“真実”を追求し、ブッシュ政権の“嘘”に立ち向かったジャーナリストたちを描いた『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』が3月29日(金)から公開されます。

トランプ大統領が「フェイクニュース」を連発する昨今ですが、こうした“圧力に屈しないジャーナリストの良心”は、アメリカ映画の伝統ともいえるテーマ。今回は過去の作品も含めて、このテーマを追求した実話映画を振り返ってみたいと思います。

メディアの敗北に見た、一筋の光明

『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』のサブタイトルに含まれる“衝撃と畏怖”(これが映画の原題)とは、イラク戦争(2003年~)における軍事作戦名のこと。ブッシュ政権は「サダム・フセインは大量破壊兵器を保持している」という名目で開戦に踏み切りましたが、今ではこれが捏造だったことが明らかになっています。

当時のメディアはこの発表に迎合し、政府の見解を後押しするような記事ばかりが世に出て、権力の暴走を抑える役割を果たすことができませんでした。そんな中、中堅新聞社ナイト・リッダーだけが、政府発表に疑念を抱き、地道な取材を開始します。しかし、9.11テロの直後で、かつてないほど愛国心が高まった風潮の中、記者たちは孤立し、中傷や脅迫にさらされていくのです。

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今作でメガホンを取ったのは、『スタンド・バイ・ミー』(1986年)などを手掛けたロブ・ライナー監督。自ら支局長役で出演するほどの熱の入りようで、結局は開戦を止めることができなかった“メディアの敗北”に対する怒りを浮き彫りにし、その中でも“真実を報道し続けた人々がいた”ということに一筋の光明を見出しています。

そんな彼の考えに共鳴して、ウディ・ハレルソン、ジェームズ・マースデン、トミー・リー・ジョーンズらが出演。記者の妻や恋人役で、ミラ・ジョヴォヴィッチやジェシカ・ビールが共演するという、豪華キャストが実現しました。

ちなみに本作が公開される1週間後の4月5日(金)には、この事態を裏側から描いた『バイス』が日本公開されます。こちらは当時の副大統領ディック・チェイニーを主人公にした、“捏造した側”の物語。続けて観ると、たいへん興味深い事実がわかります。クリスチャン・ベールが特殊メイクで大熱演しているので、その演技にも注目ですよ。

今こそ注目したい、権力に立ち向かう記者魂

“時の政権に挑んだ記者たち”といえば、まず思い出すのが『大統領の陰謀』(1976年)です。アラン・J・パクラ監督が手掛けた同作は、1972年に起きたウォーターゲート事件の真実を暴いたワシントン・ポストの二人の記者、ボブ・ウッドワード(ロバート・レッドフォード)とカール・バーンスタイン(ダスティン・ホフマン)を描きました。

ウォーターゲート事件では民主党のオフィスに、数人の男たちが不法侵入します。最初は窃盗目的と思われていましたが、後に盗聴器の設置が目的だったことが判明。政府が計画に関与していたことが明らかになり、当時のニクソン大統領が辞任に追い込まれました。“ジャーナリズムは誤った行為をした政権をも倒すことができる”という事実は、今こそ注目されるべきかもしれませんね。

その後も、ウッドワードは硬派の政治記者として活躍。ブッシュ政権を批判したほか、近作ではトランプを題材にした話題作『FEAR 恐怖の男 トランプ政権の真実』を発表しています。

また、ウォーターゲート事件には「ディープ・スロート」とよばれる匿名の情報提供者がいましたが、その正体は当時のFBI副長官マーク・フェルトだったことが後に判明。彼を主人公にした映画『ザ・シークレットマン』が、昨年日本でも公開されています。

同じく昨年に日本公開された、スティーヴン・スピルバーグ監督作『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』もまた、政権の嘘を描いた作品でした。

1971年、過去4代にわたる大統領がベトナム戦争に関して国民に虚偽の発表をしていたという機密文書を、ニューヨーク・タイムズが入手してスクープ記事を出します。しかし、時のニクソン政権はタイムズ紙を提訴。出版差し止め命令を出しました。この事態に立ち上がったのが、なんとライバル紙であるワシントン・ポストです。

ポストの発行人にメリル・ストリープ、編集主幹にトム・ハンクスが扮したこの映画で描かれたのは記者魂。ライバル紙に特ダネを抜かれても、悔しさの中で独自の調査を開始。時には他の新聞社とも連携して、政府からの圧力に立ち向かっていきます。普段は競争相手でも、真実を追うという目的は同じ――この心意気が泣かせますよね。

スピルバーグ作品だけに、情報をリークしようとする政府職員、時間に追われながら新聞が出来上がっていく過程がサスペンスたっぷりに描かれ、しっかりエンターテインメントになっていました。ラストシーンでウォーターゲート・ビルにある民主党オフィスを映し、『大統領の陰謀』へ繋げているのも、映画ファンへのサービスでしょう。

アメリカ的な理想を具体化した、記者たちの実話

ジャーナリストたちが闘う相手は、政府だけとは限りません。『スポットライト 世紀のスクープ』(2015年)でボストン・グローブ紙の記者たちが挑んだのは、教会という大きな存在でした。

2001年に同紙の記者たちは、カトリック教会の神父が過去30年間に80人もの児童に性的虐待を与えたという疑惑を探り当てます。ボストンにはカトリック信者が多く、教会は絶大な影響力を持っていました。1年をかけてじっくり取材を続ける記者たちですが、ここでも隠蔽や妨害といった壁が立ちはだかります。しかも、調査が大詰めを迎えた時、あの9.11テロが起きてしまい……。

監督は『扉をたたく人』(2007年)のトム・マッカーシー。マイケル・キートン、マーク・ラファロ、レイチェル・マクアダムス、リーヴ・シュレイバーらが共演した群像劇で、闇に葬り去られようとした真実に、まさしくスポットライトを当てた作品です。

こうしたジャーナリズム映画は、あらゆる苦難に立ち向かい正義と真実を追求する、アメリカ的な理想を具体化した存在です。しかも、実際にそれを成し遂げた人々がいたという点で、誇りも感じることができます。『スポットライト 世紀のスクープ』がアカデミー作品賞に輝いているのも、その表れなのでしょう。

(文/紀平照幸@H14)