人生の折り返し地点を目前にした39歳の男3人の葛藤や友情、家族の関係を見つめ、東京国際映画祭で観客賞に輝いた『半世界』。阪本順治監督からオファーを受け、主人公の炭焼き職人・紘役で新境地を拓いた稲垣吾郎が、自身の生きる世界や変化について語った。

まさかの炭焼き職人

Q:「一見ミスマッチ」と監督自身がおっしゃる配役ですが、初めてお話があったときはどんな印象を?

「稲垣くんで映画を撮りたい」という阪本監督とお会いして読んだプロットの時点では、2人の男の話でした。長谷川博己さんが今回演じている故郷に帰ってくる男と、地元の幼なじみの2人です。てっきり僕は帰郷する男を演じるのかと思ったら、まさかの炭焼き職人(笑)。だから最初はビックリしました。紘は自分に対する興味がない。僕はこれまで、紘とは真逆な自意識の強い役ばかり演じてきましたから。

Q:真逆なタイプの紘役に、どのように寄り添っていったのでしょう?

演じるときは特別なことはしないんです。何かのきっかけに役が憑依するということもなくて、段々と馴染んで溶け込んでいく。僕の場合はそういうイメージで、はっきりしたスイッチもないです。何かデフォルメして役をつくろうとすると、やっぱりウソになってしまうので。ただもちろん、演技は独りではできない。今回は三重の伊勢志摩で1か月間ロケをしていたので、“土地”にいざなわれたことが大きいです。秘境みたいな、別世界のような不思議な土地。あそこで生きた時間は夢みたいで、本当に現実なのかなと、台本の中にずっと入っちゃっているような、不思議な時間でした。映画でも、自然の風景や音、空気とか、この土地じゃないと出せないものがすごく美しく描かれています。もちろん共演者の力、スタッフの創る世界観にも助けられました。

紘は近いけど遠い人

Q:東京ご出身の稲垣さんが、紘の人生で感じたことは?

こんな人生もあるんだなと。でもきっとこれが普通で、僕はやっぱり相当、特殊な世界にいるんでしょうね(苦笑)。役柄でも、特殊な世界の人間を演じることが多いので。ただ、世の中はこういう市井の人たちに支えられているのだろうと思いますし、僕は中心の景色しか見てなかったのかなと。中心というのは傲慢に聞こえるかもしれないけど、東京生まれの東京育ちで、子どもの頃から芸能界にいますから。紘のように地元の友だちや幼なじみも僕にはいないので、ステキだと思いました。香取(慎吾)くんや草なぎ(剛)くんは仕事のパートナーなので、ちょっとまた違うんです。

Q:敢えてそういう関係を避けてきたのでは?

そうかもしれないです。俺たち仲間だろ、という感じの暑苦しさは余り好きじゃないです。仕事で毎日新しい人と出会うことがすごく刺激的なので、プライベートでは余り干渉されずに、静かに独りで生きていきたい。それが僕にとってのオン・オフの切り替えなのかも。だから地元の友だちとの同窓会とか、避けてきたかも……余り誘われなかったというのもありますけど(苦笑)。紘たちのような関係に憧れはありますけど、ベタベタはしたくないです。

Q:紘は独りで仕事をこなしますから、その意味でも真逆ですね。

真逆で面白いです。監督は確信犯です。でもどこかで僕の中に土の匂いを感じ取り、汲み取ってくださったのかも。もし僕がこの世界に入っていなければ、紘のように生きていたかもしれないし、近いけど遠い、不思議な感覚がします。魂のどこかで共感できる。僕が家庭を持ったら、紘みたいになる気がします。息子に対してどう接していいかわからない、あのヘタな感じも。うちの父親も僕に対して比較的そうでした。不思議な距離がずっとある(苦笑)。父子ですから、似ているんです。

溺れないように走り続けた

Q:稲垣さんがいま生きているのは、どんな世界ですか?

竜宮城みたいな世界だなと思っていたんですけど、最近はようやく地上へ上陸したような気分です。芸能界ってやっぱりある種キラキラした、ときにギラギラした(笑)世界。本当に刺激が強くて、もし普通にサラリーマン生活を送ったあとに芸能界に入ったら、たぶん溺れちゃうんじゃないかなって。僕は14歳からこの世界にいて順応しただけで、傍から見ると、とてつもない世界なんだといつも思っています。でも最近は環境が変わったこともあり、いままで見えてなかったものが見えてきました。環境や年齢的なものなのか、地に足がちゃんと着いてきたのかもしれない。芸能界とはまるで違う世界に生きる人の役を通じて、気づかされることもすごく多いです。慌ただしい毎日の中で、見えなかったものは確実にありますし、見る暇もないし、逆に見えたら立ち止まってできなくなる部分もある。マグロみたいですね(笑)。溺れないように、走り続けるしかなかった。でもいまは前後左右、360度いろいろ見ながら一歩一歩進めていけているなって。もちろん、いままでのめくるめく時間にはすごく鍛えられましたし、いろんな想いがありますけど、とにかく自分にとってはすごくいいタイミングで、いい作品に出会えたと思います。

Q:最近見えてきた中に、何がありますか?

SNSを始めたことが大きいです。大多数のみなさま、というよりはファンの方ひとりひとりと繋がっていく。コメントや生活、大きく括れば人生を、交換日記みたいに覗かせてもらって。僕らもブログやインスタ(Instagram)、Twitterで発信するようになったので、そのキャッチボールから、いろんな世界が見えてきた。気づけば僕も40代ですけど、ファンの方たちも結婚したり子どもができたり、人生のステージが変わっている。SNSを通じて、いろいろ気づかされることも多いです。

ヘアメイク:金田順子

スタイリスト:細見佳代(ZEN creative)

衣装クレジット:LAD MUSICIAN(ラッド ミュージシャン)

取材・文:柴田メグミ 写真:日吉永遠