聖人として崇められているロシア最後の皇帝の不倫騒動を赤裸々に描いたことで、プーチン大統領も声明を出すという異例の事態を引き起こした問題作『マチルダ 禁断の恋』が、12月8日に日本公開される。

本国ロシアでは映画公開前から抗議活動が巻き起こり、映画初お披露目の際には出演者たちが身の危険を感じて上映イベントを欠席するなど大騒動となった。一体何があったのか? メガホンを取ったアレクセイ・ウチーチェリ監督が緊急来日し、その真相を激白した。

ロシア全土を巻き込んだ論争に発展!?

ことの発端は、一人の女性国会議員が「聖人を汚していいのか?」との抗議の声をあげたことから。当初ウチーチェリ監督は「編集段階で起こった出来事だったので、私としては『完成作品を観ていないのに何をぬかすか!』とユーモアを持って事態を見守っていた」という。しかしその抗議にロシア正教会も加わったことから、一気におおごとになった。

聖人と崇められている人物のスキャンダルを描くことに対して、抗議が起こることは予想できなかったのだろうか?

「抗議が起こることなど、まったくの想定外。ニコライ2世はロシアを背負って殺されたとして、ロシア正教会によって死後に聖人扱いされた人物だが、存命中に善行を行ったわけではない。私としては欠点も長所もあった同じ人間と理解しているので、優柔不断で思い惑う人間として描いて矛盾はないと思った。逆にそういった面を描くことで人間としてニコライ2世のことを深く理解できる」と抗議側が皇帝ニコライ 2 世に抱く聖人君子のイメージを否定する。

マチルダ 禁断の恋 ネタバレなし

『マチルダ 禁断の恋』12月8日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー
(C)2017 ROCK FILMS LLC.

プーチン大統領も声明を出すことになった

確かにウチーチェリ監督の言う通り、妻子ある皇帝ニコライ 2 世がバレリーナのマチルダに恋い焦がれる姿は、どこか滑稽で人間くさい。それ故にその感情に寄り添うこともたやすい。そもそもうら若きバレリーナのマチルダとニコライ 2 世が不倫をしたのは事実なのだから。

ウチーチェリ監督は抗議の質にも疑問を呈する。本編を観ることなく批判している部分もそうだが「国会議員側は抗議の手紙が10万通届いていると主張したが、警察の調べでは4万通だった。残りの6万通は同じ手紙のコピー。ロシア正教にしても、映画を利用して自分たちの存在をPRしたいという下心が見え見え。まともに取り合ってはいけないと感じたよ」と内情激白。

それでも「裁判を起こされたり、嫌がらせを受けたり、非常に腹立たしい出来事が沢山あった。映画公開前にこれだけの議論を生んだのはロシアでは初。プーチン大統領も声明を出すことになったが、それは非常に中立なもの。抗議主たちは上映禁止を求めたが、政府としては公開禁止にはしないと言ってくれた」と嵐の日々を振り返る。

マチルダ 禁断の恋 アレクセイ・ウチーチェリ監督

公開して内容をジャッジしてもらうことが大切

皮肉なことにこれら騒動は映画の宣伝となり、人々は映画館に足を運んだ。結果的にいい形に還元されたのかと思いきや「観客は芸術映画を観に行くという気持ちではなく、“とんでもないスキャンダラスなものが描かれている”と思って観に来るわけだから、純粋な気持ちで作品を観ていない。これが一番残念で不愉快な出来事といえる。今回の騒動は映画の害。ブラックPR以外のなにものでもなかった」と作品が正当に評価されなかったことが残念そうだ。

これら現象は本作だけに限ったことではない。SNSの浸透で個人の極端な声が大きな意見として取りざたされることも増えた。そこに配慮しての自主規制、コンプライアンスという名のことなかれ主義。そんな現代ならではの忖度風潮にウチーチェリ監督は警鐘を鳴らす。

「国や法律で禁じられるのではなく、一個人や組織による表現や言論に対する統制が強くなってきた傾向がある。これまでの作り手は国家や権力の反応を気にしていたけれど、今では個人や社会的団体の反応を気にせざるを得なくなってきた。法律違反さえしていなければ、公開して観客にその内容をジャッジしてもらうことが大切だと私は強く思う」。

マチルダ 禁断の恋 インタビュー

『マチルダ 禁断の恋』12月8日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー
(C)2017 ROCK FILMS LLC.

ヒモが外れて…衝撃的シーンへのこだわり

一方、抗議運動のなかった日本では、一つの芸術映画として正しく鑑賞されることを期待している。

「マチルダ役は300人以上オーディションをしても決まらなかったけれど、ワルシャワの知人からポーランドの大学を卒業したばかりの駆け出し女優としてミハリナ・オルシャンスカを紹介された瞬間に『彼女だ!』と思った。外見も内面も男性を惹きつけるファムファタール感があった」とキャスティングに自信あり。

見どころは、マチルダがニコライ2世の心をわしづかみにしたバレエでの衝撃的シーンで「あれは本当の話で、彼女の性格と意志の強さを表しているよね。その撮影では技術的にもこだわって、ジャンプした瞬間にヒモが外れてマチルダの大切な部分が思い切り露出するように、わざわざ布にICチップを取り付けたくらいだよ」とこだわりを明かす。この場面、実に“スキャンダラス”。その真相はスクリーンで目撃してほしい。

(取材・文/石井隼人)