2001年4月にフランスで封切りとなるや、なんと公開1週間で120万人もの動員を記録。そしてここ日本でも、渋谷のスペイン坂の上にあった映画館シネマライズには連日長蛇の列ができ、まさにミニシアターブームを象徴する大ヒットとなった『アメリ』。アメリの好物の“カリカリのクレームブリュレ”もブームになったほどだ。

パリのモンマルトルのカフェを舞台に、内気で空想癖のある主人公アメリが身近な人々を巻き込んで繰り広げるちょっと変わった人情劇は、またたく間に人々の心をつかんだ。フランスの女優、オドレイ・トトゥを一気にスターダムへと押し上げ、世界中で「アメリ旋風」を巻き起こした本作の魅力について、今改めて振り返ってみたい。

(C)VICTOIRES PRODUCTIONS – TAPIOCA FILMS – FRANCE 3 CINEMA

配役は偶然の出会い!おかっぱ頭のアメリが生まれた瞬間

『アメリ』というタイトルを耳にしたときに、まず真っ先に思い浮かぶのはおかっぱ頭の女の子。今となってはアメリを演じられるのはオドレイ・トトゥ以外考えられないが、実は当初は別の女優がキャスティングされていて、ヒロインの名前も「アメリ」ではなく「エミリー」だったというから驚かされる。

もともとジャン=ピエール・ジュネ監督は『奇跡の海』(1996年)の英国人女優エミリー・ワトソンを想定して脚本を書いていた。しかし、撮影間際にエミリーが個人的な理由で出演できなくなったことから、運命が大きく動き出す。

ある日、街中で『エステサロン/ヴィーナス・ビューティ』(1999年)のポスターを偶然見かけた監督は、オドレイの大きな黒い瞳と無垢な輝き、おどけた雰囲気に衝撃を受け、彼女に会いたいと申し出た。そして出会って10秒も経たないうちに、ヒロインをオドレイに決めたのだ。

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DVDの特典映像には、三つ編み姿のオドレイ・トトゥがカメラテストを受けているシーンが記録され、“アメリ”が誕生する瞬間もうかがえる。ちなみに、フランス版のポスタービジュアルに使用されているアメリのおかっぱ頭は、デザイナーによって後からCGで修正されたものであることも、監督が映像解説で暴露している。

名曲誕生のきっかけは、レコード会社の担当者の忘れ物!?

フランスの作曲家ヤン・ティルセンが手がけた、ノスタルジックなアコーディオンの音色に彩られた劇伴も、『アメリ』の大ヒットとは切り離せない。

またしても、当初依頼しようとしていた作曲家は英国人。しかしある日、車のなかで助手がかけていたヤン・ティルセンの曲を監督が気に入ったことが、あの名曲の誕生につながった。

なんとジュネ監督はその日のうちにティルセンのCDを買い集め、CDの裏に記載されていたレコード会社の番号に電話をかけたところ、日曜にも関わらず担当者がたまたま忘れものを取りに来ていて、電話がつながったのだそう。

その結果、ヤン・ティルセンは『アメリ』のために2週間で10曲も作曲し、さらに他のCDに入っている曲も自由に使う許可まで与えてくれたという。まさに“運命に導かれた音色”と言ってもいいだろう。

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キュートなインテリアは本作のための特別製

音楽とともに『アメリ』の世界観を伝えるうえで欠かせないのが、キュートな美術セットの数々だ。赤い壁紙が特徴的なアメリの寝室に飾ってある絵は、ドイツの人気イラストレーターのミヒャエル・ゾーヴァの作品で、エリザベスカラーをしている犬とアヒルは、映画用に描いてもらったオリジナルなんだとか。

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ちなみに枕元の子豚の電気スタンドも、ゾーヴァのクロッキーをもとに作ったもの。絵画と同様、CGで動く仕掛けが、なんとも言えず魅力的だ。

モンマルトルの観光名所になったカフェは、撮影後にセットに寄せた!?

一方、「カフェ・ドゥ・ムーラン」や「食料品店」など、実在する店舗をロケ地として使用したのも、本作に親近感を与えるうえで大いに効果的だったと言えるだろう。現に、映画の公開後には、舞台となった店がモンマルトルの観光名所として人気を集めた。

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アメリがメニューを反対側から器用に手書きしていたガラスの仕切りや、常連客と店員が“事に及ぶ”トイレの上のピンクのネオン菅は、もともとは撮影用の美術セットだったそうだが、あまりにも訪れた観光客からの問い合わせが相次ぎ、店主が後から用意する羽目になったのだとか。

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『アメリ』が世界的なハッピームービーになった理由

『アメリ』に登場する「金魚の自殺」や「ポケットから零れ落ちるビー玉」など、ファンタジックに感じられるエピソードの多くが監督の実体験に基づいているというのも、この物語にインパクトを与えている理由の一つだろう。とはいえ、もちろんアメリの妄想は創作を加えて肉付けしたそう。ドワーフが世界各地を冒険するエピソードは、衣裳担当のスタッフから聞いた話をもとにしているのだとか。

『アメリ』の登場人物たちは曲者ぞろいで、みなそれぞれ孤独ではあるのだが、映画の作りはとことん前向き。ウサギやクマの形の雲が空に浮かんでいたかと思えば、高鳴る心臓が透けて見えたり、アメリが突如とろけて水になったりと、あちこちに観客をワクワクさせる映像の仕掛けがちりばめられている。

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もともと、『デリカテッセン』(1991年)や『ロスト・チルドレン』(1996年)といった作品では“鬼才”のイメージが強かったジュネ監督。しかし、『アメリ』の構想中に『エイリアン4』(1997年)の監督としてハリウッドから招集され、250人ものスタッフを率いて撮影を行うことに。

ハリウッド大作のプレッシャーを経たのちに、母国フランスで馴染みのスタッフとキャストと共に思う存分楽しみながら作ったからこそ、『アメリ』の放つハッピーオーラが、世界中の人々の心に響くものになったとも言えるのではないだろうか。

(文/渡邊玲子@アドバンスワークス)

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アメリ【廉価版】 販売元:アルバトロス株式会社