2018年の年末に最終回を迎えたテレビドラマ『下町ロケット』で、正義感あふれる佃製作所の社長・佃航平を演じきり、視聴者を釘付けにした阿部寛。今や彼が“座長”として存在するだけで作品の信頼度が上がるほど、日本のテレビドラマ・映画界を牽引する俳優となっている。

そんな阿部が大きなチャレンジを果たし、成功を収めた作品として印象深いのが、2012年と2014年に公開された『テルマエ・ロマエ』シリーズだ。古代ローマ人を演じた俳優たちが爆笑を誘ったかと思えば、あったか〜い日本のお風呂の素晴らしさを改めて認識させてくれるなど、冬に観るには最高のシリーズともいえる話題作の魅力を改めてご紹介!

阿部寛が古代ローマ人に!なぜ当たり役になったのか?

「マンガ大賞2010」「手塚治虫文化賞短編賞」をW受賞したヤマザキマリの同名コミックを実写映画化した『テルマエ・ロマエ』(2012年)。阿部寛が古代ローマ帝国の浴場設計技師・ルシウスに扮し、日本の風呂文化にカルチャーショックを受けながらも、上戸彩演じる漫画家志望の真実に助けられながら、ローマ帝国の繁栄のために奔走していく。

古代ローマで暮らす浴場設計技師のルシウス(阿部寛)は、アイデアに行き詰まり失業してしまう。そんなある日、友人に誘われて公衆浴場へ行くが、なぜか日本の銭湯にタイムスリップしてしまう。ルシウスは日本の風呂の文化に感銘を受け、そこで浮かんだアイデアを古代ローマに持ち帰って一躍有名になるが――

トロント国際映画祭にて
Mark Davis/GettyImages

本作の最大の見どころは、なんと言っても阿部が演じた主人公のルシウスが最高におもしろいところだ。

漫画原作の実写映画化となると、「イメージと違う」など、配役について原作ファンから厳しい意見が上がることが多いが、本作を観た誰もが「阿部寛以外のルシウスは考えられない!」と納得したはず。“古代ローマ人を日本人が演じる”という大胆な試みにも関わらず……だ。長身で濃い顔であることに加え、阿部の持つ“真面目さ”が、ルシウスというキャラクターにピタリとハマったことが観客に受け入れられたのだろう。

映画全編でクラシックの名曲が流れ、ローマの荘厳な雰囲気が漂うが、冒頭からお尻を丸出しにし、全裸になることもいとわない阿部が、それにも負けないほどの威厳と品格を醸し出している。

現代日本へとタイムスリップした阿部演じるルシウスは、ケロリン桶や扇風機など、私たちには馴染み深い銭湯グッズに驚きながら、日本の風呂文化に敗北感を味わう。誇り高きローマ人のルシウスが目を丸くし、トイレの温水洗浄便座の威力に恍惚顔を浮かべるなど、“顔芸”レベルの阿部の熱演には爆笑すること間違いナシ。 

また、研究熱心なルシウスはいつだって大真面目なのだが、彼が必死になればなるほど観る方は笑いを堪えられなくなる。ギャグとも思えるルシウスの一挙手一投足を、阿部が大真面目に振り切って演じたことで、そのギャップが笑いを生むことに成功したと言えるだろう。

結果、本作は興行収入59.8億円(一般社団法人日本映画製作者連盟発表)を超える大ヒットを記録したほか、阿部が第36回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞するなど、大きな成功を収めた。

“濃い顔”俳優が大集合!上戸彩のお風呂シーンも話題に

濃い顔と演技を披露した阿部以外の古代ローマ人を演じた面々も個性派ぞろいだ。

第14代ローマ皇帝・ハドリアヌス役に市村正親、次期皇帝候補のケイオニウス役に北村一輝、ハドリアヌスの側近であるアントニヌス役に宍戸開と、日本屈指の顔の濃い役者がズラリ。

彼らが並んだ姿は圧巻だが、なかでもねっとりとしたいやらしさを持つケイオニウスを演じた北村の色気と存在感からは目が離せない。また、本シリーズの舞台挨拶では、毎回「誰の顔が一番濃いか?」と論議を交わすひと幕がお約束となり、観客を楽しませた。

トロント国際映画祭でファンの声援に応じる上戸彩
Mark Davis/GettyImages

その一方で、ルシウスから“平たい顔族”と呼ばれる現代日本人のキャスト陣も豪華だ。

ルシウスと運命的な出会いを果たす山越真実に扮したのは上戸彩。ルシウスに寄せる恋心もいじらしいが、方言混じりのセリフ回しや、お風呂にドボンと落ちるドタバタ劇など、見事なコメディエンヌぶりを発揮。優しさとかわいらしさ、コミカルさなど、絶妙なバランス感覚で真実を演じきっている。ちなみに、“色っぽい!”と話題を呼んだ上戸の入浴シーンももちろん見逃し厳禁。

原作者のヤマザキマリってどんな人?

こんなにおもしろい作品の原作を描いたヤマザキマリって、どんな人なのだろうか?

1967年生まれ、東京都出身のヤマザキは、17歳で絵画の勉強のためイタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で、油絵と美術史を専攻。1997年に漫画家デビューを果たし、歴史についての知識や圧倒的な画力、笑いのセンスを交えた作品が定評となる。

原作者・ヤマザキマリ
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『テルマエ・ロマエ』を描く上では、長期にわたる海外暮らしの経験や、古代ローマの歴史オタクであるイタリア人夫との会話もヒントになったとか。

2014年からは漫画家のとり・みきとの合作で、古代ローマの博物学者にして風呂好きの愛すべき変人、プリニウスの姿を描いた『プリニウス』を連載。再び魅惑の古代ローマの世界に挑んでいる。

大ヒットを受け続編『テルマエ・ロマエⅡ』が公開

奇想あふれる原作マンガの映画化が大成功を収めたことで、2014年には続編『テルマエ・ロマエⅡ』が公開された。新たな浴場建設を命じられアイデアに行き詰まったルシウスが、再び日本と古代ローマを行き交う様を描く。

ユニークな浴場を作り上げ、一気に名声を得た古代ローマ浴場設計技師のルシウス(阿部寛)。彼がグラディエーターの傷を癒やすための浴場建設の命を受けて頭を悩ませていたところ、またもや現代の日本へタイムスリップしてしまう。そこで風呂雑誌の記者になっていた真実(上戸彩)と再会するが、ローマ帝国を二分する争いに翻弄されることになる――

阿部=ルシウスの振り切りっぷりはさらにパワーアップ! 真実が前作では見られなかった勇気と強さを持ち合わせた女性へと成長しており、美しさがより際立っているのも印象的だ。大いに笑ったかと思った矢先に、ルシウスと真実の絆に感動してしまう作品に仕上がったのは、阿部と上戸の演技力と、2人の相性のよさの賜物だろう。

改めて観直してみても、俳優たちのなり切りぶりにニヤニヤが止まらない『テルマエ・ロマエ』シリーズ。ロケ地として、東京都北区の銭湯『稲荷湯』や、日本三大名湯の一つである草津温泉、箱根の小涌園など、人気の温泉地が登場するのも楽しい。

寒い冬に、温かいお風呂に浸かったようにほっこりできる本シリーズの魅力を、再確認してみては?

文=成田おり枝/SS.Innovation.LLC