ルース・ギンズバーグと聞いてピンと来る人はかなりのアメリカ通でしょう。日本人にはなじみのない名前ですが、彼女はアメリカ史上、2人目の女性最高裁判事になった女性。今年3月15日に86歳を迎えたルースは、1993年に当時のクリントン大統領に最高裁の判事に任命され、今なお現役で活躍しています。

1956年にルースがハーバード大学法科大学院に入学してから、1975年に男女平等を求めた革新的な租税裁判で弁護士として戦うまでの険しい道のりを描いた話題作『ビリーブ 未来への大逆転』が3月22日に公開されます。

(c) 2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC3月22日 TOHOシネマズ 日比谷他 全国ロードショー

ニューヨーク・ブルックリンの貧しいユダヤ人家庭に生まれ、様々な障害を乗り越えて弁護士になったルースは、“働く女性の先駆者”として男女差別に立ち向かい、その不屈の精神で正義のシンボルになりました。ルースの人生を描いた絵本、キャラクターグッズ、エクササイズDVDやドキュメンタリー映画『RBG (原題)』(日本未公開)などが作られるほど、アメリカ・リベラル派の間ではポップアイコンのような存在になっています。

そんなルース・ギンズバーグを演じたのは、『博士と彼女のセオリー』(2014年)でアカデミー主演女優賞にノミネートされ、最近では『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016年)の熱演で世界中を魅了したイギリス人女優、フェリシティ・ジョーンズ。「何年もこういう役を待っていた」と語る彼女にインタビューを行いました。

歯に被せ物をして挑んだ役作り

Q:脚本を読む前は、ルース・ギンズバーグについてどの程度ご存知でしたか?

脚本を読むまで、彼女のことはあまり知りませんでした。しかも、脚本に目を通したときは映画制作そのものがあやぶまれていたので、投資家の気が変わらないうちに早く脚本を読んでプロジェクトを進めなければいけなかったんです(笑)。でも、すぐに素晴らしい脚本だと気づきました。政治的なテーマのなかにユーモアが潜んでいるところが気に入りましたね。

Q:役作りのためにルースにお会いしたと聞きましたが、彼女はどんな方でしたか?

夫マーティンへの愛情がとにかく印象的でした。深い思いやりと愛にあふれた夫婦関係、それこそが、この物語の軸なんだなと。 それから、ルースと一緒に過ごして分かったんですが、彼女にはどこかシャイなところがあるんです。あれほど頭脳明晰でシャープな人柄と内気な人柄が共存している点には驚きました! 同時に、彼女には“今”を目一杯楽しめるところもあり、世間からの人気や注目も自然体で楽しんでいるみたいでした(笑)。

フェリシティ・ジョーンズ

Q:ルースの若い頃の写真を見ましたが、映画内のフェリシティさんによく似ていますね。

古い写真や映画のフィルムを細部まで研究し、色いろなカツラをつけてカメラテストをし、ルースの外見に近づくように努力したんです。カラーコンタクトレンズをつけて瞳の色を同じにしたり、一時的に歯に被せ物をして口の形をそっくりにしたり。また、劇中、年を重ねるにつれて変わっていく彼女の体つきにも似せるよう、できるだけ自分の体つきも変えたり。おもしろいことに、肉体的に似てきたら、心理的にもルースを演じやすくなったんです。

Q:フェリシティさんの繊細な演技はとてもエモーショナルでしたが、あえて抑えた演技をしたのですか?

この作品では、頭で考えて演じるというよりも、ダンスみたいに体を動かすような感じで、ルースになりきることができました。身振り手振り、そして言葉による演技を極力抑えることによって、私のなかのルースが勝手に動き出した感じかな。ルースの意外とメチャクチャな部分も観客の皆さんに感じてもらえたら嬉しいです(笑)。だって、誰でもそういうダメな部分ってありますよね(笑)。

(c) 2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC3月22日 TOHOシネマズ 日比谷他 全国ロードショー

ポップアイコンになったルース・ギンズバーグ

Q:ルースが弁護士や最高裁判所判事として素晴らしい功績を果たしたのは分かりますが、なぜ、リベラル派のポップアイコンになったのでしょう?

まず、彼女の“ブレない”信念が一番の理由だと思います。半世紀以上、自分の信念に従ってキャリアを築き上げてきた彼女の仕事ぶりからは、揺るぎのない“善と悪”のモラルが感じられます。そこに私たちは共感してしまう。 それに、彼女のファッションも理由のひとつかも。ジャッキー・オナシスやアナ・ウィンターのように、数十年ずっと同じヘアスタイルだし、判事が着る黒いローブにさえ、いつもオシャレな襟をつけています 。揺るぎのない信念やモラル、個性、こういったもの全てがルースの人気に繋がっているのかもしれません。

ファッションの変化から学んだ、社会の変革

Q:本作はルースが大学院生だった1950年代から、弁護士になった1970年代までを描いており、この間、女性のファッションにも大きな変化がありました。

50年代の衣装は本当に窮屈で、早く脱ぎたくてたまりませんでした(笑)! 当時のコルセットもナイロン製のストッキングも、本当にきつくて硬くて。保守的な50年代から自由な60年代の衣装に着替えたときは、心身ともに「やっと解放された!」というような感じ! その後、70年代のパンツを履いたときは、本当にパワーがみなぎり、自信がわいてきたような気がしたんですよ! あの当時起こっていた公民権運動や女性解放運動などの社会的な変革を、衣装を通して肌で感じましたね。

Q:つまり、50年代は「古き良きアメリカ」や「アメリカの黄金期」などと称されることもありますが、実際はそうではなかったと……?

50年代はとても保守的な社会で、伝統的にも宗教的にも女性差別は当たり前。女性だけではなく男性でさえもジェンダーに抑圧されていて、マーティンも苦しんでいたんです。そんな中、ルースは自分ではコントロールのしようがない古い価値観に対して、何度も何度も挑み続ける……。「男らしさや女らしさというジェンダーステレオタイプを乗り越えて、人間として尊く生きる」というのも、この映画のテーマです。

素晴らしい夫婦関係を築くには…?

Q:マーティンを演じたアーミー・ハマーとの共演はいかがでしたか?

アーミーは非常に知的で協力的。モントリオールで撮影したんですが、スタッフや彼と一緒にディナーへよく行き、楽しい時間を過ごしました。私たち全員が長期間、家を離れていたので、お互いをよく知り合い友達になれたことは大きな心の支えでしたね。

(c) 2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC3月22日 TOHOシネマズ 日比谷他 全国ロードショー

Q:ルースとマーティンのうち、どちらかが人生の苦境に立たされたときは、もう一人が必ずサポートしますよね。彼らの素晴らしい夫婦関係の秘密は何でしょう?

第一に“愛”かな、やっぱり(笑)。彼らは心の底から本当に愛し合っていたんです。第二に、夫婦がそれぞれの分野において自立し成功していること。だから、お互いの成功に嫉妬したり依存したりすることもなかったんです。第三に、二人共「一人ではなにもできない」ということを自覚していたこと。二人共自分の得手不得手をよく分かっていて、お互いの短所を補い合いました。例えば、ルースは料理が下手だけれど、マーティンは料理が上手だから彼が料理を担当する、というふうに。 相手に期待や依存しないオープンな夫婦関係、そして、自分の人生は自分で切り開くという強い決意があったからこそ、二人の結婚は素晴らしいものだったんでしょうね。

私たちは、強くなることを学べる

Q:ルースはフェリシティさんにどんな影響を与えましたか?

ルース・ギンズバーグはすっかり私のロールモデルになりました! なにか困難にぶつかったときは、「ルースができたのなら、私だってできるはず」とか「ルースならどういうふうに解決するのかな?」なんて今でもよく考えるんですよ。

Q:ルース・ギンズバーグの“強さ”はどこから来るのでしょう?

彼女は強くなることを“学習”したんだと思います。母を幼いときに亡くし、「人生は思い通りにならない」ということを人生の早くに学びました。この出来事はもちろん悲劇でしたが、同時に彼女を強くしたんです。“大きな失望や失敗は傷つくけれど、それを乗り越えれば強くなれるし、成長できる。痛みを知ることで喜びも味わえる。私たちは強くなることを学べるはずだ”と信じています。

今まで仕事を一緒にした女性監督は、たったの4人

Q:まさに女性のために作られたような本作ですが、監督ミミ・レダーも女性ですよね。

役者やスタッフが安心して働ける環境を作ってくれたミミのおかげで、今回、私も役者の境界線を越えて様々なことを提案することができました。 先ほどお話したコンタクトや歯の被せ物も私のほうから提案したんですが、女優が外見を変えることに反対する監督は案外多いんです(笑)。でも、ミミは私の提案をすべてサポートしてくれました。彼女のようにルースの物語に心から共感できないと、この作品を監督することは難しかったはず……。そういった意味では、今回監督が女性だったということは大切だったのかもしれませんね。

フェリシティ・ジョーンズ

とはいえ、基本的には映画監督であることに“性別”は関係ないと思っています。ただ、今まで私が出演した20本以上の映画で、ミミが4人目の女性監督。まだたったの4人なんですよ! 映画産業にはまだまだ変化や変革が必要で、これからも女性の戦いは続きます。でも、私たちは正しい方向に進んでいる。本作を通して、女性でも、自分のやり方でトップに上りつめることができると感じてほしい。そして、数年後には映画産業の男女の比率が50:50になっていることを心から願っています。

取材・文/此花さくや