1月4日から公開される『ホイットニー~オールウェイズ・ラヴ・ユー』は、1980~90年代に歌手や女優として活躍したホイットニー・ヒューストンの生涯を描くドキュメンタリー映画です。

ホイットニー・ヒューストンといえば、『ボディガード』(1992年)でヒロインを演じ、同作の主題歌「オールウェイズ・ラヴ・ユー」が世界的な大ヒットを記録したことで、日本でも広くその名を知られた存在です。本作はそんなポップス史上に燦然と輝く奇跡のミューズとして認知されながらも、不慮の事故による最期を迎えた彼女の知られざる素顔に鋭く、フェアに迫っています。

しかし、なぜ彼女の名曲「オールウェイズ・ラヴ・ユー」は、そこまで世界を熱狂させたのでしょうか? それを知るためにも、今回は映画を観る前に知っておきたい、彼女のキャリアを振り返ってみたいと思います。

ホイットニーは音楽一家出身

『ホイットニー~オールウェイズ・ラヴ・ユー』/(c) 2018 WH Films Ltd

ホイットニーにとって音楽とは、物心ついた頃から身近にあるものでした。音楽一家に生まれた彼女は、幼少の頃から有名な音楽家に囲まれて育ちます。

母親のシシー・ヒューストンは、1960年代に活躍したボーカルグループ「スイート・インスピレーションズ」のリード・ボーカルで、エルヴィス・プレスリーやアレサ・フランクリンのバックコーラスを務めたこともありました。特にアレサ・フランクリンとは血縁関係こそないものの、本当の叔母のように近しい間柄の“名誉叔母”。さらに従姉妹には名ソウルシンガーのディオンヌ・ワーウィックと、ホイットニーはソウル、R&B界のサラブレッドだったのです。

ちなみに、「小さな願い」という同じヒット曲をもっているアレサとワーウィックですが、かつてホイットニーを巡って対立したことがあります。ホイットニーの葬儀で、ディオンヌがアレサを「ホイットニーのゴッドマザー(名付け親)」と紹介したようですが、その後にホイットニーの母親がそれを否定。アレサはこれを名誉毀損だと感じ、ディオンヌに中傷されたとの主張をAP通信を通じて行っています。

不世出のディーバとして語り継がれる存在に

ホイットニーの音源の世界累計セールスは、アルバムが1億4,000万枚以上、シングルが5,000万枚以上を記録しています。これはアメリカのRIAA(アメリカレコード協会)によって、「アメリカの女性アーティスト史上4番目のセールス記録をもつ歌手」と認定されました。また、音楽メディア『ローリングストーン』や『Q』誌の選ぶ、“歴史上最も偉大な100人のシンガー”にも選出されるなど、世界のポップミュージック史にその名を残す存在です。

彼女のシンガーとしての魅力は圧倒的な歌唱力。地声から生まれるパワフルな歌声には、マライア・キャリー、そしてビヨンセも影響を受けたと話しています。今年、放送されたJ-WAVE「MITSUBISHI JISHO MARUNOUCHI MUSICOLOGY」では、女優で歌手の新妻聖子が、裏声初心者は音程の高さに合わせて裏声でいくかいかないかを決めるところを、彼女は音程が下降するところで裏声を使っているなど、常人には真似できないことだと、彼女の地声と裏声の切り替えのすごさを語っています。

そんなホイットニーの歌唱力のすごさがわかる、今なお語り継がれる伝説のパフォーマンスが、1991年のスーパーボウル開会式での国歌斉唱です。この時の圧倒的なパフォーマンスの映像をABC Newsが公開していますが、集まった観衆が彼女の歌声を聴き、まさに心がひとつになるかのように歓声をあげる様は、神がかっていました。

素人目にも存分に伝わるその歌唱力の凄さ。ミュージシャンでブラックミュージックに造詣が深い西寺郷太も自身の連載で、ホイットニーの歌唱力は「歌のうまさが条件だった1960~70年代型ソウルシンガーが辿り着いたひとつのゴール」と評しています。

オールウェイズ・ラヴ・ユーとは?

ホイットニーは女優として、『ため息つかせて』(1995年)、『天使の贈り物』(1996年)など、数々のヒット映画に出演しています。しかし、やはり彼女の代表作はといえば、女優デビュー作になった『ボディガード』でしょう。

主題歌の「オールウェイズ・ラヴ・ユー」は、当時アメリカの「Billboard Hot 100 Chart」で14週に渡って第1位を獲得。ホイットニーが死去した2012年にも再びチャート入りし、同じ曲で違う時期にTop3入りを果たすという珍しい記録をもつ2人目のアーティストになっています。日本でもオリコン洋楽シングルチャートで、1993年1月11日付から27週連続1位を獲得。その年のオリコン年間洋楽シングルチャートの1位にもなっています。

また、賞レースでも無類の強さを発揮しており、グラミー賞、アメリカン・ミュージック・アワード、ワールド・ミュージック・アワード、MTVムービー・アワードなどの賞を総なめ。アメリカではこれまでに400万枚以上のセールスを記録しました。

なお、日本のTV番組などでは、よく愛の告白シーンのBGMとして使われていますが、その歌詞の内容は「愛しているけれど、あなたの邪魔になるだろうから去っていく」というもの。『ボディガード』の主人公とヒロインのように、結ばれない男女の関係を歌った曲なんです。

ちなみに「オールウェイズ・ラヴ・ユー」はホイットニーのオリジナル曲だと思っている人も多いですが、実は1974年に発売されたシンガーソングライターのドリー・パートンのカバー曲で、元々はカントリーの曲でした。

晩年にはスキャンダルも

『ホイットニー~オールウェイズ・ラヴ・ユー』/(c) 2018 WH Films Ltd

晩年になるとホイットニーは大麻所持で拘束されたことをきっかけに、そのキャリアが凋落していきます。また、亡くなった際にはコカインを使用したことで入浴中に心臓発作をおこし、溺死したという検視結果が出たこともあって、彼女にはスキャンダラスなイメージがありました。

今年、カニエ・ウエストは人気ラッパーのプシャ・Tの新作アルバムで、ある写真を使用したことが大いに物議を醸しました。それは、ホイットニーが薬物依存期にあった2006年に撮影された、薬物が散らばった状態の自宅の洗面台の写真です。これについては元夫で、歌手のボビー・ブラウンは不快感があると音楽メディア『ローリングストーン』のインタビューで告白。また、ホイットニーの遺産管理財団も、この行為に失望したと声明文を発表しています。

映画では世界的な成功を収めるとともに、波瀾万丈の生涯をおくったホイットニーの素顔が、ホームビデオやアーカイブ映像、家族や友人、仕事仲間らの証言をつなぎ合わせながら描かれます。不世出のディーバ、ホイットニー・ヒューストンとは、最後まで幸せを探し続けた無垢な旅人だったのか? それとも、最後は自身の弱い心に負けてしまったのか……。それを確かめに、ぜひ映画館に足を運んでみてはいかがでしょうか?

(文/Jun Fukunaga@H14)