1977年に製作され、世界中にホラー・ブームを巻き起こした伝説的作品『サスペリア』が、40年以上のときを経て再映画化された(1月25日より公開)。『サスペリア』は天才肌の監督ダリオ・アルジェントの作風と圧倒的な影響力もあり、リメイクするには難攻不落のものとして永らく神格化されていた。だが、日本でも昨年『君の名前で僕を呼んで』で脚光を浴びたルカ・グァダニーノ監督は果敢にこの試みに取り組み、見事成功させた。

アルジェントと同じイタリア人であるグァダニーノは13歳のとき、テレビで放映された『サスペリア』を目撃、以来、監督にもなっていないのにリメイクを夢見てきたという。ティーンエイジャーの夢の実現は、かくも美しく結実した。

オリジナル版は度数高めのアルコール

アルジェントの『サスペリア』は、見る者を虜にする魔性を感じさせる映像と、深層心理をダイレクトに乱打してくる音楽によって作り上げられた、一種のトリックアートだ。アルコールで言えばかなり度数の高い、ガツンとくる一杯である。その作用は理屈を超えた領域にあるため、真似をするのは容易ではないし、そもそも目指すこと自体が不毛に思える、超然とした代物だった。

ドイツの名門バレエスクールに入団するためにニューヨークからやって来たアメリカ人の若い女性が、寮生活を始めたその学校でとんでもない目に遭う。生徒や関係者の失踪が相次ぐ、深すぎる闇の奥には、どうやら魔女の存在が関係しているらしい……が、これは一言で言えば、お化け屋敷。一人の女の子が迷い込んだラビリンスのような無間地獄で、ひたすらアタフタする姿が、夢と幻想のはざまにあるかもしれない時間の中で描かれた。

それはある意味、一回性の作品と呼んでいい。だから再現は非常に難しい。グァダニーノはリメイクを手がけるにあたって、この稀有な魔術であり美酒であり、魅惑的な密室でもあるオリジナル版をそのままよみがえらせるのではない、別な手法を編み出した。10代の頃からのリスペクトが根底にあるからこそ、そのアプローチは大胆不敵でありながら、どこまでもすがすがしい。

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暗闇でダンス、ダンス、ダンス

まず、リメイク版ではオリジナル版のバレエ学校が、舞踏団に変更されている。バレエ学校にはわずかにあった男性の存在は完全に払拭され、女性だけで織りなされる舞踏団に再設定することで、リアリティが増強された。 

「舞踏」とはコンテンポラリーダンスのことである。バレエの厳格なルールを解き放ち、しかし、別な厳格さを構築したダンスの新しき世界。この着眼点が新生『サスペリア』を象徴している。本作もまたオリジナル版に支配されることなく、別な価値観を提示している。

コンテンポラリーダンス好きなら、舞踏団を牽引する女性の風貌にピナ・バウシュ(ドイツ出身の振付家、舞踊家)を想起するかもしれない。演じる女優ティルダ・スウィントンの存在感とも相まって、ここにはオリジナル版にはなかったカリスマ性が渦巻いている。

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時代設定は変わらず1977年。アメリカからやって来た若いヒロインが奇っ怪な事件に巻き込まれていく展開も踏襲されている。だが、ほぼ女だけの世界が浮き彫りにするのは、別種の恐怖だ。

アルジェント版におけるバレエは、漠然とした美の象徴であり、映画自体はその美をあるときは挑発し、あるときは翻弄する趣があった。グァダニーノ版では、美を構築する集団心理の闇にメスが入っており、その怖さは具体的であり、逃げ場がないとも言える。 

ネタバレに抵触しない範囲で言うなれば、男が存在しない女だけの世界では、上下関係のあり方も、解放も、壊滅も、復活も、滅亡も、ここまで凄まじくなるということに驚かされる。

踊りは、そもそも魔を讃えるための儀式。オリジナル版もそれを体感させたが、本作はそれ以上に、ダンスもバレエも、すべては魔に直結していると直感させる。狂ったように踊る行為を「取り憑かれたように」とわたしたちは表現するが、何が取り憑いているかは言うまでもないだろう。

踊ることで何かが召喚され、召喚されてしまったらもう最後なのだという絶望はしかし、ダンスという身体を駆使することで忘れられもする。そんなエンドレスなループがここにはある。そう、無間地獄は、別なかたちで継承されているのだ。

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夢か幻か。めまいのように襲いかかるオリジナル版に対して、新『サスペリア』は、あくまでも現実的な身体性で勝負する。酔うことすら許されていないノンアルコールの謎の飲み物。覚醒そのものを呼び起こす濃厚さは、新世紀ならではのエナジードリンクのごとく屹立している。

(文/相田冬二@アドバンスワークス)