最近の中国映画界は、海外の映画祭で高評価を得た作品と、エンタテインメント色の強いヒット作という、異なる特徴を持った新世代監督の台頭で二極化している。

『迫り来る嵐』や『象は静かに座っている』(中国公開は未定)は映画ファンから支持されても、本国での興行的成功は期待しにくい。最近はネット配信などでの回収も見込めるとはいえ、作家性、資金調達、市場のバランスを取るのが難しいのはどこの国も同じだ。

ウェブサイト「影視工業網」を運営する北京画外科技が若手監督60人に対して行ったアンケート結果(*)によると、40%が製作中止を経験したことがあると回答。その最大の原因は資金集めの失敗だという。海外からの出資や、映画関連機関、個人投資家らのサポートが入り、なんとか製作されているというのが現状だろう。
(*)「2017 中国青年監督生存状態調査報告」https://107cine.com/stream/97337/

スターや民間企業の映画への出資

『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮)』ビー・ガン監督作品
(C)2018 Dangmai Films Co., LTD, Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD - Wild Bunch / ReallyLikeFilms

例えば、『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮)』には人気俳優のホアン・シャオミン(黄暁明)が出資している。カンヌ国際映画祭に姿を現した黄は、中国メディアの取材に「いい監督、いい作品を支持したい」と理由を語っている。

スターや民間企業の映画への出資については、脱税や資金洗浄が目的だという噂も絶えない。所得隠しの一環として、一時的に登記した会社の名義で作品に投資し、興収から配当を受けるという仕組みらしい。こうした行為が実際に氾濫していたとしても、ファン・ビンビン(范冰冰)の脱税騒動に端を発するスターの高額ギャラに対する管理の強化で、これからは難しくなるのではないだろうか。

資金を集められるプロデューサーの存在

『2018東京・中国映画週間』のため来日したシュー・ジェン(徐崢)さん
写真提供=NPO法人日中映画祭実行委員会

一方、いきなり大ヒット映画を誕生させて華々しいデビューを果たしたのが『ニセ薬じゃない!』のウェン・ムーイエ(文牧野)監督だ。勝因は、庶民にとって切実な問題を上手く取り入れた本人の才能はもちろん、主演も務めたシュー・ジェン(徐崢)と、ニン・ハオ(寧浩)監督(『クレイジー・ストーン 翡翠狂騒曲』)というヒットメーカー2人の目に留まり、プロデュースしてもらえたこと。シュー・ジェンは2012年の大ヒット作『ロスト・イン・タイランド』の監督としても有名で、自身の投資会社を持ち、近年は新人の作品を積極的にサポートしている。2018年だけでも『プレイヤー AorB』『ルームシェア~ 時を超えて君と~』(2018東京・中国映画週間で上映)を製作し、いずれも同年の興収20位以内にランクイン(執筆時点)。ニン・ハオと共に非常勤役員を務める香港上場の映画会社「歓喜」にはチャン・イーモウ(張藝謀)、ウォン・カーウァイ(王家衛)らも参画し、ジャ・ジャンクー(賈樟柯)も契約。商才に長けている。

ジャ・ジャンクー作品などの製作に関わってきたワン・ユー(王彧)氏に2016年にインタビューした際、「中国映画界に欠けているのは(投機目的ではない)プロのプロデューサー」だと語っていた。先に挙げた若手監督へのアンケートでも、「中国映画産業に欠けている人材」という質問に、58%が「プロデューサー」と回答している。まさに『ニセ薬〜』の成功は、若い才能を引き上げ、資金を集められるプロデューサーの存在がモノを言った。

この記事の続きは『キネマ旬報』1月下旬新春特別号に掲載。今号では世界の映画祭を席巻し、日本の4倍ともなった中国の映画市場に焦点をあて「『迫り来る嵐』と、この中国新世代監督がすごい!」という特集をおこなった。

文=新田理恵(フリーライター・編集)/制作:キネマ旬報社

 

『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮)』ビー・ガン監督作品
配給 : リアリーライクフィルムズ他
◎2019年秋公開予定
■父の葬儀のために久しぶりに郷里の貴州省凱里に帰ったルオは、ネオンに彩られた街を歩いていた。過去の記憶が彼の脳裏に断片的によみがえる。別れた恋人とのロマンス、ヤクザとの抗争、命を落とした親友との思い出。やがて、ルオは3D作品を上映中の映画館にふらりと入る…。
★2018年カンヌ国際映画祭〈ある視点部門〉 正式上映
★2018年ニューヨーク・フィルムフェスティバル 正式上映
★2018年トロント国際映画祭〈ウエイブレングス部門〉正式上映
★2018年金馬奨撮影賞・オリジナル音楽賞・音響効果賞受賞
★2018年東京フィルメックス〈コンペティション部門〉正式上映 学生審査員賞受賞

『ニセ薬じゃない!』ウェン・ムーイエ監督作品
◎『2018東京・中国映画週間』にて上映
■インド製強壮剤を売る店を経営している男は、店の家賃も払えず、病気の父親の入院費も滞っていた。そんな彼のもとに慢性骨髄性白血病の患者が現れ、未認可薬をインドから輸入して販売してくれともちかける。薬の密輸は重罪だが、高価な薬が買えない患者たちの命を救い、男は利益を上げるが…。
★2018年中国映画週間 上映
★2018年台湾金馬奨 最優秀主演男優賞、最優秀新人監督賞