文=圷 滋夫(あくつしげお)/Avanti Press

今泉力哉監督の最新作『愛がなんだ』の、「が」ってなんなんだ? 例えば「愛“って”なんだ」だったら、「愛とはなにか?」という問いに対する答えをちょっと真面目に描いてみる、みたいな内容って気もするけど、「が」だと恋愛負け組がそこそこ投げやりな感情で「愛なんてどうでもいいや!」的な負け惜しみを吐き出しているのが透けて見えて、けっこう楽しそうでもある。

助詞一つの違いで醸し出される微妙な感情の揺れや軽み

もちろんこのタイトルは原作小説のままだから、原作者で直木賞作家の角田光代がたぶん熟考した末の絶妙なタイトルなんだけど、この助詞一つの違いで醸し出される微妙な感情の揺れとか軽みには、今や“恋愛映画の旗手”とも言われる今泉監督の一連の作品(『サッドティー』『知らない、ふたり』『パンとバスと2度目のハツコイ』など)と共通する空気感がある。

そして今までの作品同様くっつきそうでくっつかない二人の距離感がありながら、今まで描かなかった熱い想いや文字通り二人がくっつくベッドシーンという新境地を引き出したこと、さらには原作に無い映画ならではのシュールで幻想的な映像表現もあって、この二人のコラボはまさに最高のカップリングなのだ。

(C)2019映画『愛がなんだ』製作委員会

“奇跡のコラボ”を生んだプロデューサーの采配

もっとも普段の角田光代の小説は、女性のドロドロした内面をよりシリアスに書いていることが多くて(例えば映画化作品だと『空中庭園』や『八日目の蝉』『紙の月』など)、『愛がなんだ』はいつものテイストとは少し違う明るめのトーンで書かれた作品だ。

しかも今泉監督は実は角田小説をこの企画のオファーを受けるまで読んだことがなかったそうで、初めての作品で本作に出会ったというのは運命的で、“奇跡のコラボ”と言ってもいいんじゃないだろうか。ここは企画の初期段階から今泉監督を想定していたという、本作のプロデューサーの見事な采配に拍手を送りたい!

(C)2019映画『愛がなんだ』製作委員会

男女5人の恋愛観は人間関係のサンプルそのもの

テルコはマモルが大好きで、仕事や友達よりも恋愛を優先してしまう。その極端な恋愛至上主義っぷりがほとんどギャグで笑えるんだけど、マモルにとってテルコは都合のいい女でしかなく、テルコはオレ様男の思わせぶりと気まぐれに振り回されてばかり。

そんなテルコのスゴい勢いで空回りする危なっかしい片思いに、親友の葉子は冷静にダメ出しをするけど、実は葉子も自分の絶対的な信奉者である年下のナカハラを奴隷のようにこき使っている。そしてある時マモルはテルコに、自分が好きなちょっと変わったすみれを紹介するが、なぜかすみれはテルコを気に入って頻繁に誘ってくるようになり、それから謎の三角関係が始まる……。

この5人の男女が見せるそれぞれの恋愛観は、人間観察のサンプルとしてかなり興味深いし、気になる相手へのアプローチの仕方として教えられる所も多い(反面教師としても!)。何より刻々と変化してゆく人間模様のドラマにハラハラさせられて、思わぬ方向に動き始めるそれぞれの恋の行方にドキドキし、まるでユーミンの曲(曲名が分かるとネタバレになるので秘密!)の歌詞のような「そう来るか!」ってラストの展開には思わず唸らされてしまうのだ。

(C)2019映画『愛がなんだ』製作委員会

登場人物には見えず、観客には見える恋の矢印

特に秀逸なのが登場人物5人のキャラ設定で、全員性格がバラバラだから恋愛に対する立場も考え方も態度もまったく違っていて、誰も恋のベクトルが向き合っていない。

でも観客にはそのすべての矢印が見えてるから、今泉作品特有の思わず「あるある!」って頷いちゃうようなリアルでイタいセリフと相まって、いちいちクスクス可笑しく、ニンマリしてしまう極上の会話劇だ。

そして一見イケメンなマモルにも、クールな葉子にも、おとなしいナカハラにも、コンプレックスや不器用で弱い部分があり(もちろんテルコにも!)、実はどこかで繋がっている似た者同士でもあって、むしろ会話のない視線だけのやり取りや、わずかな表情の変化にこそ、胸を揺さぶられて、苦しくなってしまう場面がたくさんある。

(C)2019映画『愛がなんだ』製作委員会

若手実力派たちが織りなす完璧なアンサンブル

そんなグッと心を鷲づかみにする演技を見せる俳優陣は、テルコには映画やドラマはもちろん、舞台でも人気劇団からのオファーが引く手あまたの岸井ゆきの。本作ではなかなか味わい深いラップを披露する不思議なシーンがある。

そしてマモルにはメンズ・ノンノのモデルから俳優に転身した成田凌。以前に今泉監督のワークショップに参加したことがあり、今や映画を中心にメジャーからインディーズ系まで大活躍だ。

葉子にはアイドル・グループの乃木坂46を卒業後は女優として実力を付けて、今泉監督の前作『パンとバスと2度目のハツコイ』では主役を務めた深川麻衣。ちなみに岸井と深川は3月に終了したNHKの朝ドラ「まんぷく」の美人姉妹を演じていた。

ナカハラには大衆演劇の若葉劇団でチビ玉三兄弟の一人として活躍し、赤堀雅秋の監督作『葛城事件』と演出作『流山ブルーバード』で強烈な印象を残した若葉竜也。すみれには独特な空気感でオフビートな笑いを巻き起こし、今やさまざまなジャンルで不可欠な存在となっている江口のりこ。この5人のアンサンブルは完璧だ。

(C)2019映画『愛がなんだ』製作委員会

恋愛という曖昧な感情を、そのまんま描く清々しさ

そして温もりのあるアコースティックな響きからエレクトロニカまで、幅広いジャンルのスコアを聞かせるのはゲイリー芦屋で、若者に人気のHomecomingsが新曲「Cakes」を主題歌として提供している。

また本編のタイトルや途中で挿入される印象的なデザインの文字は、自分の作品の中でも同じ文字を披露している冨永昌敬監督(『ローリング』『南瓜とマヨネーズ』『素敵なダイナマイトスキャンダル』など)が担当した。

恋愛って白黒はっきり分けられるものではなくて、人によって正解も違うものでしょう。そんな曖昧な存在の恋愛を、この『愛がなんだ』はそのまんま描いているのが、むしろ清々しい。ここに出てくる登場人物は、みんなそれぞれ違うやり方でもがきながら恋愛に向き合っている。そんな5人の誰に寄り添うかは、あなた次第なのだ。

(C)2019映画『愛がなんだ』製作委員会