アクション映画『いつかギラギラする日』(1992年)は、今年3月に逝去した“ショーケン”こと俳優・萩原健一(享年68歳)が、敬愛する深作欣二監督の映画に出演した最初で最後の作品だ。

それまでショーケンの代表作である主演ドラマ「傷だらけの天使」(1974〜75年)の演出を深作監督が担当したことはあるが、深作映画に出演するのはショーケンの念願だった。

※一部ネタバレを含みます。鑑賞前の方はご注意ください※

 

深作監督にとって15年ぶりとなるアクション映画復帰作

深作監督と言えば『仁義なき戦い』シリーズが有名だが、ショーケンは「何で僕は『仁義なき戦い』に出られなかったのか」「僕があそこに出てなかったのは自分でも信じられなかった」と語っていたと、深作監督は映画評論家・山根貞男との共著『映画監督 深作欣二』(ワイズ出版)で述懐している。それほどショーケンにとって深作映画への思い入れは深かったのである。

1970年代は『仁義なき戦い』シリーズ、『仁義の墓場』(1975年)を始めとした実録やくざ映画を撮る一方で、『資金源強奪』(1975年)や『暴走パニック 大激突』(1976年)などエンターテイメント性を追及したアクション映画を世に送り出した深作監督。

しかし1970年代後半になると映画産業の斜陽化に拍車がかかり、徐々に大手映画会社が専属スタッフや俳優を雇用する撮影所システムが崩壊。2本立て興行が主流だった日本映画は、1本立て大作が主流になっていく。

深作監督も1980年代は巨匠と呼ばれるようになり、時代劇や文芸作品など大作映画ばかり手掛けてきたため、『いつかギラギラする日』は1977年の『ドーベルマン刑事』以来、15年ぶりとなるアクション映画復帰作となった。

アクション映画の名手たちが一堂に会した映画に

『いつかギラギラする日』の製作総指揮を担当したのは1980年代から数多くのヒット映画を手掛けた松竹の奥山和由。奥山は「深作監督がいたから映画界に入った」と後に語ったこともあるほどの深作ファンであり、やはり深作監督でアクション映画を撮ることを長年夢見ていた。

1989年に奥山が製作した北野武の映画初監督作『その男、凶暴につき』(1989年)も、そもそもは深作監督で始まった企画だったが、スケジュールの折り合いがつかずに流れた経緯もあった。

脚本は『処刑遊戯』(1979年)や『野獣死すべし』(1980年)など、松田優作の主演映画を数多く担当したハードボイルドな作風で知られる丸山昇一が担当。いわばアクション映画の名手たちが一堂に会したのが『いつかギラギラする日』だったのだ。

冒頭に「人間は完全に自由でない限り夜ごと夢を見続けるだろう」というフランスの作家、ポール・ニザンの一節を掲げた本作は、神崎(ショーケン)、柴(千葉真一)、井村(石橋蓮司)の3人組が拳銃を片手に各所で銀行強盗を働き、逃走する様をスピーディーに積み重ねたシーンから幕を開ける。不安定に揺れ動く生々しいカメラワークは、深作監督のアクション映画ではおなじみだ。

時を経て再び集まった3人組は、柴の恋人を通じて知り合った木村一八演じるディスコ店員・角町の手引きで、2億円を運ぶ現金輸送車を襲うことになる。綿密な計画によって無事に強奪は成功するが、アジトに戻ると奪ったジェラルミンケースの中には5,000万円しか入ってなかった。

それでも冷静に神崎が金を山分けしている最中、借金を抱えて血迷った井村が3人に銃口を向ける。すぐさま神崎が説得を始めたところ、最初から裏切るつもりだった角町が発砲してアジトを爆破。井村は即死するも、重傷の柴を抱えて命からがら脱出した神崎は、金を取り戻すべく角町の追跡を開始する。

そこに角町がライブハウス開店のために借金をしたヤミ金融、そのヤミ金融が雇った殺し屋、警察などが入り混じって、壮絶な銃撃戦やカーチェイスが繰り広げられる。

夜の波止場で繰り広げられる日本映画史屈指のカーチェイス

当時すでに40代を迎えていたショーケンだったが、スタイリッシュにガンアクションをこなし、ジャッキーチェンばりのアクションを体当たりで行い、全編に渡ってエネルギッシュに疾走する。

『暴走パニック 大激突』でも白熱したカーチェイスを演出した深作監督は、衝突、横転、破壊、炎上など、アメリカ映画にも引けを取らないスケールアップしたカーアクションを展開。中でもクライマックスでショーケンが乗る車とパトカー20台が、夜の波止場でカーチェイスするシーンは日本映画史に残る名場面となった。

本作は、北海道ロケを敢行したが、連日の雨と幾度にも渡る台風の直撃で撮影日が超過。「あっという間に四億近かった予算が跡形もなく消し飛んじゃって、結局、六億を越したんじゃないかな」と深作監督は『映画監督 深作欣二』で振り返っている。

だが、そうした撮影トラブルも吹き飛ばすほどに、『いつかギラギラする日』は邦画の枠を超えたエンターテイメント性に溢れるアクション映画と昇華した。興行成績こそ振るわなかったものの、ショーケンにとっても深作監督にとっても、年齢を一切感じさせない平成を代表する“夢の映画”となったのだ。

人気コミック原作の映画化が主流の現在、オリジナル脚本のアクション大作を撮ることは困難な時代になったが、驚くほどの豪快さと遊び心に満ちた『いつかギラギラする日』は、令和の時代でも観る人に新鮮な驚きを与え続けるだろう。

(文/猪口貴裕)