カルトホラー映画『ペーパーハウス/霊少女』(1988年)や『キャンディマン』(1992年)で知られるイギリス人映画監督のバーナード・ローズが、なんと日本でサムライ映画を撮った。主演の佐藤健はじめ、小松菜奈、森山未來、染谷将太、竹中直人、豊川悦司、長谷川博己ら人気実力ともに定評のある俳優陣を配して作り上げた『サムライマラソン』(2月22日公開)は、スタッフ・キャストの知名度に恥じぬケミストリー爆発のハイブリッド・ニュー時代劇になっている。

そもそもカルト系ホラー映画監督として認知されているバーナード監督が、なぜ日本でサムライ映画なのか? 当人を直撃した。

サムライマラソン

『サムライマラソン』(C)”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners GAGA.NE.JP/SAMURAIMARATHON

現代の新たなサムライ映画を作れる

スマッシュヒットを記録した『超高速!参勤交代』で知られる土橋章宏による、時代劇小説「幕末まらそん侍」が原作。『戦場のメリークリスマス』、『ラストエンペラー』、『無限の住人』で知られる名プロデューサー、ジェレミー・トーマスが企画&プロデュースを兼ねて、日本のマラソンの発祥といわれる史実「安政遠足(あんせいとおあし)」を舞台に、巨大な陰謀から藩を守ろうとする幕末武士たちの絆と生き様を描く。

オファーはジェレミー直々にバーナード監督にもたらされた。「メールで『日本でサムライ映画を撮らないか?』と。二つ返事で引き受けたよ。というのも私は、1950年、60年代の黒澤明監督らの時代劇映画が大好きだから」と快諾。

イタリア映画界の巨匠セルジオ・レオーネ監督が、黒澤監督の『用心棒』からインスパイアされてクリント・イーストウッド主演の『荒野の用心棒』をクリエイトしたように「サムライというジャンルにアウトサイダー的視点を入れて拡大解釈することで、現代の新たなサムライ映画を作れると思った」と自信をのぞかせる。

ワールドクラスの人柄と演技力を持っている

バーナード監督、実はホラー映画監督という顔のほかに、『不滅の恋/ベートーヴェン』(1994年)、『パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト』(2013年)などの歴史系大作監督という顔も持ち、コスチューム劇はお手の物。国や文化を問わず、歴史ものにはとある共通点があるそうだ。

「それは時代の終末を描くという点。歴史もので描かれる時代の終末とは、現代人にとっての黄金期でもあり、イノセンスの喪失を意味する。イギリスではエリザベス朝、アメリカではワイルドウエストが終わっていく時代、日本では幕末。『サムライマラソン』の舞台も、明治期に突入する時期。武士時代の終わりというカタルシスを感じてほしい」と説明する。

日本人以外が時代劇を作る、と聞くとトンデモ日本文化が描かれてしまうのではないかと不安になるが「これは毎度のことだが、過去の時代を撮る際に私はSF映画を撮るような気持ちで臨んでいる。今回は衣装のワダエミ氏をはじめ、日本文化を知り尽くしている方々とコラボレーション。斬新な視点を入れるのではなく、正しいと思える時代考証の範囲内でロマンチシズムを持ちながら世界観を作り上げるよう努力した」と日本文化へのリスペクトを口にする。

バーナード監督の演出スタイルは、パッション優先。臨機応変に現場で起こったことをカメラで捉えるべく、俳優陣には自由に演技させたという。「素晴らしい日本人俳優に出会えたことが一番の収穫。メインキャスト全員がワールドクラスの人柄と演技力を持っている。撮影は本当に刺激的で楽しかった」と日本人俳優の底力に舌を巻く。中でも竹中直人は「日本語のわからないスタッフでさえも、竹中さんが画面に出てくると爆笑する。竹中さんは言葉の壁を超えるクレイジーな俳優だ」と太鼓判。

サムライマラソン 竹中直人

『サムライマラソン』(C)”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners GAGA.NE.JP/SAMURAIMARATHON

小松菜奈で『キャンディウーマン』を作りたい

ちなみに『キャンディマン』で都市伝説の怪人キャンディマンを演じたトニー・トッドも本作出演を熱望していたそうだが「トッドは身長が2メートル近くある巨人。さすがに彼の体をカバーする生地代を捻出することは難しかった。当時のアメリカ海軍の洋服を再現しようとすると高級生地が必要だからね」とジョーク。その『キャンディマン』は『ゲット・アウト』(2017年)の俊英ジョーダン・ピール監督によるリメイク企画が浮上している。「僕は直接タッチしていないけれど、原案者としてギャラはもらった」と製作は順調のようだ。

バーナード監督自身も「今後もホラー映画を積極的に手掛けていくつもり」とホラー映画を捨てたわけではないようで「日本のホラー映画だと、『リング』や『呪怨』が有名だけれど、私は三池崇史監督の『オーディション』が超傑作だと思う。日本でのホラー映画製作もいいね。小松菜奈で『キャンディウーマン』を作りたい」と意欲的。

サムライマラソン 小松菜奈

『サムライマラソン』(C)”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners GAGA.NE.JP/SAMURAIMARATHON

ホラー映画監督という認知も大歓迎で「1970年、80年代、ホラー映画はポルノ映画と同じような扱いを受けていた。しかし今ではホラーというジャンルに対する観客の捉え方も、社会を映す鏡という風に変わってきた」と分析し「私は以前からホラーというジャンルはパワフルであり、常識や権力などを覆していくアナーキーな力を持っていると信じていた。だからこそ映画というビジネスにおいて、ホラー映画監督とカテゴライズされることは誇らしい」とホラー映画監督魂を再燃させていた。

サムライマラソン バーナード・ローズ

(取材・文/石井隼人)