『マスカレード・ホテル』で初の刑事役を演じる木村拓哉は、ホテルマンとの二面性を感じさせる演技アプローチで観客を魅了する。本作の監督である鈴木雅之と木村拓哉のふたりは、社会現象にもなった1996年のドラマ「ロングバケーション」から「HERO」シリーズ、「PRICELESS〜あるわけねぇだろ、んなもん!~」と、これまで何度もドラマや映画で組んできたという仲。長年にわたって常にトップを走り続けている木村拓哉のキャリアを間近で見てきた鈴木雅之監督だからこそ感じる、“木村拓哉のスターとしての特性”があるとすれば、それは一体どのようなものなのだろう。

刑事とホテルマンのバランス

(C)2019 映画「マスカレード・ホテル」製作委員会 (C)東野圭吾/集英社

「今回は“ホテルマンを演じる刑事を演じる”ということなのですが、単純に二段階に演じ分けるということでもないのがやっかいなんです。あの役は “刑事がホテルマンを演じている”と感じさせなければならないので、基本的に刑事でなくてはならない。その彼がだんだんとホテルマンに見えてくる点が面白いと思うんです。撮影は物語の順番に撮るわけではないので、木村もそこは苦労していました。本番になると『俺、いまホテルマンになってなかった?』みたいなことを聞かれたりして、そこはふたりで確認しながら注意した点ですね」

原作では“三十代半ばぐらいで精悍な顔つきをしている”程度の描写にとどまり、木村拓哉が演じる新田の外見は明確に描かれていない。そのためか、刑事として登場する際に無精髭を生やすことで、ホテルマン時の姿と対比を生み出そうとしているように見える。

(C)2019 映画「マスカレード・ホテル」製作委員会 (C)東野圭吾/集英社

「お客さんは、最初から彼を刑事であると見なくてはならないですよね。だから冒頭は邪魔にならない程度になるべく“やさぐれた感じ”にして、お客さんに認識してもらおうと考えました。それからホテルの制服というのは、ある意味で木村が着こなしてはいけないものなんです。それが悩みの種で、彼はついつい背筋も伸びて、ホテルマンとしてカッコよくなってしまう。それで木村には『綺麗に立ち過ぎているから』というような細かいニュアンスを現場ごとに伝えたのですが、ホテルマンとしてやってはいけないことも現実にある。少しずつ崩していったという感じで、もどかしかったですね」

そういう意味では、たとえば木村拓哉が客室のカードキーをかざす何気ない仕草にも工夫があるように見える。

「カードキーにはホテルのマークが刻印されていますよね。そのマークをなるべく観客に見せようと決めて、あのような動きになったということはあります。ホテルの看板を撮るのではなく、映画の冒頭からコースターをはじめ色んなところに転がっているホテルのマークを見せているんです。それで『カードキーのマークを見せたい』と木村に話したら、ああいう動きのアイディアを出してくれました」

芯がブレないから変えられる

鈴木雅之監督
(C)2019 映画「マスカレード・ホテル」製作委員会 (C)東野圭吾/集英社

かつて『HERO』(2015年)の劇場パンフレットに掲載された鈴木雅之監督と脚本・福田靖との対談の中で、福田は「僕が今まで一緒に仕事をした方の中で、いちばん芝居がうまいと思う」と木村拓哉を評価している。「ロングバケーション」から現在まで見てきた鈴木監督は、木村拓哉の演技をどのように思っているのか?

「木村はブレないんです。役について話し合って、一度決めたらブレない。そこが彼の凄いところだと思います。『ロングバケーション』からの変遷でいうと、実はあまり変わっていないんですよ。その変わらないところも凄い。その役をやることへの歓び、自分が演じることをみんなが認めてくれるかどうかということに対する不安、それが今も変わっていない。現場に来た時には既に出来上がっている感じなんですけど、芯がブレないので『ここをこう変えて』とお願いすれば変えられるんです。それはある意味、芝居の上手さというよりも覚悟の凄さという気がします。自分の考えに凝り固まったりしないので、木村とはキャッチボールができる。彼はアイディアマンなんです。漠然としていますが、彼とは後退せず必ず一歩前に進んでゆける感じがあります」

インタビューの続きは『キネマ旬報』1月下旬新春特別号に掲載。今号では「新しい時代の華麗なる幕開け」という特集で『マスカレード・ホテル』の表紙・巻頭特集をおこなった。木村拓哉、鈴木雅之(監督)のインタビューなどを掲載している。(敬称略)

取材・文=松崎健夫/制作:キネマ旬報社