文=高村尚/Avanti Press

今年、様々なブームを巻き起こしたインド映画界が、笑いと感動の社会派映画を送り出した。その名も『パッドマン 5億人の女性を救った男』。安価で作れる生理用ナプキン製造機を開発し、インドをはじめ18カ国に普及させた男の実話だ。

日本で『バーフバリ』が盛り上がっていた今年3月、インドにいる友人が、「面白かった!」とこの映画を教えてくれた。その際はややいぶかしく思ったものだが、嘘ではなかった。社会問題を扱いながら、笑いあり、歌あり、感動スピーチありと、インド映画の御多分にもれず至れり尽くせり。

では『パッドマン』を、さらに楽しんでいただくためのポイントをご紹介してみたい。

実話の映画化! ラクシュミのモデルってどんな人?

この映画は実話に基づいて作られた。家族や村人に変人扱いされながらも、安価にナプキンを作り出せる機械を発明するラクシュミ(アクシャイ・クマール)のモデルとなったのは、社会企業家アルナーチャラム・ムルガナンダム氏。

アルナーチャラム・ムルガナンダム氏
『パッドマン 5億人の女性を救った男』TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中

1962年に、インド最南部の東側に位置するタミル・ナードゥ州の小さな村で生まれる。農園労働者として働く未亡人である母を助け、14歳で学校を辞めて職に就き、38歳で結婚。そして初めて“生理”の実態を知って愕然とし、製造機を発明する。

映画を観る限り、手先が器用で、機械が動くメカニズムには明るかったよう。頭脳明晰だったと思う。そして仕事を転々とする中で学んだことを、偉業達成に活かした。ムルガナンダム氏は、学校に通わずとも発明できることを証明したわけだが、もちろん教育を受ける機会が、すべての子どもに与えられるにこしたことはない。

演じたのはインドのトップスター、アクシャイ・クマール

奇人変人扱いされながらも、見事実用性の高いナプキンを作り上げるラクシュミを演じたのは、インド映画界のトップスターのひとり、アクシャイ・クマール。

米フォーブス誌が発表する「最も稼いだ俳優ランキング」に、今年ウィル・スミスに次ぐ7位でランクイン。8位にアダム・サンドラー(『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』)、10位にはクリス・エヴァンス(『アベンジャーズ』シリーズ)を控えさせ、インドのスターでは堂々第1位。本作は、日本でいうなら役所広司か渡辺謙が主演している映画というわけだ。

アクシャイ・クマール
『パッドマン 5億人の女性を救った男』TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中

アクシャイの出演作は、マサラカンフー映画『チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ』(2009年)、Netflix発の歴史巨編『ルストムの裁判』(2016年)、SF巨編『2.0』(2018年)など、アクションからコメディ、SF、ヒューマンドラマまで多種多様。優しげな容貌もあって老若男女に幅広い人気を誇る。

『パッドマン』では女性の生理用品のために奔走するが、2017年には嫁いだ妻のためにトイレづくりに奮闘するコメディ『トイレ』に主演(インドでは宗教上の理由でトイレを作ってはいけない地域があるのだそう)。困っている女性の心を鷲掴みにしている。

女性の味方アクシャイだが、そうなったのには、2001年に結婚したトゥインクル・カンナーの存在も関係しているかもしれない。カンナーは元女優で、本作の原作者兼プロデューサーでもある。彼女はニューズウィーク誌のインタビューで、「夫は月経というものが存在することを知らなかったと思う」と答えている。ムルガナンダム氏の偉業を知り、本にしようと努力するカンナーのために、彼もまたいろいろ学んだのかもしれない。

彼女はビッグスターである夫が、ラクシュミ役を演じることに消極的だったとも言っている。彼のイメージを心配したのかもしれないし、スターが出ることで映画の製作費が大きくなってハンドリングできなくなることを恐れたのかもしれない。

しかしそれは杞憂に終わった。アクシャイが主演することで、映画はより多くの人に行き届き、政府をも動かした。インドの知り合いは、「この映画は、インドの社会問題を描いているので、より大衆にアピールするため、エンタテインメント要素を多くしたのだと思います」。それが功を奏した。彼女のメッセージは、「私もこの映画が大好きです」と締めくくられた。

『パッドマン 5億人の女性を救った男』TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中

実際、インドの行政が女性刑務所でナプキンを製造・販売するスキームをつくったり、連邦鉄道省がインド内の200の駅でナプキンが購入・廃棄できる仕組みを構築したことが、『パッドマン』効果として報じられている。

『トイレ』の時も、公開後にトイレの保有率が46%から68%に増加したというから、映画の効果は侮れない。発明コンペの授賞式シーンにカメオ出演するスーパースター、アミタブ・バッチャンのスピーチも、後押ししているのかもしれない。

R・バールキ監督の決断と躊躇

本作の監督は、R・バールキ監督。妻は、『マダム・イン・ニューヨーク』(2012年)を撮ったガウリ・シンデー監督だ。

日本であまり知られていないR・バールキ監督だが、2016年のインド・フィルムフェスティバル・ジャパンで上映された『キ&カ ~彼女と彼~』も、フェミニンな作品。家庭に入ってアートを続けたい男性と、外でバリバリ働きたい女性の恋愛模様を描いている。

インドの監督には珍しいタイプなのではないか? R・バールキは、ガウリ・シンデー監督の『マダム・イン・ニューヨーク』や『ディア・ライフ』(2016年)のプロデューサーでもある。夫婦であり、ビジネスパートナーでもある彼らの関係は、映画の中でラクシュミに、資金集めや販路づくりで協力する、ソーナム・カプール演じる大学教授の美しき娘パリーとの関係ともかぶる。

性教育においては、日本でも授業で性交や避妊という言葉が使われたことで物議をかもす状況だが、インドでは女子が生理について学ぶ機会すら極めて少ないのだという。インドの非営利団体への投資機関NGOダスラの報告書(※)によると、71%の女の子が初潮前に生理を知らず、23%が初潮を迎えると学校を辞め、インドの女性の70%近くが生理用品を買う余裕がないというのが現状(2016年)。

カンナーから、監督にオファーされたR・バールキは、実在の人物をきちんと描くことができるのか自信がなかったというが、こんな機会は二度とないと、「24時間経たないうちに返事をした」と言っている。この映画が製作されて、本当によかった、と思う。

※Dasra‘s report,Dignity for Herより