アメリカ航空宇宙局「NASA」による有人宇宙飛行計画“マーキュリー計画”、そして月を目指した“アポロ計画”は、これまで様々な映画で描かれてきた。しかし、月面着陸を果たしたアポロ11号による偉業の顛末は、TVドラマやドキュメンタリー作品などでは描かれてきたものの、ハリウッドではまだ映画化されていなかった。

そんなアポロ11号の苦難に満ちたミッション、そして人類ではじめて月面に降り立ったニール・アームストロングの半生が、ついに映画『ファースト・マン』で描かれる。監督と主演は『ラ・ラ・ランド』のコンビ、デイミアン・チャゼルとライアン・ゴズリング。

『ファースト・マン』の見どころはもちろん、公開までに観ておきたいNASA宇宙計画を描いた実話作品をご紹介!

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『ファースト・マン』(C)Universal Pictures

月を目指したアメリカ宇宙開発の背景

作品紹介の前に、まずはアメリカ宇宙開発の背景を簡単に説明しておきたい。

宇宙が未知の光景だった1957年。ソ連が世界初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功する。第二次世界大戦後、ソ連と冷戦状態にあったアメリカにとって、この衝撃は計り知れないものだった。極端な話、アメリカはソ連に国土を観察され、いつ核爆弾を落とされてもおかしくなかったからだ。

ファースト・マン NASA 映画

『ファースト・マン』(C)Universal Pictures

焦ったアメリカは宇宙開発に本腰を入れるため、1958年にNASAを創設。米ソによる熾烈な宇宙開発競争の幕が開く。アメリカはソ連に先んじて人類を宇宙へと送るべく“マーキュリー計画”を始動するが、ソ連は1961年4月にガガーリンの乗るボストーク1号で、有人飛行を成功。またしても先を越されてしまう。

プライドを大きく傷つけられたアメリカは、総力を結集して月へと向かうことを決意。月面着陸の技術開発を目的とした“ジェミニ計画”、そして実際に月へと降り立つ“アポロ計画”に本腰を入れていく。

ファースト・マン アポロ計画

『ファースト・マン』(C)Universal Pictures

未知の領域へ挑む男たちの姿を描いた『ライトスタッフ』

有人宇宙飛行計画マーキュリー計画において、アメリカで初めて宇宙飛行士になった7人の男たち“マーキュリーセブン”。彼らの挑戦と孤高のパイロットの姿を描き、今なお傑作として語り継がれている作品が『ライトスタッフ』(1983年)だ。

本作は3時間を超える長尺作品で、前半はアメリカ空軍のチャック・イェーガーが人類初となる音速の壁へ挑戦する姿、後半は7人の宇宙飛行士たちの挑戦がじっくりと描かれる。命知らずなイェーガーの姿はもちろん、宇宙が未知の場所だった時代において、宇宙開発のすべてが手探りだったことに改めて驚かされる。

初の宇宙飛行士と言えば聞こえはいいが、その実体はまさにモルモット同然。彼らは「ソ連より先に」という国策のもと、安全の確信もないまま、果敢にミッションに挑んでいく。

現在に至る宇宙技術は、文字通り彼らの体を張った実験があってこそ。フロンティアスピリッツには敬服するばかりだ。また、本作に登場する7人の宇宙飛行士のうち3名が、アポロ計画にも参加している。『ファースト・マン』に登場する人物もいるので、ぜひ『ファースト・マン』の公開前にチェックしたい作品だ。

マーキュリー計画を陰で支えた女性たち

『ライトスタッフ』ではマーキュリー計画の裏側が描かれたが、さらにその裏で活躍した実在する黒人女性の姿を描いた作品が、『ドリーム』(2016年)だ。

NASAのマーキュリー計画が始まった当初、高性能なコンピューターは存在しておらず、ロケットの発射角度から着陸地点の割り出しに至るまで、宇宙飛行に必要な膨大な計算は人間自身が行っていた。計算間違いは許されないため、別の人が検算する必要があったが、そこに低賃金で駆り出されていたのが、数学が得意な黒人女性たちだった。

本作の主人公は、NASAで働いていた3人の黒人女性たち。確かな能力を持つ彼女たちが、差別と偏見を乗り越え、周囲に認められていく姿は痛快そのものだ。そして何より、彼女たちが宇宙計画の大事な部分を担っていたことに驚かされる。

本作の主人公の一人であるキャサリンは、『ファースト・マン』で描かれるアポロ計画にも参加。もちろん、アームストロングの11号でも重要な役割を果たしている。

アポロ計画の輝かしい失敗『アポロ13』

いよいよ『ファースト・マン』でアポロ11号による月面着陸の瞬間が描かれる。しかし、ハリウッドは人類史に輝く“偉業”の前に、アポロ13号の物語を映画化している。それがトム・ハンクス主演の『アポロ13』だ。

月面着陸という偉業を差し置いて、11号より先にハリウッドで映画化されたのは、ミッション失敗となった13号の物語だ。本作の見どころは、トム・ハンクスをはじめとした実力派キャストによって描かれる、NASAのクルーたちによるチームワークだ。宇宙飛行士たちを無事に帰還させるべく、天才たちがそれぞれの役割に全力を注ぐ姿はプロフェッショナルそのもの。

有名な事故だけに結末は分かっているのだが、それでもハラハラしてしまう演出が素晴らしい。また、忘れてはいけないのが映像クオリティの高さだ。特にロケット打ち上げのシーンは、あまりのリアリティに当時の関係者が記録映像と見間違ったという逸話もあるほど。公開当時は日本でも、様々なテレビ番組で大きく特集された。

ニール・アームストロングの目線から描く月面着陸の裏側

ファースト・マン

『ファースト・マン』(C)Universal Pictures

そして、いよいよ『ファースト・マン』である。監督を務めたデイミアン・チャゼルは、『ラ・ラ・ランド』以前から本作を企画しており、膨大なリサーチと構想の末、映画化にこぎつけたという。

映画はライアン・ゴズリング演じる主人公、ニール・アームストロングのテストパイロット時代から始まり、宇宙飛行士への志願、そしてアポロ計画の任務遂行までが描かれる。最大の特徴は、『アポロ13』とは対照的に、歴史的偉業をベタでドラマティックな物語としては描かず、あくまでアームストロング個人の感情に焦点を当てていることだ。

ファースト・マン クレア・フォイ

『ファースト・マン』(C)Universal Pictures

宇宙飛行士という名誉と引き換えに、彼らは事故で死んでいく仲間たちを見送ることが日常化している。葬式に慣れ、死に麻痺し、彼も家族も精神的に疲弊していく。それでもなお、アームストロングは危険すぎる任務に文句も言わず、プロとして冷静に仕事に臨む。チャゼル監督の『セッション』(2014年)にも通じる、狂気に似たものとして彼の人生が描かれているのが印象的だ。

ファースト・マン 名言

『ファースト・マン』(C)Universal Pictures

また、最新技術を駆使した映像面も抜かりはない。過酷な訓練やミッションは、アームストロングの目線カメラによって描かれる。その臨場感は観客にリアルな恐怖を与えるだけでなく、映画を見終わったあと、いい意味でグッタリすることだろう。

当時、全世界で4億5,000万人以上が固唾を飲んで見つめたという月面着陸の生放送。映画の最後には、誰もが知る“あの瞬間”がついに訪れる。あまりにも有名なアームストロングの第一声はどのように描写され、月面への第1歩はどのように演出されるのか。

文=稲生稔/SS-Innovation.LLC