「自分が塚本さんの作品に出演するなんて、あまりに雲を摑むようなことだったんです。だから、普段は意識しないし、想像さえしていなかったのですが、心の深層部分ではやっぱり、“いつかはご一緒したい”と切望し続けていたのかもしれませんね」

塚本晋也監督からの初めての、そして念願のオファーの喜びをそう語った蒼井優。“世界のツカモト”が新たなるフィールドへと挑んだ時代劇『斬、』のヒロイン、“ゆう”を演じた。

映画の舞台は、江戸時代の末期。池松壮亮が扮する若き浪人・都築杢之進は、市中から離れた農村に流れ着き、そこで手伝いをしている。“ゆう”は隣に住む農家の娘だ。塚本監督は本作のプロットを書き終えると蒼井のことが浮かび、頭から離れなくなったのだという。

いろんな女性の側面を演じる楽しさがありました

(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

「今までいただいてきた役柄とはまったく感触が違っていて、担うべき要素もいつもより多いなあ、と感じました。“ゆう”は局面ごとにキャラクターが変わっていくんです。難しいけれども、ひとりでいろんな女性の側面を演じる楽しさがありましたね。変わっていくのは決して不可解ではなかったです。人間って驚くほど違う顔を持っていますから。ただ、それを即物的に描き、説明なくトントンと出していく作劇なので大胆だなと思いました」

“ゆう”は杢之進に惹かれているようだが、確かにその内面は複雑で単線には収まりきらない。シーンごとに感情をむき出しにし、倒幕のため、杢之進に京都の動乱への参戦を持ちかける、(塚本監督自ら体現した)“澤村次郎左衛門”という浪人に秋波を送ったりもする。

この台本は映画学校の教材にしてもいいほど

(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

「この台本は映画学校の教材にしてもいいほどで、演じる人の解釈に応じた多彩な表現が生まれるはず。『どんなメソッドで取り組むのか』という問いかけのある台本なんです。私は江戸時代に限らず、血の流れる場において『女性の存在って何なのだろう?』と考えさせられたのですが、観客の皆さんには、自由な捉え方をしてほしいなと思っています。“ゆう”と澤村との関係も、杢之進よりも強い澤村への愛情表現と取るか、杢之進に対する当てつけ、あるいは迫り来る状況に対する自暴自棄としてもいい。それが塚本さんのホンの面白さですね。普通ならば唇を重ねるシーンで“ゆう”は、杢之進の指を嚙んで首を絞めるんですよ。こういう不可思議な行動に見える、表現の持つ余白が全篇素晴らしい! 私は受け手を挑発するような、映画の中の“余白ある表現”が大好きです」

このインタビューの続きは『キネマ旬報』12月上旬号に掲載。今号では映画『斬、』の特集をおこなった。池松壮亮、蒼井優、塚本晋也監督のインタビュー記事などを掲載。(敬称略)

取材・文=轟夕起夫/制作:キネマ旬報社