アメリカ映画は主にハリウッドで作られる娯楽重視型の作品と、ニューヨーク(以下、NY)を拠点とするクリエイターたちによる芸術肌の作品に大別する捉え方がある。

特にNYはインディペンデントの面々が現代社会の諸問題への対峙も含めて、自分たちの作りたいものを自分たちで作り上げるといった映画作家的意識が強いようにも思われる。ジョン・カサヴェテスやウディ・アレン、ハル・ハートリーなどNY派の映画作家として日本でも評価の高いクリエイターは数多い。想田和弘監督も現在はNYに在住しながらクリエイティヴな活動を続けている。

今回ご紹介するアナ・アセンシオ監督の『モースト・ビューティフル・アイランド』(1月12日より公開)もそんなNY派ならではの問題作といっていいだろう。

ここで描かれるのは、不法移民の目から捉えたNYアンダーグラウンドおよび、そこに集う人間たちの闇そのものである。と同時に、これからさらに世界中で色濃くなっていくであろう貧富の差や、その中で生きていかなければならない困難を、見事なまでにシンプルな構造で描出した意欲作なのだ。

モースト・ビューティフル・アイランド サブ2

極貧生活を送る不法移民にもたらされた恐怖のバイト

『モースト・ビューティフル・アイランド』の主人公は、NYマンハッタンに住む不法移民ルシアナ(アナ・アセンシオ)だ。割の良い仕事になかなかありつけず、ゴキブリが壁から噴き出してくるようなオンボロ・アパートでの極貧生活を耐え忍ぶ日常には、さすがに疲れが見え始めている。

そんなある日、彼女は友人のロシア人女性から、高額なギャラがもらえる美味しいバイトを紹介される。

それはセクシーなドレス姿で、あるパーティに参加するだけというもの。しかしルシアナが指定された地下室へ赴くと、そこには彼女のような外国人女性が多数集まっていた。

モースト・ビューティフル・アイランド サブ4

そこに謎のマダムが現れてはひとり、またひとりと奥の部屋に女性たちを呼び込んでいく。

奥の部屋でいったい何が行われているのか?

不安と恐怖にさいなまれながら、もはや逃げ出すことも不可能。

やがてマダムは、ルシアナに声をかけた……。

モースト・ビューティフル・アイランド

ストーリーそのものはさほど目新しいものではなく、要は地下室の中で繰り広げられる秘密パーティのおぞましき実態と対峙せざるを得なくなったヒロインの恐怖を描いたサスペンス・スリラー。

ただし、パーティの内容そのものを記してしまうとネタバレになるので避けたいところだが、本作はただ単にその域には留まることはないのだ。

貧しき者の心の闇 富める者の心の闇

本作は移民としてNYに暮らすアナ・アセンシオ監督が、実際に体験した若き日の出来事を基に描かれたものとのこと。

昔も今も、そしてこれからもっと加速していくであろう移民の問題や、それに伴う貧困や差別といった苦難の中で生きてきた彼女は、それゆえの独自のクールな視線でNYを、そして社会を見据えることを体得したのかもしれない。

本作のランニングタイムはおよそ80分で、そのおぞましきパーティの真実が暴かれるのは60分すぎてからというシンプルな構造の中、そこに至るまでのヒロインの日常情景こそがさりげなくもキモとなっている。

モースト・ビューティフル・アイランド サブ1

なぜ彼女は移民の道を選んだのか、そして貧困の中で心が不安定になっていく過程、またそこにもたらされる美味しい話についつい乗ってしまう危うさ、などなどが誰にでも起こり得る等身大の感覚で描かれているあたりが本作の秀逸なところ。

また、だからこそ緊張感に満ちたクライマックスのおぞましさも驚くほど美しく映えわたり、映画的な悦楽まで観る者に体感させてくれるのだ。

今回、宣伝に使われているキャッチコピーが見事なまでに本作の資質を物語っている。

「そこに堕ちれば、生きていける…」

おそらく本作のラストを目の当りにして、大いに共感できる者、反発する者、何が何だかわからずモヤッとした気持ちに包まれる者とに大別されることだろう。

モースト・ビューティフル・アイランド ポスター

しかし、このキャッチコピーを噛みしめながら振り返っていけば、老若男女も国籍も問わず、貧しき立場の人ならば誰もがルシアナのような脅威を一度か二度は体験することになるのではないか? さらには、そこにどう向き合うかでその後の人生も変わっていくことまで痛感させられることだろう。

同時に貧富の「富」=現代社会におけるセレブ層が陥りがちな心の闇まで直視させられ、慄然となること必至である。

「貧」の闇と「富」の闇、どちらに転がっても生きるという行為は恐ろしくもおぞましく、そして切なくも美しい。

それが『モースト・ビューティフル・アイランド』の本質であり、NY派アナ・アセンシオ監督ならではの鋭くも優しく人間を見据えたキャメラ・アイであると確信している。

(文・増當竜也)

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