日本ホラー小説大賞に輝いた「ぼぎわんが、来る」を、『告白』の中島哲也監督が映画化。クセのあるキャラクターたちを多彩なキャストが人間の心の闇を浮き彫りにしていく。そのひとり、育児に疲れている香奈を演じた黒木華が、心が折れそうになりながらも「好き」と言い切る、中島組について語った。

絶対にやりたかった役

Q:「怖いけど、面白い」作品に仕上がっていますが、初めて脚本を読まれたときの感想は?

絶対に出たいと思いました。ストーリーはもちろん、人間関係や岡田(准一)さん演じる野崎の葛藤などに、どんどん引き込まれました。私が演じる香奈も、これまで演じたことのないタイプの母親役ですし、監督が中島さんですから、出たいという想いが強かったです。

Q:前半と後半では印象がガラリと変わる役柄ですが、演技でも意識しましたか?

前半と後半で、演じ方を大きく変えようとは意識しませんでした。ただ、ああいう少し自堕落な部分って、もともと彼女の持っていた要素なのかなとも思うんですね。だから冒頭で秀樹といい夫婦を演じているときも、それは頭の片隅に置いておいて。隠していたものが後半ふっとあらわになってしまうイメージで演じました。

Q:後半は、香奈が毛嫌いしていたはずの母親の顔を彷彿させますが、彼女に近づいていくためにしたことは?

香奈の心の奥底にある部分をどんどん掘り下げて考えました。誰しも相手によって見せる顔は違いますよね。あとは、香奈と同じようにストレスをためていく。ただ、香奈の正義の中では、彼女の行動は間違っていないわけです。だからあえて悪い母親に見えるような芝居をしようとせず、香奈の心情や精神状態を、なるべくシンプルに演じようと思いました。

Q:これまで演じられてきた良妻賢母役とは対極の母親役ですね。

今回のように、人間の弱い部分にフォーカスした現実味のある役は初めてだったので、毎日けっこうツラかったです。わたしがキツく当たるのは演技だと、娘役の3歳児の女の子(志田愛珠)は理解できないままに撮影が進んでいたので、毎日のように泣かれましたし、嫌われて大変でした(苦笑)。私自身、子どもが好きなだけに、泣かれると胸が苦しくなりますし、そういう意味では役と気持ちがどんどんシンクロしていくような不思議な感覚がありました。

中島監督は鬼才ならぬ“鬼”?

Q:ドラマ「獣になれない私たち」の朱里役も話題ですが、イメージを覆す役柄への挑戦はいかがですか?

楽しいです! いろいろな役柄をやらせていただくのは、役者としてすごくありがたいです。今回は、ホラーならではの撮影も経験できました。血まみれになったときは、ホラーっぽくてワクワクしました(笑)。

Q:中島監督は口が悪いと評判ですが、黒木さんも何か言われましたか?

「舞台っぽい」と言われましたが(苦笑)、緊張感があって役者にとってとても刺激的な撮影現場でしたし、楽しかったです。監督は、映画に対する愛がすごくある方だからこそ言ってくださることですし、面白い映画を創りたいという思いが強いからこそ、こだわりもすごい。愛が根底にあるから、何を言われても頑張れる。落ち込むこともありますが、「この人に面白いと思ってもらえるようなものをやりたい」という気持ちになるんです。

Q:中島作品のどんなところに魅力を感じますか?

感覚的な部分もあるので言葉にしづらいですが、映像の切り取り方やアングルが、すごくセンシティブですよね。カッコいいです。

ホラーの次はアクションに挑戦?

Q:岡田さんとは、『散り椿』に続く共演になりますね?

時代劇を演じている時とは全然違う岡田さんが現場にいらっしゃって、「やっと現代で会えましたね」とお話ししました(笑)。野崎役に寄せるために、侍役をやられた直後から筋肉を落としていらして、ストイックな方だと思いました。

Q:格闘技の練習に誘われたことはないですか?

ないです(笑)。アクションはやってみたいですが、生半可な気持ちでは出来ないことですよね。でも『散り椿』の撮影のときには、「ワザのかけ方を教えてください」と聞いたりしました。すごく優しい先輩です。

Q:本作を観て「何よりも人間の闇が怖い」と実感しますが、黒木さんが怖いものはなんでしょう?

わたしは暗いところが苦手です。人がいてくれれば大丈夫ですけど、暗闇にひとり、というのは怖いです。帰り道も、暗い場所はなるべく通らないようにしています。

Q:ホラー映画はお好きですか?

スプラッターや海外ホラー映画は、けっこう観ます。でもジャパニーズホラーは、怖くて観られないんです。畳や天井の隙間に、お化けや幽霊が本当にいるかもしれない、と想像してしまって……。『来る』ももちろんジャンルとしてはホラーかもしれませんが、人間の心の闇や、その関係性の中での恐怖が描かれていて、物語に引きこまれると思います。今まで観たことのないエンターテインメント作品になっていると思いますので、ホラーが苦手な方にもぜひ観ていただきたいです。

メイク:新井克英(e.a.t...)

スタイリスト:早川すみれ(KiKi)

取材・文:柴田メグミ 写真:尾藤能暢