まわしき過去の数々もまた、ディケンズの心の中の「この世とあの世の境目」をなくしていくのであった……。

Merry Christmas!~ロンドンに奇跡を起こした男~  クリスマス・キャロル由来

ディケンズの心の闇とファンタジーが見事に融合

『クリスマス・キャロル』とは、人間嫌いで金のことしか頭にない強欲な実業家スクルージが、クリスマス・イヴの夜に過去と現在、そして未来と3人の幽霊と対峙して……といった物語。

イギリスやアメリカでは定期的に映像化もされており、中でもアルバート・フィニーがスクルージを演じたロナルド・ニーム監督版(1970年)や、マイケル・ケインがマペットと共演した『マペットのクリスマス・キャロル』(1992年)あたりが有名か。最近ではロバート・ゼメキス監督の3DCG作品『Disney’sクリスマス・キャロル』(2009年)も作られている。ディケンズ原作の現代版ともいえるビル・マーレイ主演『3人のゴースト』(1988年/リチャード・ドナー監督)も当時大ヒットした。

しかし、今回ここで描かれるのは『クリスマス・キャロル』創作秘話ともいえるもので、実際のチャールズ・ディケンズもかなりのバイタリティの持ち主ながら、その分闇も背負ったクセモノでもあったようだ。

Merry Christmas!~ロンドンに奇跡を起こした男~ チャールズ・ディケンズ

ダン・スティーヴンス演じるチャールズ・ディケンズ

ディケンズが幼い日に重労働を強いられていたという過去が『オリヴァー・ツイスト』の基になっているのは疑いようもなく、また彼にそんな苦痛を味わわせた父親は『デヴィッド・コッパーフィールド』のミコーパーのモデルにもなったとのこと。

そういったリアルなディケンズの心の闇と、『クリスマス・キャロル』の登場人物がまるで亡霊のようにディケンズの部屋に集うファンタジー性は巧みにリンクして、やがて観る者すべてを宗教的贖罪へ導いていくかのような、神々しくも聖なる慈愛に満ちた人生の向かうべき方向を、光で指し示してくれているかのような趣きまで与えてくれる。

Merry Christmas!~ロンドンに奇跡を起こした男~ ネタバレなし

結果として『クリスマス・キャロル』は12月19日に出版され、一大ベストセラーからロング&ロング&ロングセラーと化して現在に至り、ひいてはクリスマスを大いに祝う習慣を定例化させることにも繋がっていく。

それは単にお祭り騒ぎではなく、正しく向かうべき人生の道を示唆してくれる神の存在を、改めて知らしめてくれた小説の功績あればこそなのだろう。

これを観た後の今年のクリスマス・イヴは、クリスチャンではない日本人でも、華やいだ雰囲気の中でも少しばかり心に粛々とした芯が入ったものになるかもしれない。

Merry Christmas!~ロンドンに奇跡を起こした男~ クリストファー・プラマー

クリストファー・プラマーが演じる偏屈な老人スクルージ

映画ファンの目線として最後に一言、スクルージを演じたクリストファー・プラマーの名演は必見以外の何ものでもない素晴らしさ!『ゲティ家の身代金』でもすさまじいほどの存在感を示してくれていたが、本作のスクルージもまた、彼の俳優としての栄光を語る上で欠かせないものになることだろう。

(文・増當竜也)

(C)BAH HUMBUG FILMS INC & PARALLEL FILMS(TMWIC)LTD 2017