フランスで観客動員数250万人の大ヒットを記録した『パリ、嘘つきな恋』が、5月24日より全国公開される。シューズメーカーに勤めるプレイボーイが、とっさに車いす生活者のふりをしてしまったことから始まる恋の行方を描いたロマンティックコメディだ。

監督・脚本・主演を務めたフランスの人気コメディアン、フランク・デュボスクに電話インタビューであれこれ訊ねてみたところ、この映画をより深く理解する上で役立つエピソードが次々と飛び出した。

男性が女性に対して虚勢を張りたがる本当の理由とは?

豪邸に暮らし、独身貴族を謳歌するプレイボーイのジョスランは、亡くなった母親が使っていた車いすにたまたま座っていたところを、隣人の若い美女ジュリーに目撃され、彼女の気を惹きたいがために、「自分は車椅子生活者だ」と嘘をついてしまう。

ある日ジュリーの実家に招待されたジョスランは、あろうことか実際に車いす生活を送る姉、フロランスを紹介されてしまう。なかなか本当のことが言い出せないジョスランは、魅力的なフロランスに次第に興味を抱き始め、引くに引けなくなり、嘘に嘘を塗り重ねていく……というストーリーだ。

(C) 2018 Gaumont / La Boétie Films / TF1 Films Production / Pour Toi Public

設定を知り、「健常者が恋愛のために障がい者になりすますなんて、さすがにデリカシーがなさすぎるのでは?」と一瞬不安が頭をよぎったが、主人公のジョスランが愚かな行動を取れば取るほど、車いすのヒロインや、彼女を取り巻く女性陣の素晴らしさが一層際立つというメリットがある。

デュボスク監督曰く、「女性には敵わないことがわかっているからこそ、男性はみんな虚勢を張りたがるんだ」。

なるほど、そういうことだったのか。ましてや今回は監督であるデュボスクが自ら主人公のジョスランを演じているのだから、その言葉には説得力がある。

頭の固い男性は、ハンディキャップのある女性を受け入れられるのか?

ハンディキャップを持つ異性との恋愛をテーマにしているという意味では、ジャン・デュジャルダンが身長136cmの建築家の男性を演じた『おとなの恋の測り方』(2016年)との共通点も感じられるが、デュボスク監督はその違いをどのように捉えているのだろう。

「あの映画は僕も観たよ。でも『おとなの恋の測り方』は、女性が男性のハンディキャップを受け入れられるかどうか、という物語だから、僕の映画とはそもそも設定が逆なんだ。

僕は、もともと女性は男性よりもオープンで、柔軟性がある生き物だと思っている。だから、女性よりも頭の硬い男性が相手のハンディキャップを受け入れるという意味では、『パリ、嘘つきな恋』の方が、『おとなの恋の測り方』よりも“驚きが大きい”と言えるんじゃないかな」

(C) 2018 Gaumont / La Boétie Films / TF1 Films Production / Pour Toi Public

“嘘つきジョスラン”が生まれて初めて真剣に恋するフロランスは、事故をきっかけに車いす生活を送りながらも、ヴァイオリニストとして世界中を飛び回る、ユーモア精神に長けた快活な美女。

劇中では、フロランスが出場する車いすテニスの試合を、車いす生活者のふりをして観戦に行ったジョスランが、彼女の友人であるハンディキャップをもつエリートたちに囲まれ、タジタジになる場面も描かれる。

「正直あのシーンはカットするか迷ったんだけど、やっぱりこの作品に必要だと判断したんだ。というのも、あのシーンがあることによって、いかにジョスランがハンディキャップについて理解していないか、ということが観客にも晒されるから。

フロランスは見た目が美しくてチャーミングな女性だから、ハンディキャップはあまり目に入らないけど、彼女たちの本質については何も理解していないジョスランが、うっかり馬鹿な発言をしてしまうということを強調したかったんだ」

ジョスランの親友マックスが年上のゲイである理由

プレイボーイではあるものの、女性に対して誠実に向き合ってこなかったジョスランを支えるのが、『ディーバ』(1981年)や『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』(1986年)でお馴染みのジェラール・ダルモン演じる、年上のゲイの友人、マックスだ。

「ジョスランよりもマックスの方が年上で、人生経験が豊富であることがポイントなんだ。つまり、マックスは“賢者”の役割を担っているとも言えるんだ。彼ら二人は年齢も性的志向もまったく違うんだけど、それでも深い友情関係を結べることを証明している。

同性愛者であるマックスは、否が応でも“他者との違い”をすでに受け入れているから、ジョスランにも実体験を踏まえたアドバイスをすることができるんだ。一方、障がい者に対しては無神経な言動をしてしまうジョスランも、マックスに対しては心の扉を開いていて、同性愛には理解を示していることも表している。

もちろん、『パリ、嘘つきな恋』を通じて心理的に成長するのはジョスランに限ったことではなく、登場人物の全員がそれぞれ内なるエボリューションを遂げるんだ」

(C) 2018 Gaumont / La Boétie Films / TF1 Films Production / Pour Toi Public

監督・脚本・主演をすべて一度に担当して発見した感動

これまでも、俳優のみならず、脚本も手掛けてきたというフランク・デュボスクだが、長編映画を監督するのは、今回が初となる。

「僕はこれまでにも脚本を書いたり、俳優として映画に出演したりしてきたわけだけど、なかなか監督するきっかけがつかめなくて、今回も最初は脚本として書き始めたんだ。でも書き進めていくうちに、このストーリーが自分でもすごく気にいったし、映画化するなら、ジョスランを演じられるのは、長所も短所もよくわかっている僕自身かなって思えたんだ。

自分が書いた脚本を自分の手で映像作品として完成させることは、まるで自分の赤ん坊を生み育てるようなものなんだ。今回、この3つを一度に経験してみて、自分が今までどれほど映画業界の人たちに助けられていたのかがわかって、感動したんだよ」

人気コメディアンでもあるデュボスクにとって、自身の監督作品においても、やはり笑いの要素は欠かせないものなのだろうか。

「コメディ映画が撮りたいわけではなくて、ユーモアの要素を注入することで、より多くの人の心に僕が描きたいストーリーを届けることができると思うんだ。真面目なテーマばかりだと窒息しそうになるけど、ユーモアが加わることで、一息つくことができるから」

(C) 2018 Gaumont / La Boétie Films / TF1 Films Production / Pour Toi Public

デュポスク監督の次なる作品は?

最後に、俳優と監督のどちらが自分に向いていると感じたか訊ねてみたところ、こんな興味深い答えが返ってきた。

「役者は20歳の青年を演じ続けることはできないけど、監督・脚本というパートであれば、どちらの性別にもなれるし、いくつになっても20歳の若者の気持ちにもなれるんだ。つまり、一生かけて自分以外の人の人生を演じ続けられるのは、監督業なんだということに気がついた。

実はもう2作目の脚本も書き終えていて、来年撮影する予定なんだけど、正直、デビュー作が大ヒットしたがゆえのプレッシャーも感じている。デビュー作にはビギナーズラック的なところもあるけど、さすがに2作目はそうはいかないからね」

そう電話の向こうで高らかに笑うデュボスク監督が、次回はいったいどんな作品を手掛けるのか、今からとても楽しみだ。

(文/渡邊玲子@アドバンスワークス)