渥美清が主演を務め、日本国民に愛された映画『男はつらいよ』シリーズ。全国各地のお祭りで露店を出す“テキ屋”を営む“寅さん”こと車寅次郎を主人公に、全49作品が制作された長寿シリーズだ。

故郷の葛飾・柴又や旅先で、寅さんはワケありの美女に一目惚れするも毎回失恋。寅さんは新たな放浪の旅に出る……という“お約束”の展開が描かれる。

1996年に渥美清が他界し、シリーズが休止してから実に21年。しかし、今年『男はつらいよ』50周年プロジェクトの一環として、22年ぶりの新作『男はつらいよ50 おかえり、寅さん(仮題)』の製作が発表され、2019年12月27日(金)に劇場公開されることが決定した。

来たる新作に備え、これまで“寅さん”とは縁がなかった若い人やシリーズ初心者の方に、抑えておくべき作品をご紹介。ぜひシリーズの門戸を叩く参考にしてほしい!

『寅さん』の起源は連続テレビドラマ

本作はもともと映画ではなく、1968年にフジテレビの連続ドラマとして制作された。人気ドラマだったにも関わらず、最終回で“寅次郎が奄美大島でハブに噛まれて死んでしまう”という衝撃の結末を迎え、日本中から抗議の電話が殺到。その大反響を受けて映画化に繋がった。ドラマから映画へという流れは現在ではおなじみの制作スタイルだが、当時はとても珍しいことだった。

そんな映画第1作目から、シリーズはお盆とお正月に公開される定番作品となり、28年にもわたり愛されるシリーズへと成長する。基本的に1話完結型のシリーズであるため、どの作品から観ても楽しめる作りになっているのも人気の秘訣と言えるだろう。

第1作『男はつらいよ』の公開は1969年。本シリーズは49作品すべてにおいて、俳優・渥美清が主人公の車寅次郎を演じ、“一人の俳優が演じた最も長い映画シリーズ”としてギネスブックにも登録されている。

平成の幕開けとともに始まった入門編『満男シリーズ』

シリーズ初期の寅次郎は、多くの人がイメージする“穏やかで優しい人物”ではなく、ヤクザ者で、暴力的なシーンや警察沙汰になるシーンも描かれているため、想像していた映画と違うと驚く人もいるかもしれない。

そこでオススメしたいのが、第42作『男はつらいよ ぼくの伯父さん』(1989年)以降のシリーズだ。

同作から、物語は甥の満男(吉岡秀隆)が中心となり、彼が学生時代に経験する恋や思春期特有の悩み、社会人になってからの仕事の苦労など、若い世代も共感しやすい成長物語が描かれる。寅次郎の立ち位置は満男の相談相手へと変化し、破天荒な行動もかなりマイルドになっているので、寅さんの良い部分を見つつ、人物像を把握するのにも適しているだろう。

ちなみに最新作では、満男の恋の相手だったヒロイン・泉役の後藤久美子や、彼女のお母さんを演じた夏木マリなども登場することがアナウンスされている。42作目以降を抑えていれば、登場人物の知識とともに、シリーズの空気感も十分に把握できるはずだ。

現代人にこそ観てほしい『寅次郎心の旅路』

平成最初の作品となった第41作『男はつらいよ 寅次郎心の旅路』(1989年)は、現在に共通するテーマが多く盛り込まれている。

作品の冒頭、寅さんの乗った電車が緊急停車する。なんと過労死寸前の男・坂口(柄本明)が、線路に身を横たえて自殺を図ろうとしていたのだ。一命をとりとめた坂口を前に、やさしく諭した寅さんだったが、心底慕われてしまい彼の面倒を見ることに。やがて寅さんに触発された坂口は、有給を取って憧れだったウィーンに行くことにするが、何故か寅さんも一緒に行くことになってしまう。

『男はつらいよ』シリーズは、寅さんが惚れた美女の手助けをするという基本路線はありつつも、回を重ねるごとに社会問題に切り込む描写が増えていった。

本作のテーマは “働きすぎの日本人”。過労死寸前の男に対する「お前がいないと会社潰れちゃうのか? この際思い切って自分のやりたいことをやれ!」という寅さんの言葉は、世代を問わず勇気がもらえる熱いメッセージだ。
平成元年の作品ながら、30年経った今でも多くの人が共感できる作品になっていることも、このシリーズが長く愛されている理由の一つだろう。

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新作に向けて「リリー」登場作品は抑えるべし!

現代人も親近感が湧く寅さん作品を紹介してきたが、2019年に公開される50作目を楽しむために抑えておきたいのが、浅丘ルリ子が演じる “リリー”が登場する作品だ。

リリーは11作目『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』(1973年)、15作目『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』(1975年)、25作目『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』(1980年)、48作目『男はつらいよ 寅次郎紅の花』(1995年)の4作品に登場し、これらは“リリー4部作”と呼ばれている。

このリリーという女性は、寅さんと同様に旅から旅をする生活をしているという境遇もあってか、寅さんと熱烈な恋仲になる。しかし、お互いに意地っ張りな性格のため、いつも喧嘩別れしてしまうのだ。

そんな不思議な関係性が何度も繰り返された結果、ファンはもちろん、監督やキャストからも“寅さんのベストパートナー”として挙げられ、偶然にも渥美清の生前最後の作品となった『男はつらいよ 寅次郎紅の花』にリリーが再登場したことは、奇跡のような出来事として語り継がれている。

最新作である50作目にもゲストとしてリリーが登場。大きなポイントとなっているはずなので、リリー4部作は観ておきたいところだ。

今だからこそ観るべき『男はつらいよ』シリーズ

昭和時代の貧しくも豊かな家族の姿を描いた『男はつらいよ』シリーズ。現代の若い人たちにとっては、遠い過去に作られた古くさい作品に思えるかもしれない。しかし、名優・渥美清が生涯をかけて演じた寅さんをはじめ、豪華キャストたちが粒ぞろいのキャラクターに扮し、作品では現代にも通じる普遍的なテーマがしっかりと描かれている。また、ユーモアも交えながら、追い詰められた人たちの背中をそっと押してくれる、日本が誇る良作なのだ。

最新作の公開は今年末。オリジナルキャスト陣を迎えての新撮パートと、旧作からの名場面を組み合わせた作品になるようで、ファンからは驚きとともに大きな期待が寄せられている。この機会に、紹介した作品をぜひ手に取ってみてほしい。きっと、“フーテンの寅さん”が、あなたの背中をやさしく押してくれるはずだ。

文=畑史進/SS.Innovation.LLC