厚生労働省の2016年の調査によると、日本の子供の貧困率は13.9%にも及び、7人に1人の子供たちが貧困状態にあり、大学進学率は貧困世帯と非貧困世帯では倍以上の差があるのだとか(※)。

4月6日に公開される『12か月の未来図』は、パリの名門高校から郊外の貧困地域の中学校に派遣されたベテラン教師が、生徒たちとの交流から自分を再発見し、生徒たちもまた学習することの大切さを学び成長していくという物語です。

日本でも移民が増え、都市部と地方の経済格差や教育格差が叫ばれる今、日本が移民大国であるフランスから何を学べるのか――? 本作の脚本/監督を務めたオリヴィエ・アヤシュ=ヴィダルとのインタビューを元に、フランスが陥っている教育問題を探ってみたいと思います。

『12か月の未来図』で浮き彫りになる教育格差

パリの郊外で貧困層の生徒が通うバルバラ中学に、パリの名門高校から派遣された経験豊富な国語教師フランソワ・フーコー(ドゥニ・ポダリデス)。ブルジョワ家庭で育ったフランソワは、バルバラ中学に通う移民の生徒たちの学力とフランス語力の低さに唖然とするばかり。

名門高校なら生徒を叱りつけ保護者を呼びつければそれで解決していた問題が、バルバラ中学では子供の教育に無関心な保護者も多く全く通用しません。さらに、ここの生徒たちは学校で勉強しようがするまいが、自分たちは“貧困層から這い上がることはできない”と決めつけて、学習意欲が全くないのです。

12か月の未来図 サブ1

『12か月の未来図』(C)ATELIER DE PRODUCTION - SOMBRERO FILMS -FRANCE 3 CINEMA – 2017

特に、問題児のセドゥ(アブドゥライエ・ディアロ)は反抗的でフランソワはお手上げ状態。同僚の教師たちも若者ばかりで、フランソワが頼ることもできません。名門高校で培った指導法が通じないと悟ったフランソワは、生徒自身が自らの能力と未来を信じられるようにと意識改革に取り組みます……。

フランスの教育格差の原因は?

フランスといえば大学院レベルまで学費がほとんどかからないので有名。パリにあるソルボンヌ大学で准教授として働く筆者の友人によると、学費は無料で登録料しかなく、学士号の登録料は200ユーロほど(約25,000円/1ユーロ=125円換算)で、修士号の登録料は1年間で300ユーロほど(約37,500円)なのだとか。日本やアメリカの学費と較べると、ほとんど無料と言っても差し支えないほどの低額です。それなのに、なぜ教育格差が起こるのか?

「その原因は、“所得の高い都市部”と“移民の多い貧困地域”の経済格差にありますが、公立校が実施する教師のポイントシステムも一因でしょう」と説明するヴィダル監督。

12か月の未来図 オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督 インタビュー2

オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督

教師のポイントシステムとは?

12歳から18歳までが通う公立学校の教師の赴任先は、フランス政府か地方行政が決定しているのだとか。毎年、退職した教師のポストが空くほか、転任を希望する教師もいます。その空いたポストにどの教師を派遣するかを決定するために使用されるのがポイントシステム。

複雑なアルゴリズムによって成り立っているこのポイントシステムは、簡単にいうと、教師経験年数、現学校での勤続年数、配偶者の居住地域、扶養家族の数、教師としてのパフォーマンスなどで計算されます。ヴィダル監督によると、中でも“教師経験年数”が一番ポイントに加算されるそう。

つまり、経験が少ない若い教師ほどポイントが少ないことから、希望の学校に赴任することができず、教師の間で人気のない貧困地域へ送られるのです。

12か月の未来図 オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督 インタビュー3

「しかし、こういった貧困地域には移民や非フランス語話者が多く、新米教師では力不足なのです。本来は教育難関校にこそ、ポイントの高いベテラン教師を派遣すべきなのに」と語るヴィダル監督。

劇中、バルバラ中学で働く若手教師たちは、生徒を力で押さえつけようとする教師か、自分の教育法に絶望して悩む教師ばかり。生徒に寄り添おうという気力はついえ、問題児を自分の学校から退学させる安易な方法を選ぶようになる若い教師たち……。

公立中学校でも退学になるフランスの生徒

作中、フランソワのクラスの問題児セドゥは、学習意欲が一切ありません。原因は“自分は馬鹿だ”との思い込み。また、その背景には母親の病気という悩みもありました。しかし、フランソワの指導によって、本来はお調子者で明るい彼は、学力を上げていきます。

12か月の未来図 サブ2

『12か月の未来図』(C)ATELIER DE PRODUCTION - SOMBRERO FILMS -FRANCE 3 CINEMA – 2017

ところがある日、セドゥはクラスの遠足先のベルサイユ宮殿でトラブルを起こし、退学を宣告されてしまいます。日本では公立中学を退学になるという話は聞いたことがありませんが、フランスでは珍しくないのだとか。

「公立中学を退学になった生徒を受け入れる公立校はありますが、問題児とみなされた生徒は学校をたらい回しにされることもあり、大きな教育問題となっています。なぜなら、退学者の転校先はさらに環境が悪いこともあり、転校したからといって生徒の素行や学力が改善することは滅多にないからです」と監督。

12か月の未来図 オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督 インタビュー1

この映画を作るために貧困地域にあるモーリス・トレーズ中等学校に2年間通い、生徒や教師と交流したというヴィダル監督は、そこで知り合った生徒や教師をモデルにキャラクターを一人ひとり作り上げました。

そして、生徒の役を演じられるのはプロの子役ではなく本物の子供たちだと確信し、大人の役以外はモーリス・トレーズ中等学校や他の中等学校の生徒を起用したのだそう。そこには、「子供たちの言葉を劇中で発することができるのは子供たち自身のほかにいない」という、真実を追求する元フォト・ジャーナリストとしての監督の信念があったから。

12か月の未来図 サブ4

『12か月の未来図』(C)ATELIER DE PRODUCTION - SOMBRERO FILMS -FRANCE 3 CINEMA – 2017

本作を観ても日本の教育問題を解消する方法は簡単には見つからないでしょう。ですが、移民、貧困、学力低下、教育格差というフランスが直面する社会問題から、私たちは何かを学べるのでは――。

最後に監督はこう語りました。

「画一的な教育法では生徒は救えません。子供たちの学習意欲や学力の低さは彼らの責任ではなく、大人たちの責任です。とりわけ、教師の情熱……これこそが生徒を救うのです」

12か月の未来図 オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督 インタビュー4

(取材・文/此花さくや)

※…『12か月の未来図』公式プログラムより