2019年が始まったばかりの中、全世界で大ヒットを記録し、早くも今年の最高傑作との呼び声も高い『アクアマン』が、2月8日(金)より公開となる。

監督を務めたのは、サイコスリラーの傑作『ソウ』(2004年)で注目され、41歳にしてハリウッドで最も新作が待たれる監督の一人となったジェームズ・ワン。超低予算映画から200億円を超える超大作まで、彼の手にかかればたちまち大ヒット作が生み出される。

アクアマン

『アクアマン』(C) 2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved “TM &(C)DC Comics”

そこで今回は、これまでのワン監督の歩みを振り返りつつ、期待の超大作『アクアマン』の魅力をご紹介! 名前は聞くけどよく知らないという人は、ぜひこの機会にチェックしていただきたい。

ハリウッドに叩きつけた新たなる才能の証

11歳で映画監督を志したジェームズ・ワンは、大学生の時に『ソウ』で共同脚本と主演を兼任することになるリー・ワネルと出会う。

意気投合した彼らは、「バスルームに2人の男が囚われるが、助かるには1人がもう1人を殺さなければならない」というシンプルな設定を思いつく。そこから書き上げた脚本が『ソウ』だった。

2人は当時無一文だったが、その脚本を売ることはなく、あくまで自分たちが作品を作ることにこだわった。そこで2人は、自分たちの能力を示すために、脚本の中でもインパクトが強いシーンを短編として撮影。2人はそのDVDと脚本を手にハリウッドへ乗り込む。それはすぐさま映画スタジオの目にとまり、『ソウ』は構想開始からわずか2年で撮影にこぎつけることになる。

全世界を驚愕させたサイコスリラー『ソウ』

『ソウ』の製作費はわずか120万ドル、撮影はたったの18日間で行われた。しかし、『セブン』(1995年)を思わせる圧倒的な映像センスと、『キューブ』(1997年)を彷彿とさせる殺人ゲームが話題となり、サンダンス映画祭で圧倒的な支持を獲得。世界中の映画配給会社から買い付けが殺到した。

冒頭の状況説明における巧みな演出、少しずつ明らかになる登場人物の素性、そしてヒントを与えながらも観客の想像を超えた結末へと導く演出手腕は見事の一言。観客は映画を観終わった後、誰かにしゃべりたくなる衝動を抑えきれず、口コミから広がった人気は全世界規模の現象へ。無名監督によるインディーズ作品は、全世界で製作費の約100倍にあたる1億ドル(※)を超えるヒット作となった。

思い通りに作れないメジャースタジオ作品

一躍注目の映画人となったワン監督だが、『ソウ』の続編は監督せず、2007年に腹話術人形が主演のホラー『デッド・サイレンス』、そして復讐映画『狼の死刑宣告』というメジャースタジオ作品を連続で監督する。どちらも20億円を超える予算が投じられ、一定の評価は獲得したがヒットには至らなかった。

当時ワン監督本人も語ったように、映画がヒットするためには、『ソウ』のように、原案から編集に至るまで彼が全権を握ることが必要だった。しかし、ハリウッドのメジャースタジオ作品ではそうはいかない。そんなジレンマを抱え、思うように作品がヒットしない時期が続く。

時は経ち2011年。初心に帰った彼はリー・ワネルと再びタッグを組み、『ソウ』同様に超低予算で全権が与えられたインディーズホラー『インシディアス』を監督し、またしても大ヒットへと導く。これで勢いに乗った彼は、再びメジャースタジオ作品に挑戦する。

『死霊館』の大ヒットとホラー監督としての苦しみ

2013年、『ソウ』から数えて5作目の監督作となったのが『死霊館』だ。

田舎の一軒家で悪霊に悩まされる家族の姿を描くという、ホラー映画では使い古された設定の本作。そんなありふれた題材ながら、ワン監督お得意の異常なまでの恐怖演出が炸裂し、実話ベースであることも手伝って圧倒的な恐怖を堪能できる作品に仕上がった。

恐怖映像が評判を呼び、本作は全世界で3億1,000万ドル(※)以上の興行収入を記録。ワン監督はついにメジャー作品で大ヒットを飛ばし、“ホラーマスター”という称号で全世界から称賛されることになる。

そんなワン監督は、もともとはジャンルに縛られることなく色々な作品に挑戦したいタイプで、自身を「ホラー監督」としか見られないことに悩んでいた。その証拠に、一度ホラー映画からの卒業宣言までしている(その後撤回)。そんななか、ワン監督に意外なハリウッド超大作からオファーが届く。

初の超大作に挑んだ『ワイルド・スピード SKY MISSION』

苦悩するワン監督に『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015年)のオファーが入る。ホラー映画では実績があったが、純粋なアクション映画、それも1億9,000万ドル(※)という莫大な予算がつぎ込まれる超人気シリーズの最新作とあって、ワン監督の起用には懐疑的な声も少なくなかった。また、撮影半ばにして、シリーズの重要人物であるポール・ウォーカーが事故で亡くなるという試練まで発生。撮影は数ヶ月の中断を余儀なくされる。

そんな状況にあっても、ワン監督はこれまでのシリーズを超えるアクション、家族のドラマ、そして亡くなったポールへの敬意に満ちた作品を作り上げ、映画はシリーズ最大のヒットを記録。世界歴代興行収入7位(※)に輝く快挙まで成し遂げた。

彼が持つ確固たるビジョンと演出手腕は、低予算のホラーだけでなく、アクション超大作においても発揮されることが全世界に証明されたのだ。

ジェームズ・ワン監督最新作『アクアマン』

『ワイルド・スピード SKY MISSION』の成功により、ハリウッドでも屈指のヒットメーカーとなったワン監督が次に挑んだのは、現在のハリウッドにおける群雄割拠のコンテンツであるアメコミヒーロー映画。スーパーマンやバットマンが中心となる“DCエクステンデッド・ユニバース”の6作目にあたる『アクアマン』だ。

人間と海底人の女王の間に生まれ、その超人的な力で人助けをしながら暮らす“アクアマン”ことアーサー・カリー(ジェイソン・モモア)が、世界を股にかけた冒険を繰り広げる。

アクアマン サブ1

『アクアマン』(C) 2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved “TM &(C)DC Comics”

昨年12月、日本に先駆けて世界で公開された本作は、中国での大ヒットを皮切りに、全世界で記録的なヒットを続けている。興行収入はすでに全世界で10億ドル(※)を突破、『ワンダーウーマン』(2017年)を超えてDCエクステンデッド・ユニバース最大のヒット作となっている。

ワン監督が「こういう映画を撮るのが目標だった」と語る通り、ジェームズ・キャメロンやスティーブン・スピルバーグ、ジョージ・ルーカスの作品を観て育った彼が描く海底世界の物語は、単なる王位継承ストーリーではなく、超一流のアドベンチャーとバトルが満載。

アクアマン アトランナ

『アクアマン』(C) 2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved “TM &(C)DC Comics”

冒頭から、海底の女王を演じるニコール・キッドマンによる目を疑うようなアクションが炸裂する。『アバター』(2009年)を思わせる美しい海底世界、『インディ・ジョーンズ』を彷彿とさせる冒険活劇、そして海底『スター・ウォーズ』とも言うべき大戦争シーン。

これまでのアドベンチャー映画の傑作を凝縮したようなワン監督の演出は、アクアマン同様、まさに水を得た魚のよう。贅沢この上ないエンターテイメントに仕上がった。

『ソウ』でハリウッドに殴り込み、『死霊館』で実力を示し、『ワイルド・スピード SKY MISSION』でホラーの枠だけに収まる監督ではないことを証明したジェームズ・ワン。本作のヒットによってワン監督は、自身を映画の世界へと導いた3人の巨匠へと近づく道を歩き始めたのかもしれない。

※…Box Office Mojo調べ

文=稲生稔/SS-Innovation.LLC